海外勤務従業員の一時帰国に係る給与の取り扱いについて
- 法人税
長期にわたるコロナ禍の影響で、海外赴任をしていた多くの従業員が一時帰国しています。こうした場合の取り扱いについては、いくつか留意すべき点があります。
取り扱いを誤ると、法人・個人に対して大きな追徴課税が行われるリスクがありますので、注意が必要です。
今回は、そのポイントを整理します。
非居住者である従業員へ支払う給与の種類と原則的取り扱い
一般的に、非居住者である海外出向者には、次のような給与等が発生するものと考えられます。
- ①海外子会社等から直接支給される現地給与
- ②海外子会社等から直接支給される住宅手当等
- ③日本親会社から支給される較差補填給与
- ④日本親会社から支給される留守宅手当等
非居住者に支払われる給与については、以下のとおり取り扱われることになります。
区分 | 支払場所 | 判定 | 源泉所得税の有無 |
---|---|---|---|
国内勤務による給与 | 国内 | 国内源泉所得 | 有※ |
国外 | |||
国外勤務による給与 | 国内 | 国外源泉所得 | 無 |
国外 |
※国外払いの給与は、別途確定申告による納税が必要となります。
つまり、その従業員がどこで勤務していたかにより、所得の源泉が判定されることになります。
このため、従業員が非居住者として海外勤務している場合、上記①から④の給与は、原則として全世界所得(所得が生じた場所が日本・海外を問わないすべての所得)として現地国において課税されると考えられます。
一方、日本においては、①②はもちろん課税対象外ですが、日本で支払われる③④についても、国外源泉所得として課税の対象外となります。
ただし、一時的に日本に帰国している従業員に対し上記の給与が支払われた場合、それらの給与はすべて国内源泉所得に該当し、③④は源泉所得税の対象となり、①②は個人が別途確定申告により納税をする必要があります。
租税条約による短期滞在者免税の取り扱い
上記のような一時帰国の場合において、日本と海外子会社のある国との間に租税条約(二重課税の排除や脱税の防止などを目的とした国家間の条約)が締結されている場合、下記の要件を満たすことで日本における課税が免除されます(短期滞在者免税)。
短期滞在者免税の要件
- 日本での滞在期間が課税年度または継続する12カ月を通じて合計183日を超えないこと
- 報酬を支払う者は、勤務が行われた国の居住者でないこと
- 給与等が、役務提供地にある雇用者の支店等によって負担されないこと
※この要件は一般的なものであり、個々の租税条約等によってその要件が異なりますので、適用される租税条約等を確認する必要があります。
日本親会社から支払われる給与
日本に一時帰国中の非居住者に対し、日本親会社から支払われる給与がある場合には、その給与は短期滞在者免税の適用要件を満たさないことになります。
この場合には非居住者に対する給与として、親会社はその支払時において20.42%の源泉所得税を徴収する必要があります。
現地法人から支払われる給与
日本親会社から支払われる給与がないとしても、一時帰国の期間が183日を超えた場合には、短期滞在者免税の適用はなくなり、非居住者が日本で勤務したことの対価は国内源泉所得となります。
海外で支払われる給与も国内源泉所得に該当し、日本での勤務開始にさかのぼり、日本の所得税の課税対象となります。
おわりに
従業員である海外出向者が長期にわたって日本に帰国するのはこれまではレアケースだったと思われますが、昨今のコロナ禍の影響で、想定外に長期間にわたり日本に滞在する出向者も多いと考えられます。
みなさまの会社におかれましては、
- 出向者の一時帰国の状況
- 出向先国との租税条約の有無と内容
- 日本親会社からの給与の支払いの有無
などについてあらためてご確認いただき、追徴課税されることのないよう、ぜひご注意ください。
法人ソリューショングループ 酒井 啓二
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