辻・本郷 税理士法人

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タイにおける税務リスク対策

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はじめに

タイ

タイに進出している日系企業の多くは、源泉税やVAT(付加価値税。日本の消費税に相当)の還付問題を抱えています。

法人税の前払い税金である、源泉税や仕入れの際に支払ったVATの控除しきれない税額は、当然還付されるべきものです。タイにも還付制度はありますが、還付申請をすると必ず税務調査が入るため、還付税額以上に税務調査でペナルティを課せられる恐れがあります。
そのため還付申請に二の足を踏む企業が多いのが実態です。

また、一度納付された税金を還付することは国の税収減になることから、税務署は念入りに調査するため、還付までに2年以上を要するケースも多々発生しています。

ペナルティ税額は日本よりもはるかに過大です。
タイにおける税務リスクおよびその対策を以下にまとめてみました。

税務署の強い権限

タイ国歳入法65条の2(4)で、『正当な理由なく、対価、報酬、利子なしで、または市場価格よりも低い対価、報酬、利子で財産の譲渡、役務の提供、金銭の貸与が行われた場合には、税務調査官はそれらの日の市場価格をもってその対価、報酬、または利子を査定することができる』と定められています。

この法律に裏付けられた権限を基に税務調査官は、税務調査の際に市場価格で売却したものとみなしてVATや法人税を課税してくることもあります。

主要税目の税務リスク

1. 法人税

(1) 赤字が連続する場合や同一業界比低い利益率の場合は、税務調査の対象になりやすくなります。

(2) 前年度の費用は当年度に計上することはできず、損金不算入経費となります。監査が終了するまでは調整可能ですので、計上漏れにご注意ください。

(3) 税務調査の際は、自社に説明責任があります。証拠書類に基づいた説明をする必要がありますので、書類の保管はしっかりと行ってください。

(4) 在庫残高が不足している場合、適切な理由を説明できなければ市場価格で売却したものとみなして、VATや場合によっては法人税も課税される可能性があります。在庫を廃棄する場合には監査人の立ち合いが必要ですので、在庫管理も注意が必要です。

(5) 法人税は決算日後、150日以内に申告・納税しなければなりません。

(6) 中間申告も必須で、中間決算日後2か月以内に申告・納税しなければなりません。

(7) 罰則規定として、加算税(上限200%)と延滞税(月1.5%、上限100%)があります。

2. 個人所得税

(1) 年間で180日以上タイに居住した場合にはタイ居住者となり、全世界所得(日本で支給される給与等も含め)をタイで申告・納税する必要があります。

(2) タイでの住宅手当や給与手取保証をしている場合の会社負担の税金、日本での留守宅手当や会社負担の社会保険料等もタイの給与と合算します。

(3) 個人所得税は翌年3月31日までに申告・納税(確定申告)しなければなりません。

(4) 確定申告により、月々の源泉徴収税額に不足額があれば追加納税し、超過額があれば還付されます。

3. 源泉税

(1) 源泉税の対象は日本よりも幅広く、法人に対する以下の支払いの際に源泉徴収しなければなりません。

内国法人への支払い
対象項目 税率
利子 1%
コミッション 3%
ロイヤリティ 3%
プロフェッショナル フィー 3%
請負契約による報酬 3%
賃貸料 5%
配当 10%(※)

※ただし、25%以上の持分を有する株主に対する配当は免税(持合いの場合を除く)

外国法人への支払い
対象項目 税率
配当 10%
利子 15%
ロイヤリティ 15%
株式売却益 15%
役務提供の対価 課税なし(※)

※PE(恒久的施設)がなく、ノウハウの移転もない場合には課税されません。
※年間で6カ月超役務の提供を行うとPE認定される可能性があります。
 なお、租税条約がある場合には当該租税条約が優先します。

