年度末必見!社会福祉法人の予算の策定とその重要性
- その他
社会福祉法人にとって、1年で最も忙しいと言っても過言ではない年度末が近づいてきました。その理由の一つが、予算の策定です。
本稿では、社会福祉法人の運営で避けては通れない予算の作成について解説します。
社会福祉法人にとっての「予算」とは
多くの公金が投入されている社会福祉法人では、その運営には透明性と厳格さが求められ、事業計画書と事業報告書の公開に加え、予算の策定が法律で義務付けられています。
社会福祉法で社会福祉法人の会計年度は4月1日から翌年3月31日と定められていますが、翌年度の開始の前に事業計画と、それに基づく予算の策定を行う必要があります。
社会福祉法人の予算とは、一言でいえば「支出の限度」です。
事業計画を遂行するにあたり、どのような支出を行うか積算することで作成されます。予算の策定は理事長が行い、さらに理事会で同意を得なければなりません。
すなわち、支出の使途について事後報告ではなく、事前に明確にすることが求められているのです。
また、予算の策定において、策定の単位は法人全体だけではなく拠点区分ごとに、また勘定科目も大区分ではなく、小区分まで細かく策定する必要があります。
なお、策定は理事長が行うこととなっていますが、理事長は補佐役として予算管理責任者を任命することができます。
モデル経理規程でも予算の単位ごと、すなわち拠点の単位ごとに予算管理責任者を任命することとなっており、通常は各拠点の施設長がその役割を担います。
法人運営の舵取りに与える影響が大きい「当初予算」
翌年度開始前に事業計画に基づき策定されるものが当初予算です。
そして、当初予算の策定にあたっては、社会福祉法人はサービス単価に改定がない限り収入に大きな変動が生じないため、前期の実績に基づいて編成することが基本となります。
そこに、設備投資計画や人員の採用計画、金融機関等からの資金調達計画を組み込むほか、新規事業の開始や定員の変更などがあれば、それも加味します。
この当初予算をどこまで精緻に作成できるかによって、法人運営の舵取りに与える影響も大きく変わるでしょう。
社会福祉法人会計では会計責任者による理事長への月次会計を報告する義務がありますが、実際に新しい年度が開始したら、月次の会計報告の際に予算と実績値を比較することで計画との乖離を確認します。
例えば、第一四半期が終了した時点(年度開始から3ヶ月が経過した時点)であれば、支出の執行率は25%となるのが理想です。
大きな乖離があれば、予算の積算に誤りがあったのか、それとも想定外の事象が発生したのかなど、原因を追究することでその後の法人運営を見直すための契機となりえます。
予算との乖離が大きくなったら「補正予算」編成を
前述したように予算がその年度の運営における指針の一つとなりますが、積算が甘いというようなことではなく、不確定要素による実績値の乖離も当然発生します。
例えば、重要な設備が故障し買い替えが必要となったケースや、あるいは予期せぬ職員の退職に伴う職員の補充のための新規採用や一時的な派遣職員による穴埋めによるコスト、また利用者の減少などが挙げられます。
一方で、臨時の補助金や予期せぬ寄附金等で収入が増えるといったプラス要素も考えられます。
このように、法人にとっては良い意味でも悪い意味でも、予算との乖離が大きくなった場合には、補正予算を編成することが社会福祉法人会計で求められています。
補正予算の策定と精緻な支出予測の重要性
多くの法人が半期経過時に当初予算の見直し(第一次補正予算)を行い、2月もしくは3月に年度末の着地を見越して最終補正予算を編成します。
なお、補正予算の策定は、進行年度内の理事会の承認が必要となるため、月次処理がすべて完了するのを待つと間に合いません。
毎月の月次処理を遅延しないように進め、1月分の月次処理が終わった段階で、2月分および3月分の予測値を加えて最終的な着地点を予測する必要があります。
前述の通り、補正予算は進行年度中に策定しなければなりません。
翌年度の当初予算は翌年度開始前に策定するため、進行年度末までに補正予算を編成し、その補正予算をもとに翌年度の当初予算を編成するというのが予算策定の流れです。
こうしたことから、補正予算と翌年度の当初予算はセットで行うとも言えます。
もっとも、乖離が軽微であれば、理事長決裁による予算の流用(勘定科目の中区分間で余裕のある他の支出科目から充当すること)や、事前に計上する予備費の使用も可能です。
ただし、事前に過大な予備費を計上してしまうことは、上記のような予算による運営の指針としての効果を損なうことになり、業務執行の統制機能を妨げるため望ましくありません。
また、前述したように予算は公金の投入を理由とした「支出の限度」を意味しますので、支出の実績値が予算額を上回るのは適切とは言えず、指導監査等での指摘の可能性もあります。
したがって、支出の見込みをいかに精緻に予測し、予算を計上できるかが補正予算では重要となります。
おわりに
冒頭で述べたとおり、社会福祉法人には予算の策定が義務付けられています。
前期の数字をもとに数字並べをするだけであれば、ほんの数時間で作成できなくもありません。予算を軽視している法人も見受けられます。
数字だけが一人歩きしても意味はないと思いますが、きちんと作りこむことによって得られる効果は大きいと思います。
年度末は忙しい時期かと思いますが、予算が勝負を分けるといっても過言ではありませんので、十分に検討するようにしましょう。
辻・本郷 税理士法人では顧問先を中心に予算策定のご支援も行っておりますので、お気軽にご相談ください。
社会福祉法人部 藤江 高寛
古田清和、津田和義、中西倭夫、走出広章、村田智之(2017)『社会福祉法人の運営と財務』第2版 同文舘出版
- 介護福祉・障害福祉の2024年報酬改定で何が変わった?
- 社会福祉法人が行政からの補助金で資産を取得した際の会計処理
- 社会福祉法人が合併を検討する際に考慮しておきたいこと
- 社会福祉法人の後継者問題、その難しさと解決策
- 社会福祉法人の経理規程を見直してみませんか? 契約関係に焦点をあてて解説
サービスに関するお問い合わせ
- お電話でのお問い合わせの場合、原則折り返し対応となります。直接の回答を希望される場合、お問い合わせフォームをご利用ください。
- 海外からのお問い合わせにつきましても、お問い合わせフォームをご利用ください。
- フリーダイヤルへおかけの際は、自動音声ガイダンスにしたがって下記の2つのうちからお問い合わせ内容に沿った番号を選択してください。
1/相続・国際税務・医療事業に関するお問い合わせ
2/その他のお問い合わせ
9:00~17:30(土日祝日・年末年始除く)