国税庁当局による「リモート税務調査」~その実態と今後の動向
- 国税・地方税
2020年代前半のコロナ禍では、リモートワークが広まり一般化しました。DXを推進する国税庁においては、近年「リモート税務調査」が行われています。
このリモート税務調査とは、どのように行われているのでしょうか。
リモート会議やリモート飲み会さながらに、パソコンの画面越しに調査官と質疑応答を行っているのでしょうか?その実態に迫ります。
「リモート税務調査」の実態
「リモート税務調査」は、国税局等の調査担当者が調査先の企業の会議室などに入り、企業から借りたパソコンと企業のネットワーク回線を繋いで企業の担当者と画面越しにWeb会議でやりとりをしつつ、企業から借りたパソコンで企業のデータサーバーへアクセス。同時に企業から借りた別の作業用パソコンで分析をする…というものです。
もちろん前提として、機密性の高い情報のやり取りが行われることに加えて、システムの脆弱性に起因するリスクがあることを調査先である企業から理解を得た上で調査が行われます。つまりは企業内サーバの機密データを、調査官が勝手に見て調査するものなのです。
国税庁資料から「Web会議システムの活用(リモート調査)」
国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」より転載
「リモート税務調査」は大企業に歓迎されている?
大企業の税務調査では膨大な資料を分析する必要がありますが、時間と人数をかけるとコロナの感染リスクも高まります。
朝日新聞の取材によると、企業側から「調査官の人数を減らしてほしい」などの要望が寄せられていたといいます。
名古屋国税局調査部が企業の担当者とわずかな接触だけで税務調査を終えた事例もあり、調査を受けた企業側から「長時間の対面を避けられた。お互いにアポイントが取りやすく、情報のやりとりもスムーズだった」という声も聞かれ、企業側は歓迎ムードのようです。
資本金1億円以上の調査課所管法人に対し,国税当局は「リモート税務調査」を昨年10月から着手していますが、一部でも導入した件数は、昨年10月~今年3月で2割を超えたと言われています。
アフターコロナにおける国税当局の対応の変化と今後の見通し
アフターコロナは企業のデジタル化が一層進展し、在宅勤務の拡大や非対面型を推奨した業務体制が広がり、働き方やビジネスの仕方も変化しています。
コロナ禍が長引いていることなどから、国税庁は今夏から、税務署所管の中小企業に対しても「リモート税務調査」を「解禁」しました。
税務行政の状況が、これまでのようにコロナ危機の回復を待って、回復までの間、税務調査は延期、納税は延期や免除、という訳にはいかなくなってきている時期と言えるでしょう。
コロナ禍の中でも税務調査の質や量を落とさずに実施するため、国税当局は「リモート税務調査」を積極的に拡大する方向で、これまで書面や対面により多くの手続きを踏んで行っていた金融機関への預貯金照会や、税務調査における必要な資料の提出についてオンライン化を進める手筈も既に整えています。
「リモート税務調査」拡大でも従来の対面型の「実地調査」はなくならない?
ただ、日本の場合は諸外国のように全面的に「リモート税務調査」に移行することになるとは思えません。
「リモート税務調査」「書簡調査」と対面型の「実地調査」を複合的に実施していくことになると思われます。
なぜなら、所得が確立されるまでの一連の経済取引において、まだまだ請求書・領収書など書類のやり取りからそれを記録するという流れが主流です。
その入力までの過程で取捨選択する余地があって、すべてがデータのやり取りで完結しているわけではありません。データ通信で完結する社会になるまでは税務調査における実態把握・事実確認は必須です。帳簿データの検証のみならず、請求書や領収書の保存場所や現物確認、保有資産、購入資産の現物確認や利用状況の確認といった多角的かつ多様な確認作業が必要であり、納税者側から提示されたデータの調査のみでは、その目的が達成されず実効性が無いからです。
国税当局による直接の確認が必要な場合には、これまで通りの対面調査を実施する体制を崩すことはないでしょう。
「情報企画分析官」から全国の国税局へ情報提供
当面の間は個々の事案に応じて、多様な税務調査を展開しつつ、マッチングシステムや高リスクの納税者を抽出するシステム等の質や正確性の向上に取り組むことは先の局長インタビューでも明らかにされています。
「東京局と大阪局の調査第一部に,昨事務年度,設置された『情報企画分析官』は,国税組織が有する各種データを活用した分析を行い,調査選定や税務調査の効率化・高度化を図る役割を担っています。昨事務年度は,全国の申告書・決算書や各種資料情報等の様々なデータを分析することで,無申告や課税漏れが疑われるなどの税務調査の必要度が高い企業を抽出し,全国の国税局へ情報を提供しました。今事務年度は,提供している情報の有用性等を検証し,データ分析の精度を高める等,この取組を更に進め,調査選定や税務調査の一層の効率化・高度化を図っていきたいと考えています。」
国税庁資料から「AI・データ分析の活用」
国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」より転載
おわりに
ブラックラインと日本CFO協会が日本企業590社の経理財務を対象におこなったアンケートによると「リモートワークが進んでいる」との回答は54%。その内容は、紙の電子化や押印作業の代替に留まっているという報告もあるようです。
令和3年度の税制改正で電子帳簿保存法も改正され、電子データの保存を、国税に係る帳簿書類の保存に代えられると定められたばかり。国税当局は積極的ですが「リモート税務調査」だけで済ませられる企業が今はまだ多くないかもしれません。
今後、企業内で決算業務のリモート化と会計の電子帳簿やオンライン化がどの程度進むのかが、「リモート税務調査」拡大の鍵のひとつでしょう。
<関連トピックス>
『法人企業の税務調査、どんな企業が対象になる?』
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『税務調査が来る!税理士の手助けは必要か?』
『社長も経理担当者も知っておきたい、法人企業の税務調査の流れ』
『国税庁のDX化で、近未来の税務調査はどうなる?』
<参考サイト>
【国税庁】税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-
【朝日新聞デジタル】2021年10月4日 6時30分 配信記事『画面越しで不正見抜ける? リモート税務調査、コロナ禍で広がる』
【税務通信】3669号 2021年09月06日 p.16 税務の動向『市川 健太 東京国税局長 就任インタビュー リモート調査 大企業以外でも要請があれば積極的に対応』
【BlackLine】2021年08月27日付ブログ記事 『DX先進企業が語るパーパスの経営とデジタル変革「BeyondTheBlack TOKYO 2021」レポート』
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