(2) 源泉税は法人税の前払いのようなものです。

(3) 翌月7日までに申告・納付します(電子申告の場合は翌月15日までに)。

(4) 赤字の場合や利益率が低い場合は支払い超になることもあります。支払い超の場合は還付申請が3年間可能です。ただし、還付申請をすると必ず税務調査が入ります。

(5) 罰則規定は、延滞税(月1.5%、上限100%)があります。

4. VAT(付加価値税)

(1) タイのVATはタックスインボイス方式というもので、インボイス(税額票)を基に計算します。以下のような点に注意が必要です。
・タックスインボイスの書式が法律で厳密に規定されています。
・形式が整っていないと仕入税額控除ができません。
・値引きや返品の際に発行するCredit Note も書式が規定されています。

(2) 売上に係るVATから仕入れに係るVATを控除し、翌月15日までに申告・納付します(電子申告の場合は翌月23日までに)。

(3) 多額の設備投資をした場合や輸出企業は支払い超になることもあります。翌月へ繰り越すか還付申請(3年間)が可能です。ただし、還付申請をすると必ず税務調査が入ります。

(4) 罰則規定としては、納付遅延や納税不足の場合の加算税(上限100%)、無申告や不正と見なされる場合の加算税(上限200%)、延滞税(月1.5%、上限100%)があります。

税務調査

1. 源泉税とVATの還付申請をすると必ず税務調査が行われます。

2. 一般の税務調査は、各社の決算データからシステムで異常値(赤字が継続している、利益率が同業他社比低い、急に利益率が低下した等)を抽出して対象企業を選定しているようです。

3. 税務署から郵送される通知書に注意してください。追加資料の提出要請や出頭要請である場合もあります。経理担当者が握ってしまうと思わぬ罰則につながる可能性があります。

4. 税務調査は還付申請した対象税目だけでなく、全ての税目が対象となります。

5. 印紙税(Stamp Duty)の納付漏れの指摘も多く見られます。

6. 調査対象期間は通常過去2年です。

7. 不正の可能性ありと見なされると過去5年間さかのぼることもあります。

8. 調査期間は2~3年におよぶこともあります。

9. 会社清算の場合には必ず税務調査が入り、1~2年かかることもあります。税務調査が終了するまでは会社清算はできません。

税務リスク対策

1. 会社設立当初からの適切な会計処理が重要です。自社で記帳する場合には経理経験者を雇用するでしょうが、レベルはまちまちです。会計事務所等に記帳内容や税務申告書を一度チェックしてもらうのも良いと思料します。

2. 税務調査は最長5年間遡ることがあります。税務調査に備えて書類の整備、保管をしっかり行ってください。

3. 赤字が継続したり、利益率が低かったりすると厳しい税務調査になる可能性が高まります。タイで事業をさせていただいている訳ですので、税金を納めるように努力しましょう。

4. 自社経理の場合は、社員の退職リスクにも注意が必要です。突然退職することがありますので、書類の保管状況や業務フローを把握しておくのが良いでしょう。

5. 監査法人の監査は税務面のチェックは行いませんので、監査で指摘がなかったからといって税務リスクはなくなっていません。

6. 税務調査の際は、外部の会計事務所等の応援を検討することも一案です。税務調査官との交渉はとても重要です。

おわりに

還付申請やそれに伴う税務調査は頭の痛い問題ですが、早めに税務調査を受ければ調査対象期間も短く、ミスが発覚してもペナルティの額は少なくてすみます。また、指摘された事項は繰り返さないようにすることができます。

税務調査が入る前に会計事務所等に一度チェックしてもらうことも良いかもしれません。

十分な納税をしていれば税務調査が入る可能性は低くなり、たとえ入ったとしても税務調査が軽くすむこともあるようです。会社として利益を出し、納税をしてタイに貢献することが一番良いのはいうまでありません。

辻・本郷 税理士法人 タイ事務所
https://www.ht-tax.or.jp/corporate/branch_oversea/thai/

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