実録! タイにおける税務調査
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はじめに
タイに進出している日系企業の頭痛の種の1つが税務調査です。
歳入法に税務署の価格査定権限が明記されており、一方的な査定を受けて課税されるケースが頻発しています。
どのような理由で課税しているのか、その対策をどうしたら良いかを実例をもとに解説いたします。
税務調査の事例
ケース1:自動車部品メーカー
<税務調査のきっかけ>
・VATの還付申請
・製品のほとんどが輸出(VAT 0%)のため、仕入れにかかるVATが控除できず、毎月還付申請している
<指摘事項>
・創業以来5年間赤字で、法人税の納税実績がない
・これまで税務調査はなく、初めての税務調査
・過去5年間の繰越損失5,000万バーツをゼロにし、黒字になったら年度から納税するようにとの指摘(タイでは5年間の繰越損失は認められています)
<交渉結果>
・今期は赤字見込みであるが、少なくとも直近1年間の赤字繰越を認めるよう交渉中
・しかし、繰越損失ゼロを認めなければ本格的な税務調査を行うと半ば脅しにかかっている。本格的な税務調査となると長期間に渡り資料の提出や説明を求められ、日常業務に支障をきたす可能性もある
ケース2:サービス業
<税務調査のきっかけ>
・2016年12月期の源泉税還付申請
<指摘事項>
・毎年赤字を計上しているにも関わらず、社長の給与(住宅手当や教育費補助も含め)が高すぎる
・住宅手当と教育費補助の半分は経費として認めない
<交渉結果>
・本社との雇用契約書等を示して反論するも認めてもらえず、交渉中
・全ての契約書をタイ語に翻訳し、大使館の認証を受けるようにとの指示もあり、嫌がらせのような要求が続いている
ケース3:会計事務所
<税務調査のきっかけ>
・2017年12月期の源泉税の還付申請
<指摘事項>
・他の会計事務所に比較して外部へのコンサルティング費用の支払いが多い
・大口のコンサルティング費用の経費算入は認められない
<交渉結果>
・14万バーツの還付申請に対し、約100万バーツの経費を否認。翌期への繰越損失が減少し、法人税率20%で計算すると将来20万バーツの納税額増加
・還付額以上に将来の納税額が増加することに
ケース4:自動車部品メーカー
<税務調査のきっかけ>
・BOI の法人税免税期間終了後のタイミングでの税務調査
<指摘事項>
・BOI 免税期間終了後に利益率が低下している。免税期間終了後に意図的に利益率を引き下げているのではないか
・BOI 免税期間終了前2年間の平均利益率22%になるように売上と原価を調整する
・当社としては意図的ではなく、為替レート変動によるものであり、実際の利益率12%に基づいた法人税の納税を主張
<交渉結果>
・交渉の結果、利益率18%に基づいての法人税を納税
税務調査の傾向
税務調査は、日本のように何年に1回というような定期的な頻度で行われることはあまりありません。
VATや源泉税の還付申請をすると必ず行われますが、毎月VATの還付申請している場合には、少額の申請であれば数年に1回行われるようです。
還付申請以外に税務調査が行われるのは、以下のような場合です。
1. 同業他社と比較して利益率が低い
2. 前年度まで黒字であったが、赤字に転落した
3. 創業以来赤字が続いている
4. 前年に比べて利益率が低下した
5. BOI 税務恩典の法人税免税期間が終了した後、利益率が悪化した
税務署はタイで事業を行っている全ての企業の財務データを保有しており、同業他社との利益率の比較や利益率の低下した企業を分析システムで抽出して税務調査を行っていると思われます。
税務調査対策
税務調査に入られないためには、毎年継続して利益を上げ、法人税を納税することです(難しいかもしれませんが)。
日本の『法人住民税』のように赤字でも課税できる税金がないタイでは、赤字企業に対して課税することができません。
したがって、永年納税実績のない企業に対しては、何とかして課税しようとしているように思えます。
税務調査の際は、法人税、VAT、源泉税、印紙税など全ての税目が調査されます。
VAT計算の基となるTax Invoice や領収書の記載要件が不備な場合は否認されますので、日頃から受領した際の内容点検は行ってください。
国外輸出が中心の企業は、『優良輸出企業』や『登録輸出企業』の認定を受ければ、VAT還付がスムーズに行われます。
認定を受けるためには、輸出割合が一定割合以上で、不動産を所有していることなどの条件があります。
ただし、認定前には税務調査があります。
税務調査の際、税務調査官との交渉は社長が行った方が効果的です。社長が自ら交渉することで税金が安くなったケースもあります。
社長が交渉できなければ、外部のコンサルタントに交渉を依頼することも一案です。
税務調査官もプロ相手では無理難題も言いにくくなるはずです。
また、高圧的な態度を取ると税務調査官も態度を硬化させますので、最終的な落しどころを考えながらの交渉が良いでしょう。
移転価格税制に基づく税務調査
本年からタイでも移転価格税制がスタートしました。
対象法人は年間売上が2億バーツ(約7億円)以上で、関連者取引がある法人です。
本年12月末決算の対象法人は、来年5月末の法人税申告の際に関連者取引等を記載した付表を提出します。
付表提出後の税務調査で移転価格文書(ローカルファイルと思われる。詳細は未公表)の提出を求められた場合には、60日(初回のみ180日)以内に同文書を提出しなければなりません。
移転価格文書を提出できないと一方的に取引価格を査定され、多額の課税をされる可能性がありますので、移転価格文書の作成準備に取り掛かるのが良いと思料します。
辻・本郷 税理士法人 タイ事務所
https://www.ht-tax.or.jp/corporate/branch_oversea/thai/
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