国外転出時課税(出国税)をご存じですか?
- 所得税
「出国税」という制度をご存じでしょうか。
一般的には、出国税というと「国際観光旅客税」と「国外転出時課税」の2通りが考えられます。
前者は、航空会社等が日本から出国する旅客に対し、チケット代金に上乗せして(2022年現在は出国1回につき1,000円)徴収したものを国に納付する税金です。
一方、後者は国内の居住者が国外へ移住等する際に、所有している資産の含み益に対して課税される「所得税」を指します。
今回は、後者の「国外転出時課税」についてご紹介します。
誰に対して、どんなときに課税される税金?
国外転出時課税は、時価1億円以上の有価証券等を所有している国内居住者※に対して課される税金です。
※国外転出等を行った日以前の10年以内に、日本国内に5年を超えて住所や居所がある人を指します
その仕組みは、課税時期までに発生しているその有価証券等の「含み益」について、実際には有価証券等を売却等していなくても、精算したものと「みなして」所得税が課税されるという制度です。
国外転出時課税、なぜ払う?
この制度の創設には、次のような背景があります。
国外に居住している人が日本法人の株式を売却した場合、原則として日本では課税されず、居住している国で課税されます。
諸外国のうちには、株式等の含み益に対する課税が非課税となる国もあります。
こうした国に居住している人が株式等を売却した場合には、その含み益に対して、居住国でも日本でも課税されないこととなります。
このような国外での課税逃れを抑制するために、国内からの出国時に、その株式等の含み益を精算して課税してしまおうという目的で、平成27年度の税制改正により国外転出時課税が創設されました。
課税される実際のケース 2パターン
さて「出国時」と記しましたが、実際に課税されるタイミングは大きく分けて2つのケースが考えられます。
ケース1:国内居住者が出国するとき
時価1億円以上の有価証券等を所有している国内居住者が、国外へ転出する(移住等により国内に住所や居所がなくなる)ときに、国内居住者に対して所得税が課されます。
ケース2:国外居住者に対して相続や贈与があったとき
時価1億円以上の有価証券等を所有している国内居住者が、国外に居住する親族等にその有価証券等の全部または一部を贈与、または相続させたときに、その国内居住者に対して所得税が課されます。
相続や贈与が絡むので少し複雑に感じますが、あくまでも「国内居住者に対して」「所得税」が課されます。
なお、相続があった場合で、相続人のうちの一人が国外に居住しており、遺言等がなく、有価証券等の遺産分割協議が必要な場合には注意が必要です。
最終的にその相続人が有価証券等を相続しなくても、遺産分割協議が被相続人の所得税の準確定申告期限までに整わないときは、国外居住の相続人が有価証券等を法定相続分で相続したものと仮定して国外転出時課税の計算を行い、一旦、準確定申告をする必要があります。
そして、必要に応じて、遺産分割協議が整い次第、修正申告や更正の請求を行うこととなります。
<参考ページ>【辻・本郷 相続センター】「相続人の中に海外に住んでいる人がいる場合の手続きは?」
【同上】「被相続人(亡くなられた方)の所得の申告と納税 ~準確定申告~」
【同上】「更正の請求 ~納め過ぎた税金は戻ってくる?~」
どのような資産が対象になるの?
国外転出時課税の対象となる資産は、有価証券等です。具体的には以下のようなものが該当します。
- 株式や投資信託
- 匿名組合契約の出資の持分
- 未決済の信用取引、発行日取引
- 未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)
いつまでに申告・納付すればいいの?
