早めの準備が大切!医業の第三者承継(M&A)のプロセスは?
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超高齢社会を背景とした後継者不足は、どの業界でも問題となっています。病院・クリニック業界も例外ではなく、経営者の高齢化が進み、後継者問題が課題となっています。
従来は親子や親族間での承継が大半でしたが、近年は第三者による事業承継(以下、M&Aといいます)を選択するケースが増加しており、経営の幅が広がってきています。
今回は、M&Aの主なパターン、ポイントおよびスケジュールについてご紹介します。
なお、M&Aは検討事項が多く、さまざまなプロセスを踏む必要があるため、早めの準備がお勧めです。
医業M&Aにおける売り手・買い手それぞれにとってのメリット
M&AとはMerger and Acquisitionの略で、会社の合併と株の買占めを組み合わせた用語になります。M&Aは売り手側にとって、以下のようなメリットがあります。
- 病院やクリニックの存続
- 従業員の雇用の継続
- ストレートな条件交渉ができる
- 廃院時にかかる手間やコストを抑えられる
また、買い手側(個人の医師、医療法人、一般企業など)にとっては以下のメリットがあります。
- 従業員の確保
- 開業資金を抑えることができる
- 病床の規制・地域参入障壁の回避
- 事業規模の拡大
病院・クリニック業界のM&Aはおもに3種類
病院・クリニック業界で考えられるM&Aのスキームは、おもに下記の3種類となります。
- 個人クリニックが、事業そのものを譲渡するパターン(事業譲渡)
- 持分あり医療法人の持分を譲渡するパターン(出資持分譲渡)
- 持分なし医療法人の社員の地位を承継するパターン(社員の退社・入社)
次に、それぞれのスキームについて解説します。
[パターン1]個人クリニックが、事業そのものを譲渡する(事業譲渡)
運営する施設の資産等の全部または一部を他へ譲渡する手法です。クリニックの院長がクリニックをまるごと個人の医師や医療法人へ事業を譲渡したり、医療法人が個人の医師や医療法人へ譲渡したりするパターンがあります。
これは引き継ぐ資産等の協議を行ったり、経営主体の変更に伴う医療機関の閉鎖と開設の届け出、従業員と雇用の再締結を行ったりするため、比較的時間を要するものになります。
[パターン2]持分あり医療法人の持分を譲渡する(出資持分譲渡)
医療法人の持分とは、定款の定めるところにより、法人設立時の出資者が出資割合に応じて、医療法人からの払戻しや残余財産の分配を受ける権利(財産権)のことです。
平成19(2007)年4月より前に設立された医療法人が持分有りの医療法人に該当することがあります。
この財産権は譲渡することが可能であり、個人の医師が出資持分のすべてを買い取って医療法人のオーナーの地位を取得することで、医療法人を承継することができます。
社団医療法人の場合、持分譲渡後、公的な届け出は社員と理事の交代に伴う役員変更届出だけで済むため、短期間でM&Aを完結させることが可能です。
[パターン3]持分なし医療法人の社員の地位を承継する(社員の退社・入社)
社員とは株式会社における株主の意味合いに近く、社団を形成する人々のことをいいます。
社員の地位を承継するパターンとは、この社員の地位を買い手と交代する手続きを行い、経営権を引き継ぐことです。
パターン2とは異なり、出資持分がないため、譲渡対価を売り手に支払うことができません。そのため医療法人の内部留保(繰越利益剰余金)の中から、売り手の在職中の功績を退職金として支払うことが一般的です。公的な届け出は社員と理事の交代に伴う役員変更届出だけになるため、パターン2と同様、短期間でM&Aを行うことができます。
M&A検討時に売り手が押さえておくべきポイント
事前に売り手側が確認しておきたいポイントを以下にまとめましたので、M&Aを検討する際の参考になさってください。
- 期間としては、引退希望時期の2~3年前から検討する。
- すぐに売却できるとは限らない(数回の破談はあり得る)。
- 譲渡対価は希望通りにならず値下げとなる可能性もある。
- 過去のトラブル(医療、人事、税務)はすべて伝える必要がある。
- 売手のスピードと買い手のスピードは合わない場合もある。
- 現状の契約(不動産の賃貸借、リース、借入金)状況の確認をしておく。
- 引継ぎ資料等の準備をしておく。
- 引継ぎに際して買い手に依頼したいことを整理しておく。
売り手側のM&Aスケジュール
売り手側における一般的なスケジュールは次の通りです。
【STEP1】 検討段階 |
初期的な検討事項の整理・M&Aの方針決定 |
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【STEP2】 準備段階 |
1.初期的な検討事項の整理M&Aの方針決定 2.ビジネスインタビューの実施 3.価値評価算定の実施 4.提案資料の作成(ノンネームシートの作成、秘密保持契約書の締結、企業概況書の作成) 5.買い手候補者の選定 6.買い手候補先への提案(売手からの情報開示) 7.トップ面談の実施(内覧) 8.買い手候補先からの意向表明書の受領 |
【STEP3】 交渉段階 |
9.M&Aの基本条件の交渉 10.基本合意書の締結 11.デュー・デリジェンスの実施(法務・財務・労務など) |
【STEP4】 実行段階 |
12.最終条件の交渉(スキーム・譲渡対価・諸条件の確定、弁護士による確認) 13.譲渡契約書の締結 14.クロージング(クロージング条件の充足、法的手続き、代金決済) |
おわりに
今回は医業における第三者承継のおもなスキーム、ポイントおよびスケジュールについてご紹介いたしました。
医業におけるM&Aは、経営主体が個人か医療法人かによってデュー・デリジェンスの内容が異なること、都道府県、保健所、厚生局の行政手続きが必要であること、他にも従業員や患者情報等の引継ぎを行う必要があることなどが挙げられます。
また、医療法人の場合は、持分の定めのある医療法人か、持分の定めのない医療法人かによってもスキームそのものが異なります。
さらに最近では、クロージング後に譲渡対価が支払われないなどのトラブルが発生しています。
スムーズでトラブルのない承継の実現に向けて、スキームの正しい理解と早めのスケジュールの検討を行うことが重要となります。
私たち辻・本郷 税理士法人では、税務面を含め総合的なアドバイスを行っております。医業M&Aにご興味がありましたら、豊富な実績のある辻・本郷 税理士法人へお問い合わせください。
ヘルスケア事業部 中島 久実
- 【本郷メディカルソリューションズ】「医業における第三者承継を行う上でのポイント
- 【中小企業庁】令和6年8月30日「M&Aに関するトラブルにご注意ください」
- 青木 惠一「医療法人の設立・運営・承継と税務対策」税務研究会出版局
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