利益把握に欠かせない!原価計算の基本
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- 税務・会計
最近、お客様先での税務調査立ち合いの際に、調査官と原価計算についてお話する機会がありました。
原価計算は思いのほか複雑な一面があり、税務調査で指摘を受けやすい内容です。
今回は、原価計算の基本的な知識をお伝えします。
原価計算の必要性
原価を適切に把握、管理することは会社を経営していくうえで非常に重要といえます。
具体的には、2つの目的があります。
適正な利益の把握
売上高から売上原価(期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高)を控除して算出する売上総利益は、いわば会社のビジネスそのものの儲けです。
誤った原価計算は、利益率が悪いのに「良い」と誤認し改善策を打てなかったり、逆に儲かっているのに「損をしている」と勘違いし不要なコストカットを行うといった、誤った意思決定をしてしまう危険性があります。そのため、適切な原価計算が必要です。
税務リスクの低減
税務調査では、必ずといっていいほど原価と棚卸資産の計算プロセスを確認されます。
原価計算が適切に実施されておらず、税務調査のタイミングで棚卸資産の計上漏れや原価の計算誤りを指摘されてしまいますと、法人税、地方法人税、地方税が追徴され、過少申告加算税、延滞税といった罰則が課されてしまいます。こうしたことからも、重要性がわかります。
原価計算の一般論
税務上は原価計算に関する具体的な定めはありません。従って、原価計算基準に基づき原価計算を実施することになります。
なお原価計算基準とは、原価計算の指針、大枠です。慣習として発達してきた原価計算の中から一般に公正・妥当と認められるものを1962年大蔵省企業会計審議会が成文化したものになります。
原価計算の目的
原価計算には、3つの目的があります。
- 財務諸表作成目的…会社にとって不可欠な財務諸表を作成するために、原価計算は欠かせません。
- 原価管理目的…売価変更やコストカットといった意思決定に役立ちます。
- 予算編成目的…翌期の目標を設定することができます。
原価計算の順番
原価計算は、費目別⇒部門別⇒製品別の順に行います。
費目別計算
費目別計算とは、発生形態により原価を材料費、労務費、経費に分類することを指します。
さらに、費目ごとにその製品に直接要した費用を直接費、そうでない費用を間接費に分類します。
部門別計算
部門別計算とは、費目別計算で分類した原価を各製造部門に分類することを指します。
この部門は大きく製造部門と補助部門に区分され、直接費は製造部門に、間接費は補助部門に分類すると想像してください。
なお、補助部門に集計された費用は、適当な配賦基準(はいふきじゅん:複数の部門や製品にまたがる費用を振り分ける基準)に基づき、各部門に配賦します。
製品別計算
製品別計算とは、部門別計算で集計した原価を基に製品単位の原価を算定する手続です。
会社の形態に応じて、以下のような4つの累計に区分されます。
- 1. 単純総合原価計算:同種製品を反復連続的に生産する生産形態に適用する。いわゆる大量生産の原価計算。
- 2. 等級別総合原価計算:同種複数製品の生産形態に適用する。
- 3. 組別総合原価計算:異種複数製品の生産形態に適用する。
- 4. 個別原価計算:種類を異にする製品を個別に生産する形態に適用する。いわゆるオーダーメイドの原価計算。
この中でよく採用されるのは、1.単純総合原価計算と4.個別原価計算です。
単純総合原価計算は、例えば食品業のような大量一括受注をする業種に採用されます。
一方で個別原価計算は、例えば建設業のような個別受注をする業種に採用されます。
これらの過程を経て計算された製造原価を基に売上原価と棚卸資産の価額をそれぞれ算出して、原価計算は完了します。
税務調査で指摘されるリスクがあるのは?
費目別計算で直接費と間接費へ分類する手続が漏れている場合や、部門別計算を実施していない場合は、損金算入額が過大となっていることから、リスクがあるものと考えます。
製造原価に算入しないことのできる費用
前述した原価計算の原則に関わらず、法人税法基本通達5-1-4では製造原価に算入しないことのできる費用が定められています。
「算入しないことのできる」という任意規定のため、原価計算に含めても含めなくてもどちらでも大丈夫ですが、一時で損金算入できるため、納税者有利になります。
以下に、製造原価に算入しないことができる費用を国税庁Webサイトより引用します。
(1)使用人等に支給した賞与のうち、例えば創立何周年記念賞与のように特別に支給される賞与であることの明らかなものの額(通常賞与として支給される金額に相当する金額を除く。)
(2)試験研究費のうち、基礎研究及び応用研究の費用の額並びに工業化研究に該当することが明らかでないものの費用の額
(3)措置法に定める特別償却の規定の適用を受ける資産の償却費の額のうち特別償却限度額に係る部分の金額
(4)工業所有権等について支払う使用料の額が売上高等に基づいている場合における当該使用料の額及び当該工業所有権等に係る頭金の償却費の額
(5)工業所有権等について支払う使用料の額が生産数量等を基礎として定められており、かつ、最低使用料の定めがある場合において支払われる使用料の額のうち生産数量等により計算される使用料の額を超える部分の金額
(6)複写して販売するための原本となるソフトウエアの償却費の額
(7)事業税及び特別法人事業税の額
(8)事業の閉鎖、事業規模の縮小等のため大量に整理した使用人に対し支給する退職給与の額
(9)生産を相当期間にわたり休止した場合のその休止期間に対応する費用の額
(10)償却超過額その他税務計算上の否認金の額
(11)障害者の雇用の促進等に関する法律第53条第1項《障害者雇用納付金の徴収及び納付義務》に規定する障害者雇用納付金の額
(12)工場等が支出した寄附金の額
(13)借入金の利子の額
(国税庁 製造原価に算入しないことができる費用)
おわりに
今回は原価計算の必要性と税務上の留意点をまとめました。
原価計算の見直し等をお考えでしたら、ぜひ辻󠄀・本郷 税理士法人までお声掛けください。
<参考サイト>
【京都大学 岡村忠生ゼミ】原価計算基準
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