役員退職金と従業員退職金の損金算入時期
- 法人税
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みなさまの会社に退職金制度はありますか?
ひところ、夫婦の老後資金は公的年金以外に「30年で2000万円が必要」とした金融庁の報告書が話題になりましたが、令和2年(2020年)の東京都による中小企業対象の賃金調査では、集計対象企業のうち「退職金の制度あり」と回答した法人は約66%となっています。
今回は退職金について法人税の観点からご説明します。
従業員退職金の損金算入時期について
法人が使用人に対し支給する退職金については、法人税法上の具体的な決まりはありません。
法人税法基本通達2-2-12で規定される債務の確定の判定要件を満たせば、その退職金は税務上の損金として認められると考えられます。
つまり、退職の事実と退職金の金額の確定によって損金算入の時期が決定されることになります。
したがって、未払金に計上しても前述の2要件を満たさない場合は税務上の損金にできませんし、満たしていた場合は、支給前であっても未払金に計上して損金にできます。
役員退職金の損金算入時期について
ところが、法人が役員に対して支給する退職金については、税務上の取り扱いに具体的な決まりがあります。
法人が役員に支給する退職金は、適正な額である場合、「原則として」その具体的な額が確定した日の属する事業年度において損金に算入することができます。
「適正な額」とは、その役員の在任期間や、役職、報酬額に基づいて役員退職金規程で計算された金額で、その法人と同じ業種で同程度の規模感の法人の役員に対する退職金の支給状況と比較して、妥当な金額である場合、ということです。
「役員退職金が確定した」とは、会社法第361条の規定により、一般的に、株主総会でその退職金の具体的な金額、支給時期、支給方法を決定することをいいます。
しかし、公開会社などでは、個人の報酬をつまびらかにすることを回避するなどのために、株主総会では限度額を決定し具体的な金額は開示せずに支給に関する基準のみを提示し、具体的な金額等はその決定を取締役会に委ねることが行われています。
そして、「原則として」退職金の額が確定した日の属する事業年度に損金に算入と書きましたが、法人が退職金を実際に支払った事業年度に費用として計上した場合は、その支払った事業年度において損金に算入することも認められています。
逆に、退職金が具体的に決まっていない場合、例えば取締役会で内定した金額を会計上費用と未払金に計上した場合などでは、税務上は損金として認められません。
また、実際に退職はしていなくても、退職金の損金算入が認められる場合もあります。
法人の使用人が役員に昇格したときに支給する退職金がこれにあたり、退職給与規程に基づいて使用人であった期間の退職金として計算される金額を支給した場合は、その支給した事業年度に損金算入ができます。
また、役員の分掌変更等があった場合は退職金として認められることもあります。
しかし、会計上未払金に計上しただけでは、その事業年度の損金としては認められませんので注意が必要です。
おわりに
従業員の退職金の損金算入要件は退職の事実と金額の確定の2点であるのに比べて、役員のそれにはさらに確定手続き、金額相場など注意すべき点が多くあるのがおわかりいただけたと思います。
退職金は、税務調査でもチェックのポイントとなります。どのケースに当てはまるのか、規程、手続きの議事録などの証憑(しょうひょう:取引があったことを証明する書類)を注意深く確認しましょう。
法人ソリューショングループ 駒澤 孝美
<参考サイト>
【東京都産業労働局】中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)
【金融庁】金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
【国税庁】法令解釈通達 第2款 販売費及び一般管理費等、法令解釈通達 第7款 退職給与
【国税庁】タックスアンサー No.5208 役員の退職金の損金算入時期、タックスアンサー No.5203 使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金
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