ガバナンス改革が中心となる令和5年私立学校法改正について解説
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令和5年通常国会に提出されていた「私立学校法の一部を改正する法律案」が令和5(2023)年4月に参議院本会議にて可決され、令和7(2025)年4月1日より施行されます。
今回の改正は、2021年頃に相次いだ大学法人の不正事件を契機とした、監事および評議員・評議員会の権限分配を整理するといったガバナンス改革が中心となっており、施行されれば私立学校に与える影響が非常に大きくなることが想定されます。
それというのは、役員等の構成や組織の体制を再編成し、それに伴って寄附行為等の見直しが求められることがあるためです。
そこで、本稿では改正の趣旨や概要について、文部科学省が作成する「私立学校法の改正について」を参考に詳しく説明いたします。
令和5年度改正の趣旨
文部科学省の「私立学校法の改正について」において、改正の趣旨が次のように記載されています。
「我が国の公教育を支える私立学校が、社会の信頼を得て、一層発展していくため、社会の要請に応え得る実効性のあるガバナンス改革を推進するための制度改正を行う」
※文部科学省「私立学校法の改正について(令和5年改正)」より引用
改正の内容は多岐にわたっていますが、ここではこのガバナンス改革の核心をなす理事・理事会、監事及び評議員・評議員会についての改正ポイントをまとめたいと思います。
令和5年改正の概要(理事・理事会、監事及び評議員・評議員会の権限分配の整理)
「私立学校法の改正について」では、まず『「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」の考え方から、理事・理事会、監事及び評議員・評議員会の権限分配を整理し、私立学校の特性に応じた形で「建設的な協働と相互けん制」を確立』することを掲げています。
①役員等の選解任手続き等について
改正前は、役員等の選解任手続き等については、寄附行為の定め等で学校が自分で定めることができました。
一方、改正後の私立学校法では、各機関の選解任等が以下のように定められます(括弧内の数字は、改正後の私立学校法の条項番号)。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
理事の選解任 | 寄附行為の定めによる | 理事選任機関が選解任します※(第30条第1項、第33条第1項)。 |
理事長の選定等 | 理事会が選定します(第37条第1項)。 | |
監事の選任 | 評議員会の同意を得て理事長が選任 | 監事の評議員会の決議によって選解任します (第45条第1項、第48条第1項)。 |
監事の解任 | 寄附行為の定めによる | |
役員等の任期 | 寄附行為の定めによる | 寄附行為で定める期間以内に終了する最終年度に関する定時評議員会の終結の時までとします(寄附行為で定める期間は理事4年、監事・評議員6年を上限とし、理事の期間は監事・評議員の期間を超えないものとします) (第32条第1項・第2項、第47条第1項、第63条第1項)。 |
※理事選任機関を定めることが義務化されましたが、寄附行為の定めによることとされています。
②役員等の兼職の制限等について
従来、監事は理事・評議員・職員と兼職が禁止されていましたが、それが子会社の役員・職員にまで及ぶようになりました(第31条第3項、第46条第2項)。
また、以前は、評議員と理事が兼職することができましたが、改正により、理事と評議員の兼職が禁止となりました(第31条第3項)。
③役員等の構成の要件等について
役員の近親者等に関する制限も強化されました(第31条第6項・第7項、第46条第3項)。
とくに、これまで近親者等に関する制限のなかった評議員にも制限が設けられるようになりました(第62条第4項、第62条第5項第3号)。
また、職員である評議員数は評議員総数の1/3までとする制限が追加されました※(第62条第5項第1号)。
※改正前から評議員のうち1名は職員であることとされています。
さらに、今までは理事・理事会が選任した評議員についての制限が特にありませんでしたが、評議員総数の1/2までとする制限が追加されました(第62条第5項第2号)。
④学校法人の意思決定について
理事会・評議員会については、招集、決議、議事録等に関する具体的な内容が法定されました。
理事会については、招集権者は各理事とされ(ただし、寄附行為または理事会の定めにより理事会招集担当理事を定めることが可能)(第41条第1項)、理事会の1週間前までに、理事・監事に通知を発出する(全員の同意があるときは不要)招集手続きに関する定めが追加されました(第44条第1項)。
評議員会についても招集権者は理事(第70条第1項)とされ、招集手続きに関する定めも追加されています(第70条第2項~第4項、第74条)。
理事会同様、評議員会の1週間前までに、評議員に通知を発出(全員の同意があるときは不要)するとされました。
また、意思決定のプロセスにおいて、重要事項等については評議員会の意見聴取が必要とされていましたが、改正後には、評議員会の決議も必要となりました(第150条)。
具体的には、寄附行為の変更(軽微なものを除く)、任意解散、合併については評議員会の決議が必要となりました。
逆に、その他の重要事項、例えば重要な資産の処分や譲受け、多額の借財等については決議できないのは従来通りです。
おわりに
今回の改正に伴い、学校関係者の方々は令和7年4月に向けて、学校の組織や寄附行為の見直しに苦慮されていることかと想像いたします。
しかし、文部科学省資料「私立学校法の改正について」の「私立学校法改正に係る基本的な考え方 1.ガバナンス改革の目的」にもあるように「ガバナンス改革は、学校法人自らが主体性をもって行わなければならない」のであって、「ガバナンス改革は『手段』にすぎず」、「私立学校の教育・研究の質を向上させる」ことが主眼であることを忘れてはいけません。
法的な要件を満たすことはもちろん重要なのですが、新しい組織やルールに実効性を持たせ、本来の目的を達成することが最も肝心であると考えます。
【文部科学省】「私立学校法の改正について(令和5年改正)」
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