令和5年の私立学校法改正で「寄付行為」はどう変わる? ポイントを解説
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令和5(2023)年に私立学校法が改正されたことにともない、すべての学校法人で「寄附行為」(会社における定款に該当するもの)を変更する必要があります。
この変更は非常に煩雑な作業であると察しますが、文部科学省や各都道府県ではサンプルや作成マニュアル等も用意されています。
そこで今回は「学校法人寄附行為作成例(文部科学省管轄学校法人向け)」等を参考に寄附行為変更のポイントについて解説します。
会社の定款に相当する「寄附行為」
学校法人における「寄附行為」とは、学校法人の組織構成や会計に関する規則等、学校法人の運営に関する基本的な規則を記した文書です。
一般的な会社の「定款」に相当しますが、学校法人や医療法人では「寄附行為」という用語が使われています。
「寄附行為」というと「行為」自体のことを指すと思いがちですが、多くの場合はこの「文書」の意味で使用されます。
ただし、寄附行為を「行為」として使用することもあります。この場合は「学校法人を設立する行為そのもの」を意味します。学校法人の設立に際して、財産の寄附が必要となるためです。
このように「寄附行為」には2つの意味があります。
理事選任機関(寄附行為第7条)
今回の重要な変更点の1つとして「理事選任機関」の明記が挙げられます。改正前では理事の選任については寄附行為の定めによっていましたが、改正で「理事選任機関」が新たに設けられました。
理事選任機関の構成および運営の具体的内容の決定は、学校法人の判断に委ねられていますが、「作成例」には理事選任機関として3つの例が挙げられていますので(下記表参照)、このうちから選択するケースが多くなるのではないでしょうか。
例示 | 条項の例(第1項のみ) |
---|---|
例1 評議員会を理事選任機関とする場合 |
この法人の理事選任機関は、評議員会とする。 |
例2 独立した理事選任機関を置く場合 |
この法人の理事選任機関の構成員は、理事〇名、評議員〇名、学外有識者〇名とする。 |
例3 理事会、評議員会及び第三者機関を理事選任機関とする場合 |
この法人に、次の理事選任機関を置く。 一 理事会 二 評議員会 三 外部理事選任委員会 |
※1 文部科学省「学校法人寄附行為作成例」より
※2 評議員会以外が理事を選任するときは、あらかじめ評議員会の意見を聴かなければならない。
なお、従来通り、理事会を理事選任機関とすることも法律上は可能となっています。東京都の作成例にも例示として挙げられています。
理事の解任および退任(寄附行為第11条)
理事は解任事由がある場合に、当該理事を選任した理事を選任した理事選任機関の決議によって解任することができます。したがって、例3のように理事選任機関が複数にわたる場合は各々の機関で選任した理事を各々の機関で解任することになります。
なお、単独の機関ですべての理事の解任決議を実施することはできません。
解任事由(下記表を参照)については若干の変更はありますが、1号2号以外に寄附行為で項目を加え内容を変更することが可能です(改正私立学校法第33条第1項第3号)。
解任決議について、旧作成例では「理事総数の4分の3以上出席した理事会において、理事総数の4分の3以上の議決及び評議員の議決」により解任できるとありましたが、新しい作成例では普通決議で解任ができるような文言になっています。ただし、こちらについても決議要件を寄附行為で定めることが可能となっています(改正私立学校法第33条第1項)。
理事の解任および退任(作成例) |
---|
(1)職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき |
(2)心身の故障のため職務の執行に支障があり、またこれに堪えないとき |
(3)理事としてふさわしくない非行があったとき |
理事の定数(寄附行為第6条)
理事の定数については、改正後もとくに寄附行為の記載に変更はありませんし、「〇人」という記載が「〇名」に変更となった程度ですが、「他の理事のいずれかと特別な特別関係を有する理事の数は、理事の総数の3分の1を超えてはならない(改正私立学校法第31条第7項)」とあるので、実際に定数を記載する際には注意が必要になります。
例えば、ある理事の親族を理事に2名入れている場合に、うっかり定数を5名としてしまうとこの条文に抵触してしまうことになります。
理事の任期(寄附行為第10条)
理事の任期については、選任後寄附行為で定める期間(上限4年)以内に終了する会計年度のうち、最終のものに関する定時評議員会の終結時までとしています。
以前は「〇年」という記載でしたが、「定時評議員会の終結時まで」と明記されるようになりました。
例えば、選任が令和8年4月であれば、4年後(寄附行為で定めた期間が4年とする)の令和12年4月までに終了する最終の会計年度は令和11年度であるため、令和11年度に関する定時評議員会の終結時までが任期になります(令和12年の5月または6月)。
なお、理事の任期は評議員・監事の任期を超えることはできません。
評議員の選任(寄附行為第33条)
評議員の選任については、「例1:評議員会で評議員を選任する場合」「例2:充て職や複数の機関で評議員を選任する場合」の2つが挙げられています。
例1と例2の相違ですが、例1ではすべての評議員を評議員会で選任するのに対して、例2では、大学の学部長等を充て職としつつ、職員・卒業生は評議員会、学識経験者は評議員選任委員会で選任します。
例1は評議員会の監視機能が強化されますが、執行機関の独立性が制限されます。例2は選任の手続きが煩雑になりますが、執行機関の経営の自由度が高まります。
ただし、理事や理事会が評議員を選任する場合において、当該評議員の数が評議員の総数の2分の1を超えることはできません。
また、職員の評議員も総数の3分の1を超えることはできません(改正私立学校法第62条第5項)。
評議員の定数(寄附行為第6条)・評議員の任期(寄附行為第35条)
評議員の定数については、6名以上でかつ理事の定数を超えなければなりません(改正私立学校法第18条第2項)。
また、任期については、寄附行為で定める期間(上限6年)以内に終了する会計年度のうち最終のものの関する定時評議員会の終結時まで(改正私立学校法第63条第1項)で、かつ理事の任期は評議員の任期を超えることができない点に留意が必要です。
おわりに
今回は、寄附行為の変更のうち、理事・評議員の重要な留意点について取り上げましたが、このほかの留意点については下記の参考サイトを参照いただければと思います。
また、寄附行為の提出期間は、令和6年7月1日~令和7年1月10日とされていますが(文部科学省)、寄附行為変更申請マニュアルによれば、作成された寄附行為によって3つに分類され、その分類に応じて提出時期が定められています。
したがって、早めに寄附行為を作成し自らがどこに分類されるかを見極めることがまずは肝要かと考えます。
- 【文部科学省】私立学校法の改正について(令和5年改正)~寄附行為作成例~
- 【文部科学省】改正私立学校法に基づく寄附行為変更認可申請(令和6年7月以降受付)について(文部科学大臣所轄学校法人)~改正私学法に対応する寄附行為変更申請マニュアル~
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