介護福祉・障害福祉の2024年報酬改定で何が変わった?
- その他
2024年は介護分野と障害福祉分野において3年に一度の報酬改定が行われ、4月から施行されています。
福祉サービスを運営する事業者にとって、収入基盤となる報酬の改定は影響が大きいものであり、毎回注目を集めます。
また、2024年は2年に一度行われる医療分野の診療報酬改定と重なる「トリプル改定」の年ということもあり、さらに関心が高まっています。
「報酬」とは?
介護サービスや障害福祉サービスを提供する事業者のおもな収入源は、国が定めるサービス提供の対価として得られる報酬です。
介護報酬は、原則として利用者が1割を負担し、残りは40歳以上の国民が支払う介護保険料や公費を原資として介護保険制度から支払われます。
障害福祉サービス報酬も同様に、原則として利用者が1割を負担し、残りは各自治体の公費でまかなわれます。
報酬は点数制であり、点数に対して地域区分に応じた係数を掛け合わせることで報酬金額が決定します。
報酬の内容としては、提供するサービスに応じた「基本報酬」を受け取ることになりますが、例えば専門職の人員配置や手厚い職員配置など一定の基準を満たすことで「加算」が上乗せされます。
逆に、サービス内容に不足がある場合や、運営基準・人員基準などで指定基準を満たしていない場合には報酬が減算されることもあります。
ほとんどのサービスは基本報酬だけでは運営が難しいため、事業者にとっては加算項目の確保が重要な経営課題となります。
加算項目は、国が政策的に注力したい事項を反映しており、今回の改定でも加算項目に注目することで、国の考える方向性や福祉業界の進むべき道が見えてくるかと思います。
今回の報酬改定のおもな内容
2024年報酬改定では、サービスの質向上やサービス間比較を通じた一部サービスに対する報酬単位の是正などに限らず、人手不足や物価高騰といった外部環境への対応も図られています。
そのため、介護と障害福祉で類似している部分もありますが、区別して説明します。
介護福祉分野
介護分野の報酬改定においては、厚生労働省からの発表によると、人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、「地域包括システムの深化・推進」「自立支援・重度化防止に向けた対応」「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」「制度の安定性・持続可能性の確保」を基本的な視点としています。
(1)医療との連携
2024年の報酬改定は診療報酬改定と同じタイミングで実施されるトリプル改定の年ということもあり、今回は医療との連携という点が強調されています。
例えば、医療ニーズが高まる在宅利用者に対して、専門性の高い看護師による訪問看護を加算項目とするほか、入所施設においては地域の医療機関と連携し、配置医師の勤務時間外の駆けつけに対する評価が見直され、施設内で対応できない利用者に対する適切な診療体制の確保が進められています。
また、入院した利用者が退院後に再入所するための努力義務が設けられ、平時から緊急時、その後の医療との連携強化を図ることで、地域で包括的なケアを可能とする体制づくりをより目指す改定となっています。
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(2)処遇改善、労働環境整備
福祉業界では、以前から他業界と比べて賃金水準が低いことや、人手不足が深刻であることが問題となっており、昨今の日本全体でのベースアップの機運の高まりの中で、介護現場で働く人々に対する処遇改善も図られることとなりました。
今回の改定ではベースアップ目標を明確化し、複数あった加算項目を新たに処遇改善加算に一本化することで、「処遇改善の見える化」や柔軟な職種間配分が可能となりました。
また、最近の物価高騰や多くの福祉施設の赤字体質などにも起因しますが、今回の改定では基本報酬の全般的な増額が行われ、処遇改善加算の対象となる介護職員以外の職員の賃上げにもつながることが期待されています。
さらに、労働環境の改善という点でも、介護ロボットやICTの活用に加算項目を設け、生産性向上を図ることへの後押しとなる見込みです。
(3)業務継続計画(BCP)
コロナ禍と呼ばれる状況からは落ち着いてきましたが、施設には依然として感染症リスクが存在し、また、いつ起こるかわからない大規模災害リスクも存在します。
これらの施設運営に関するリスクに対して、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定が以前から求められてきました。
今回の改定では、これをさらに徹底するため、感染症もしくは災害に関する業務継続計画が未策定の場合には、基本報酬が減算されることとなりました。
障害福祉分野
障害福祉においても、介護と同様の方針が見受けられます。
例えば、処遇改善に関しては、障害福祉でも一本化及び加算率の引き上げが図られています。BCPに関しても、未策定の場合には基本報酬が減算されることとなり、介護と足並みをそろえています。
医療との連携も謳われており、具体的には医療的ケアが必要な人の受入れ体制の拡充のための加算項目の新設や見直し、重度障害者が入院した際のコミュニケーション支援の充実、感染症対策での連携強化、相談支援業務での通院同行などの医療なニーズに対応できる加算項目の新設・見直しなどです。
一方、障害福祉分野で特筆すべき点として地域移行の推進があげられます。
今回の報酬改定では施設のすべての入所者を対象に、今後どこで暮らしたいか、本人の意向を確認することが義務付けられました。
また、施設から地域へ移行し入所定員を減らした場合の加算措置や、グループホームを離れて一人暮らしするなど本人が望んだ生活スタイルに向けた支援の充実なども図られています。
そして、こうした地域で支える体制を整備すべく、相談業務の拡充や、市町村や相談支援事業所などとの連携をスムーズに行うための情報連携等を担う拠点コーディネーターの配置に対する評価の新設も行われます。
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このほか、今回の改定で触れるべきものとしては、対応が不十分とされる強度行動障害の状態にある人への受け入れ体制強化なども挙げられます。
おわりに
触れることができなかった部分もありますが、2024年の報酬改定について要点をご紹介しました。
今回の報酬改定では、物価高騰や賃上げという業界に留まらない課題にも対応したものを含み、医療との連携や地域包括支援といった内容に関しては福祉業界に対するメッセージとも言えます。
積極的な加算を取るためには、経営環境を整備するだけでなく、次回以降の報酬改定も見据えて潮流を読むことが重要な経営課題になるでしょう。
社会福祉法人部 藤江 高寛
- 【厚生労働省】「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
- (同上)「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」
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