オープンイノベーション促進税制とは? ~令和5年度税制改正をふまえて
- 税務・会計
近年、オープンイノベーションの重要性が高まるなか、その促進を図るため税制面からも要件の拡充や適用期限の延長等の整備が進められてきました。
当記事では、税制の優遇措置の利用をお考えの事業者の方へ、令和2年4月の導入から2度の改正を含めた内容で、オープンイノベーション促進税制の概要からメリット、適用要件、利用手順まで解説します。
オープンイノベーション促進税制の概要
-令和5度年税制改正からM&A後のスタートアップも対象に
オープンイノベーション促進税制とは、一定の条件下でスタートアップ企業への投資額の25%の所得控除(損金算入)を受けられる制度です。
従来は新規発行株式の取得(以下、「新規出資型」)に限られていましたが、令和5年度の税制改正でM&Aによる発行済株式の取得(以下、「M&A型」)も対象となりました。
今回の改正は、既存企業によるスタートアップ企業に対してのM&Aを後押しするものですが、スタートアップ企業の成長に真に資するM&Aを対象とすべきという観点から、M&A後のスタートアップ企業の成長要件も新たに設定されています。
本税制を活用するメリット
オープンイノベーション促進税制は対象となる出資法人(以下、「対象法人」)とスタートアップ企業との協業による生産性の向上や新規事業の開拓に対して、税制面から後押しする制度です。
具体的な金額を用いて、税金面でどれだけの効果があるかを試算してみましょう。
対象法人は東京都の中小法人(実効税率約34%)、M&A型で5億円の株式を取得したものとします。
5億円 × 25% = 1.25億円・・・所得控除額(損金算入)
1.25億円 × 34% = 4,250万円・・・軽減される法人税等の額
所得から1.25億円が差し引かれることにより、4,250万円の節税効果が生じることとなります。
今回は5億円を例にしましたが、対象法人が中小企業であれば、新規出資型だと1件あたり1,000万円からの出資が可能ですので、より少ない資金でもこの制度の活用が可能です。
制度を適用するための要件
出資をする側、出資を受ける側、出資行為に関して以下の要件が設定されています。
(1)出資法人の要件(「新規出資型」、「M&A型」共通)
対象法人は次の要件を満たす法人です。また、一定の要件を満たすCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)経由で出資した場合も対象となります。
対象法人の要件
①青色申告書提出法人であること
②スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指していること
③以下のいずれかの法人形態であること
•株式会社
•相互会社
•中小企業等協同組合
•農林中央金庫
•信用金庫及び信用金庫連合会
対象となるCVC
上の対象法人が出資割合の過半数※を有する以下の組合
①投資事業有限責任組合(LPS)のうち
a. 対象法人の国内完全子会社が無限責任組合員(GP)であるもの
b. 対象法人が単独の有限責任組合員(LP)であるもの
②民法上の組合
※出資割合の計算に当たっては、対象法人が他のLPSを通じて行う当該CVCに対する出資の金額は除外します。
(2)スタートアップ企業の要件
対象となるスタートアップ企業は次のすべての要件を満たす法人です。
「新規出資型」については外国法人であっても対象となりますが、「M&A型」については内国法人に限定されます。
①株式会社
②設立10年未満(要件を満たす場合設立15年未満)
③未上場・未登録
④既に事業を開始している
⑤対象法人とのオープンイノベーションを行っているまたは行う予定
⑥一つの法人グループが株式の過半数を有していない
⑦法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人等)が3分の1超の株式を有している
⑧風俗営業または性風俗関連特殊営業を営む会社でない
⑨暴力団員等が役員または事業活動を支配する会社でない
(3)出資要件
「新規出資型」と「M&A型」のそれぞれで要件が異なります。
新規出資型
①資本金の増加を伴う現金による出資であること
②1件あたり1億円以上の出資であること
※対象法人が中小企業の場合:1,000万円以上
スタートアップ企業が海外法人の場合:一律5億円以上
③オープンイノベーションに向けた取組の一環で行われる出資であること
④取得株式の3年以上の保有を予定していること
⑤純出資等を目的とする出資ではないこと
また所得控除の上限額は1件あたり12.5億円(取得額換算で50億円)となります。1社あたりではM&A型と合わせて125億円(取得額換算で500億円)です。
M&A型
①議決権の過半数を有することとなる株式の取得であること
②1件あたり5億円以上の出資であること
③オープンイノベーションに向けた取組の一環で行われる出資であること
④取得株式の5年以上の保有を予定していること
⑤純出資等を目的とする出資ではないこと
