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【M&A成功の鍵】事例からわかる「財務デューデリジェンス」の本質とは?

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【M&A成功の鍵】事例からわかる「財務デューデリジェンス」の本質とは?

※本稿は辻・本郷 税理士法人が所属する辻・本郷グループの「辻・本郷 FAS株式会社」による特別寄稿です。

M&Aは、単なる資本の移動ではなく、企業の未来を左右する意思決定の連続です。そして、その成否の分かれ目となるのが「デューデリジェンス(DD)」。
調査項目は、財務・税務・法務・労務・ビジネス等非常に多岐にわたります。

辻・本郷 FAS株式会社では、事業承継やM&Aに付随するDDやバリュエーションから、M&A後のコンサルティングまでをサポートしています。

私たちから今回ご紹介するのは、財務デューデリジェンスにまつわる事例です。
「順調に進むはずだったM&A」が、一つの財務データの違和感をきっかけに、大きく方向転換することになりました。

DDは単なる「確認作業」ではなく、M&Aの成否を左右する「洞察と判断」のプロセスなのだと、改めて実感した案件でした。

案件概要:
理想的なターゲット企業のはずが…

ご紹介する事例は、買い手企業A社と売り手企業B社による一般的なM&Aです。
私たちは、仲介業者からの紹介により財務DDを担当するという立ち位置で本件に関与しました。

買い手企業(A社):業界での成長を目指し、シナジー効果を期待してM&Aを決断。
売り手企業(B社):財務的にも安定し、売上・利益率は上昇傾向。ターゲットとしては申し分ない企業。

B社は表面的な数値だけを見れば、すぐにでも契約を進めたくなるほど優良な企業でした。しかし、DDのプロセスで私たちは「数字の裏に潜む異変」を発見したのです。

見過ごせない違和感:
「利益は出ているのに、キャッシュが足りない?」

見過ごせない違和感

財務諸表上、B社は安定した黒字企業。しかし、詳細に分析すると「営業キャッシュフローが少ない」ことが判明しました。

簡単に言えば、利益は出ているのに、お金が増えていないのです。
なぜか?——徹底的に掘り下げると、以下の問題が浮かび上がりました。

1. 売掛金回収の遅れ

B社の主要顧客は、業界大手のX社。しかし、このX社は「90日後払い」の条件を提示していました。一方、B社自身は仕入先に30日以内の支払いを要求されていたため、常に資金繰りが厳しい状態だったのです。
M&A後に買い手企業A社がこの負担を引き継ぐと、運転資金が圧迫される可能性がありました。

2. 「隠れた負債」——リース契約の罠

財務諸表の貸借対照表には負債として計上されていないリース契約がいくつも存在。特に、業務用設備のリースが長期にわたるものであったり、ファイナンスリース取引の判定プロセスに当てはめるとリース負債を認識しなくてはならないものであったり、と実質的な負債と見なさなければならないものでした。

これにより、想定していたよりも買収後の負担が大きくなることが判明しました。

3. 利益率の操作

B社の売上が増加傾向にあるのは確かでした。しかし、詳細に分析すると、売上の計上時期が期首期末に集中していました。納品のタイミングや検収のタイミングをずらすことで売上計上時期をコントロール。結果として直近の決算での利益率が向上しているように見せていることが判明しました。

決断のとき:
「本当に買収するべきか」

M&Aの世界では、買い手だけでなく、売り手、金融機関、仲介業者、各DD担当の専門家等、利害関係者が多岐にわたります。買収の意志が固まっていると、DDの結果を軽視して「予定通り進めたい」という心理が働きがちです。

しかし、私たちは以下のポイントをデューデリジェンス報告にて強調しました。

  • 買収後、キャッシュフローが圧迫されるリスク
  • 「負債が少ない」ように見えて、実はリース契約が実質的な負担になっていること
  • 売上高の計上時期を適切に修正すると想定よりも利益水準は低いこと。

この情報を受け、A社はB社との追加交渉を開始しました。

クローズに向けた調整:適切な買収価額

M&Aは仲介業者などにより全体スケジュールが管理されており、追加交渉により時期が後ろ倒しに変更することは容易ではありません。特に売り手が強気である場合には他の買い手候補と交渉をしてしまう可能性もあります。
しかし、DDで発見されたリスクを正しく交渉に活かせば、より良い条件を引き出すことが可能です。

A社は以下の3つのアプローチを取りました。

1. 支払い条件の見直し交渉

M&Aの実行前にX社(B社の主要顧客)との間で、支払いサイトの短縮交渉を実施することを約束。解決が見込まれない場合には買収価格の下方修正することとした。

2. リース契約の一部解約交渉

B社が抱えていたリース契約のうち、不要な設備については解約もしくはB社のオーナーが契約を引き継ぐこととし、B社の実質的な負債の削減を実施。

3. 利益率の下方修正により買収価額を調整

買収価額は純資産に複数年分の営業利益を加算する(いわゆる年買法)ことを想定していました。利益率を下方修正したことで買収価額への反映を実施。

これらの調整が功を奏し、A社はB社を適正な条件で買収することに成功しました。

財務DDの本質:
「見えないリスクを可視化する」

財務DDの本質

この案件を通じて改めて感じたのは、財務DDは単なる数値チェックではなく、未来のリスクを可視化し、適切な交渉材料を提供するプロセスだということです。

「一見すると優良企業だが、細かく見ていくと意外な落とし穴がある」
こうしたケースは決して珍しくありません。

今回は財務デューデリジェンスに着目しましたが、これ以外にも法務上のリスクや税務上のリスクなどを理由に追加交渉が必要となることも多々あります。

M&Aの世界では、最終契約を締結するまでに無数の意思決定が求められます。私たちはこれからも、企業の未来を左右する判断のサポートを行い、M&Aの成功を導いていきます。

M&Aに必要な手続きをサポートする、辻・本郷 FAS株式会社のご紹介

辻・本郷 FAS株式会社では、実態調査・株価算定・PPA・PMIなどM&Aに必要な手続きすべてのワンストップサポートを行っています。

グループ法人である辻・本郷 税理士法人との協業により税務面のサポートが可能である点を強みとしています。
私たちの提供するサポートについて、企業担当者様からのご相談を随時承っております。ぜひお問い合わせください。

執筆担当:辻・本郷 FAS株式会社 山田 翔吾
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