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税務調査で指摘を受けやすい、自社利用のソフトウェアについて

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税務調査で指摘を受けやすい、自社利用のソフトウェア製作費

昨今のICTの発展や新型コロナを背景に新たにシステムを導入したり、はたまた自社仕様にソフトを製作した事業者様も多いのではないでしょうか?

その際に生じた開発費用、構築費用等を「自社利用のソフトウェア」あるいは「繰延資産」として税務上適切に処理した事業者様がほとんどだと思います。しかし、意外にもこの点が税務調査の指摘事項として上がる傾向が最近多くなっています。

今回は「自社利用のソフトウェア」について、その考え方を中心に解説致します。

税務上の基本的な扱い

はじめに基本的な考えとして、自社利用のソフトウェアを購入または製作した場合、次のように取得価額を算出します。

購入した場合 ①と②合計額 製作した場合 ①と②合計額
①購入代価+購入のために要した費用 ①製作のために要した原材料費+労務費+経費の額
②事業の用に供するために直接要した費用の額 ②事業の用に供するために直接要した費用の額

減価償却資産である自社利用のソフトウェアも、機械装置を購入した場合と同様に本体の購入代価およびその付属費用の合計額が、製作したら原材料費のみならず開発担当者の人件費も含めて取得価額を算出します。

しかし、次に掲げるような費用の額はソフトウェアの取得価額に算入しないことができるとされています。

法通7-3-15の3に規定された、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用

(1)自己の製作に係るソフトウェアの製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかなものに係る費用の額
(2)研究開発費の額(自社利用のソフトウエアに係る研究開発費の額については、その自社利用のソフトウエアの利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合における当該研究開発費の額に限る。)
(3)製作等のために要した間接費、付属費用等で、その費用の額の合計額が少額(その製作原価のおおむね3%以内の金額)であるもの

注意すべき点は(2)のカッコ書きされた箇所です。
会計と税務で違った言い回しをしていることから、考え方について十分留意すべき事項です。

仕訳の摘要から資産性がないと判断できても、見積書や稟議書などに「開発」「構築」「要件定義」等のキーワードの記載があれば、税務はその内容の実態を確認し、処理を考察する必要があるかと思われます。

会計と税務で考え方が異なる?

会計と税務で考え方が異なる?

「将来の収益獲得または費用削減」とは?

ここから先の解説では、「将来の収益獲得または費用削減」という言葉が多様されます。

これを簡単に説明すると、「会社が通信ソフトウェアを製作し、これを第三者へサービス提供を行って対価を得る場合や、業務管理ソフトを購入または製作し、従前よりも業務効率が向上することにより人件費等の削減が可能になるなど、その導入によって将来的に効果(収益獲得または費用削減)が得られるもの」とイメージして頂ければと思います。


先ほど引用した法通7-3-15の3(2)について深堀りすると、自社利用のソフトウェアについて会計と税務それぞれの資産認識の考えは次の通りです。

会計 将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる状況になった時点
税務 将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められない場合以外

一見、両者とも似たような言い回しをしていますが、ここに大きな落とし穴があります。

会計は、将来の収益獲得または費用削減が確実となった段階で資産として認識し、それまでの費用を「研究開発費」として扱うため、資産計上について保守的な考え方をします。

一方で税務は、恣意性や利益調整などを嫌っているので、将来の収益獲得または費用削減が確実に認められないと判断できる場合以外は、当該研究開発費の額を資産として認識する積極的な考え方をしています。

これまでに、多くの事業者様が会計の考えのまま税務処理をしたがゆえに、税務調査で両者の相違点を指摘され、当該費用は「自社利用のソフトウェア」である、と是正されることがしばしばありました。

この場合は、資産が完成し、事業供用を開始した日から法定耐用年数である「5年」で減価償却することになります。

自社利用のソフトウェアに係る研究開発活動

会計と税務で考え方に相違があることをお気づき頂けたかと思います。では、いつの段階から税務は資産計上が必要になるのでしょうか?

会社によって製作フローはまちまちかと思いますが、一般的に開発フェーズは社内の企画から始まり、そして開発、導入といった流れになると想定します。

判断期間

この期間は、開発・導入についての判断段階であり、実際に製作するかは決定されていません。この期間に生じた費用は、債務確定要件または別段の定めに従って適正な税務処理をします。

研究開発期間

製作を決定した以後の期間は、研究開発活動に係る期間として、この期間に生じた費用を研究開発費として認識します。

ただし、税務では自社利用のソフトウェアの製作にあたりこの研究開発費について、将来の収益獲得または費用削減が確実と認められない場合以外は「資産計上」を求めています。

使用期間

完成後は、保守費なら損金、修繕費なら損金か資本的支出かのいずれかを検討し、適切な処理をする必要があります。

開発フェーズ 企画 開発製作・試行・修正・完成 導入
期間 判断期間 研究開発期間 使用期間
科目 調査費など 研究開発費(原材料費・人件費・外注費等)
ソフトウェア仮勘定
保守修繕費
ソフトウェア
会計処理 費用 将来の収益獲得等が確実 →資産
どちらともいえない(不明) →費用
確実と認められない →費用
費用
ソフトウェア
税務処理 損金 将来の収益獲得等が確実 →資産
どちらともいえない(不明) →資産
確実と認められない →損金
損金
ソフトウェア

おわりに

最近の税務調査では、自社利用のソフトウェアについて論点となることが多くあります。
会計と税務で考えが相違していることから、調査官からすれば指摘がしやすい点と、やはり昨今のデジタル化社会の背景を鑑みれば、令和のトレンド的な税目なのかもしれません。

今回は自社利用のソフトウェアの基本的な考えを取り上げて解説しましたが、更に論点として「修繕・資本的支出」や「試験研究費の税額控除」も上げられます。

もし税務処理について迷うことがございましたら、私たち辻・本郷 税理士法人にご相談下さい。
顧問税理士の判断内容を第三者目線でチェックする「セカンドオピニオン」サービスも好評を頂いています。

執筆担当:新宿ミライナタワー事務所
 法人ソリューショングループ 内藤 敬伍
参考資料
  • 成松洋一『八訂版 試験研究費の法人税務』一般社団法人大蔵財務協会 2020年
  • 法人税法第2条第1項23号
  • 法人税法第22条
  • 法人税法施行令第13条第1項八号リ
  • 法人税法施工令第54条第1項1、2号
  • 法人税法基本通達7-3-15の2、7-3-15の3
  • 耐用年数省令別表第3
  • 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 11、12、13
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