また所得控除の上限額は1件あたり50億円(取得額換算で200億円)となります。1社あたりでは新規出資型と合わせて125億円(取得額換算で500億円)です。
本税制の活用にあたっての留意点
この制度は、対象となる金額を特別勘定として経理処理して所得控除を受けるものです。所得控除を受けた年度以降に、次に該当することとなる場合(株式取得から新規出資型であれば3年以内、M&A型であれば5年以内)には、その特別勘定を取り崩し、取り崩した事業年度において益金算入されることとなります。
所得控除を受けた年度以降も、所得に影響を及ぼす事由が生じる可能性があり、その事由のなかには対象法人側でコントロールできないものも含まれます。
(1)任意に特別勘定を取り崩した場合
(2)オープンイノベーションを継続していると認められない場合
①対象法人が青色申告書の提出の承認が取り消された/青色申告取りやめの届出を行った
②対象法人が、自身を子法人とする税制非適格の株式交換等を行った※1
③対象法人が通算制度の開始、通算制度への加入又は通算制度からの離脱等に伴う時価評価の対象となる法人に該当する場合※2
④対象法人が税制非適格の合併をし、合併法人に対象である取得株式を移転した
⑤CVC経由で出資しており、CVCの出資比率に変更が生じた
⑥対象法人又はスタートアップ企業が解散した
⑦経済産業大臣からの継続証明書が交付されなかった
•オープンイノベーション要件を満たさなくなった
•虚偽の申請が行われた
•変更等の所要の手続きを行わなかった
⑧対象である取得株式を譲渡した
⑨対象である取得株式の帳簿価額を減額した※3
⑩スタートアップ企業から配当を受けた
※1 税制非適格であっても、100%親子関係がある場合の株式交換・株式移転は除かれます。また、特別勘定が1,000万円未満である場合は取り崩す必要はありません。
※2 特別勘定が1,000万円未満である場合は取り崩す必要はありません。
※3 分割型分割及び株式分配によるものを含みます。
M&A型の場合は上記に加え、次の場合も取り崩し事由に該当します。
①対象株式の取得から5年を経過した場合(5年以内に成長要件※4を満たす場合を除く)
②対象法人がスタートアップ企業の議決権の過半数を有しないこととなる場合
※4:成長要件
スタートアップの成長段階に応じ、A:売上高成長、B:成長投資、C:研究開発特化の3類型。
類型 | 対象となるスタートアップ (M&A時点の要件) | 5年以内に満たすべき要件 | |
---|---|---|---|
成長投資 | 事業成長 | ||
A: 売上高 成長類型 | ― | ― | ・売上高 ≧ 33億円 ・売上高成長率 ≧ 1.7倍 |
B: 成長投資 類型 | ・売上高 ≦ 10億円 ・(研究開発費 + 設備投資)÷ 売上高 ≧ 5% | ・研究開発費 ≧ 4.6億円 ・研究開発費成長率 ≧ 1.9倍 または ・設備投資 ≧ 0.7億円 ・設備投資成長率 ≧ 3.0倍 | ・売上高 ≧ 1.5億円 ・売上高成長率 ≧ 1.1倍 |
C: 研究開発 特化類型 | ・売上高 ≦ 4.2億円 ・研究開発費 ÷ 売上高 ≧ 10% ・営業利益 < 0 | ・研究開発費 ≧ 6.5億円 ・研究開発費成長率 ≧ 2.4倍 ・研究開発費増加額 ≧ 株式取得価格の15% | ― |
出典:経済産業省「オープンイノベーション促進税制(M&A型)の概要」
オープンイノベーション促進税制の利用手順
この制度はオープンイノベーションの促進を目的としているため、その目的に沿わない出資に関しては制度の対象外となります。
オープンイノベーション要件への該当性については、事前に経済産業省への相談を行うことも可能ですので、不明な点がある場合は事前相談をご活用ください。
制度の適用を受けるための手続きは以下の通りです。手続きが必要なのは、出資側の法人のみです。
①経済産業省への事前相談※(相談から30日以内に回答)
②スタートアップ企業への出資
③経済産業省への事前相談※(相談から30日以内に回答)
④経済産業大臣への証明書交付申請(事業年度末日の60日前~30日後)
⑤経済産業大臣による証明書の交付(申請から60日以内に交付)
⑥税務申告
※事前相談は任意手続き
オープンイノベーション促進税制の適用期限
この制度の適用期限は令和6年3月31日までとなっています。
また、所得控除を行った翌事業年度以降も、株式取得日から新規出資型であれば3年、M&A型であれば5年経過するまで、毎事業年度末に経済産業大臣に継続証明書の交付を求める手続きが必要となります。
おわりに
従来の投資に対する税制は減価償却資産が中心でしたが、この制度は出資した株式の取得額に対し所得控除を認めるという異例の措置になります。今回の税制改正で対象となる株式の範囲も拡大したため、活用を検討する企業も増えていくことになろうかと思います。
ご不明な点がありましたら、お気軽に辻・本郷 税理士法人までお問い合わせください。
法人ソリューショングループ 寺島 礼人
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