打切支給と退職所得の関係を解説します
- 税務・会計
社員が従業員から役員に就任した場合には、会社との関係は使用人の地位としての雇用契約から役員の地位としての委任契約に切り替わることが一般的です。
役員として新たに委任契約を締結するには、雇用契約を解約し、いったん会社を退職することになります。
これにともない、従業員として勤務した期間に対して退職金が支給される、いわゆる「打切支給」が生じることがあります。
実質的に同一の会社に引き続き勤務するのにもかかわらず、退職所得が発生するのです。
今回は打切支給と退職所得計算時における留意点について説明します。
打切支給とはどんなものか
打切支給とは、引き続き勤務する者に対して一時的に支払われる給与のうち、以下の場合に支給される給与を指します。
- 使用人から役員になった者に、その使用人部分に対する退職手当等として支払われる給与(今回の例はこれに該当します)
- 役員の分掌変更等によって報酬が激減し、その職務の内容や地位が激変した者へ、分掌変更等の前の役員部分に対する退職手当等として支払われる給与
- 退職給与規程等の改正により使用人に退職手当等として支払われる給与
打切支給に該当する場合には、それにかかる給与を退職手当等として取り扱い、個人には給与所得ではなく退職所得として税金が発生することとなります。
打切支給を理解するためのポイント
打切支給は、引き続き勤務する者に対して一時的に支払われる給与であることはすでに説明しました。
より具体的には、上記に加えて支給後さらに支払われる退職手当等の計算上、打切支給の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない場合には打切支給とされます。
これにかかる収入額は、退職手当等として退職所得に分類するものとされています。
つまり、打切支給にあたる場合は退職所得として計算できますが、この退職所得計算に用いる勤続年数(つまり使用人期間に対応する勤続年数)は、再度使うことはできないと考えられます。
したがって、将来役員退任時に支給予定の退職金がある場合には、退職所得の計算上、役員就任時から役員退任時までの勤続年数で退職所得控除を計算することとなりますのでご留意ください。
なお、使用人期間と役員期間の合計を勤続年数としての計算はできません。
打切支給の留意点
会社によっては使用人期間に属する退職金のうち一部は役員就任時に支給し、残りは役員退任時に支給したいという要望もいただきます。
その場合でも打切支給として認められるのでしょうか。
ここでいう打切支給とは、先に説明したように
引き続き勤務する者に対して一時的に支払われる給与の支給後に、さらに支払われる退職手当等の計算上その打切支給の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるもの
とされます。
そのため、以降の退職所得計算で使えなくなる使用人期間の勤続年数に対応するものとしては、使用人分の退職金の全額が支給されることが望ましいと考えられます。
したがって、打切支給は使用人としての退職時にすでに発生している分の全部を支給する場合についてのみ認められることがわかります。
以上により、一部分のみを支給するだけでは打切支給とはなりません。
また、打切支給とは認めらない場合には、退職所得ではなく賞与として給与所得課税されると考えられますので、ご留意ください。
おわりに
今回は打切支給におけるポイントを説明しました。
退職所得に関連する税法規定については今回紹介した打切支給に限らず、勤続年数の数え方をはじめとしたさまざまな間違えやすいポイントがあります。
従業員、役員の退職時の退職所得の計算に不安がある場合には顧問税理士に相談するようにしましょう。
私たち辻・本郷 税理士法人でもご相談を承っていますので、ぜひお問い合わせください。
法人ソリューショングループ 仁平 和宏
- 【国税庁】所得税基本通達30-2「引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの」
- (同上)法人税基本通達9-2-35「退職給与の打切支給」
- (同上)勤続年数の打切りに伴う退職給与の一部打切支給「退職給与の打切支給」
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