国外転出時課税の申告と納付については、出国の際に納税管理人の届出を提出するか否かで、その申告や納付の時期だけでなく、評価の基準とする時期等も変わってきます。
また、実際には売却等していないため納税する資金がないという方のために、納税を猶予する制度も設けられています。
国外転出時課税の申告・納付の概要
国外転出までに | 申告期限 | 申告する価額 | 納税猶予制度の利用 | その他の要件 | 納税 |
---|---|---|---|---|---|
納税管理人の届け出あり | 翌年の確定申告期限までに | 国外転出時の価額で | 納税猶予制度を利用 | 確定申告の提出期限までに担保を提供 | 納税猶予の適用 |
納税猶予制度を利用しない | 確定申告の提出期限までに納付 | ||||
納税管理人の届け出なし | 国外転出時までに | 国外転出予定日から起算して 3カ月前の価額で | 利用不可 | 国外転出までに納付 |
納税猶予制度の概要
国外転出時課税の申告をする人が、一定の手続きを行った場合には、最長5年間(延長の届出をした場合には10年間)その納税を猶予することができます。
この適用を受けるためには、以下のような手続きが必要です。
適用を受けるための手続き
- 国外転出時までに納税管理人の届出を行う
- 確定申告書に納税猶予の特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類※ を添付する
- 確定申告書の提出期限までに、担保を提供する
※「国外転出等の時に譲渡又は決済があったものとみなされる対象資産の明細書 (兼納税猶予の特例の適用を受ける場合の対象資産の明細書)《確定申告書付表》」および「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例等に係る納税猶予分の所得税及び復興特別所得税の額の計算書」を添付します。
納税猶予期間中の手続き
納税猶予期間中は、各年の12月31日に所有している対象資産について、納税猶予の特例の適用を受けたい旨の届出書を提出します(翌年の3月15日までに)。
納税猶予期間が満了した場合
上記の5年(または10年)の納税猶予期間の満了日から4カ月以内に、猶予されていた所得税(利子税もあわせて)を納付する必要があります。
納税猶予期間中に対象資産を譲渡等(譲渡、決済又は贈与)した場合
その譲渡等があった時点で納税猶予の期限が確定し、その譲渡等から4カ月以内に所得税(利子税もあわせて)を納付する必要があります。
2つの減額措置があります
国外転出時課税制度は、その立法趣旨から、対象となった有価証券等を国外で譲渡等することなく所有したまま帰国した場合には、一定の要件のもと課税の取消しをすることもできます。
また、状況に応じて、一旦支払ったみなし課税を減額できる措置もあります。
納税猶予制度の適用を受けていない場合の減額措置
国外転出時課税の申告をした人が国外転出等から5年以内に帰国し、その帰国時まで対象資産を引き続き所有している場合には、国外転出時課税の適用がなかったものとして、課税の取消しをすることができます。
課税の取消しをするためには、帰国の日から4カ月以内に更正の請求または修正申告をする必要があります。
納税猶予制度の適用を受けた場合の減額措置
国外転出時課税の申告をし、納税猶予制度の適用を受けた人が、納税猶予期間中(上記の5年または10年以内)に帰国し、対象資産を引き続き所有している場合には、国外転出時課税の適用がなかったものとして、課税の取消しができます。
課税の取消しを受けるためには、帰国した日から4カ月以内に更正の請求または修正申告を行う必要があります。
また、納税猶予期間が満了した場合や納税猶予期間中に譲渡等した場合にも、その満了日や譲渡等があった日の対象資産の価額が国外転出時よりも下落している場合には、それぞれの日から4カ月以内に更正の請求をすることにより減額措置を受けることができます。
おわりに
国外転出時課税制度は、所得税の中ではなじみの薄い制度かもしれません。また、贈与や相続等と絡む場面も多く、すこし理解が難しい制度にもなっています。
しかしながら、国際交流が豊かになっている現在では、国外に居住している方も多く、この制度の対象になるケースも少なくありません。
納税者の「知らなかった」は、税務署に加算税等を免除してもらうための「正当な理由」にはなりません。つまり、「知らなかった」では済まされないのです。
厳しい判断と思われるかもしれませんが、そのためにもぜひ専門家にご相談いただくことをお勧めします。
私たち辻・本郷 税理士法人でもご相談を承っておりますので、お気軽にご連絡ください。
<参考サイト>
【国税庁】タックスアンサー No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
【同上】国外転出時課税制度 FAQ
【同上】国外転出時課税制度のあらまし(平成27年5月)パンフレット
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