不動産取引にかかる消費税 ~課税・非課税の考え方
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不動産の取得・売却に消費税はかかるのでしょうか。
答えは……かかるものとかからないものがあります。
いわゆる課税・非課税の問題で、一見難しく思えますが、ルールさえ押さえてしまえば応用が可能です。
消費税を考えるうえで参考にしたい「担税力」
消費税については「担税力」=租税の負担能力という考え方が参考になります。
物品やサービスを消費する行為が、所得を得たり、資産を取り崩したりすることによって得られる経済力の行使であることに着目したものです。
消費税は国内における「消費」に担税力を求めて、事業者が行う商品の販売等の売上に対して課税する形を取っています。
したがって消費者は商品を購入したときに、その取引代金の10%に相当する消費税を負担することになります。
消費税がかからない非課税取引 2つのパターン
消費税は、すべての不動産の売却や貸し付けに対して課税されるわけではなく、非課税の取引もあります。
非課税取引には「その性質上消費税になじまない」とされるものと、「政策的配慮に基づくもの」2つのパターンがあります。
基本的に消費税の課税対象になるものの、上記パターンにあてはまる取引の場合は非課税取引として扱われ、消費税が課されません。
※非課税取引の対象については、国税庁タックスアンサー「No.6201 非課税となる取引」をご覧ください。
建物に対する消費税の考え方 ~減価償却をもとに
ここから本題です。不動産取引(土地・建物)を買ったり売ったりするときに消費税がかかるかを検討してみましょう。
少し専門的な話になりますが、会計上「減価償却」という制度があります。
有形固定資産(建物など)の取得原価(買った時にかかった金額)を、その耐用年数(使えると考えられる期間)における各事業年度に配分する(費用として計上する)ことです。
長期間にわたる利用および時間の経過などにより価値が徐々に減少し、やがては使用できなくなる。この価値の減少を減価として償却(費用化)するものです。
つまり、減価償却の対象となる建物や車などは、価値の減少がある=価値の消費がある資産として、購入の際に消費税がかかります。
購入者側が「消費税を払っている」ということは、販売者側は「消費税を預かっている」ということになります。
建物も同じことで、購入者側が販売者側に消費税を払っています。
これは、建物や車、食料品の「消費」に担税力を求め、売ったとき(=買ったとき)に消費する人が支払っています。
土地の取得・売却に消費税はかかるか?
土地の消費税は、少し考え方が違います。そもそも土地は「消費」するものでしょうか。
建物であれば一般的には中古は新築よりも価値が下がります(一部に例外もあります)。その建物の価値が消費したからです。
土地はどうでしょう。土地の価格は、物価の変動や需要と供給の関係等によって変動するだけです。
使用や転売によって価値が減少する、いわゆる「消費財」ではありません。土地は消費の対象とならない、ということですね。
このように消費の対象とならない土地の譲渡は「資本の移転」にすぎないため、非課税として消費税が課されません。
販売者側で消費税が課されないということは、購入者側も当然消費税を支払う必要はありません。土地の購入代金には消費税は含まれていない、ということになります。
また、他人の土地を自由に使うことができる権利「借地権」についても同じように、その権利の譲渡・購入に消費税はかかりません。
さらに土地の貸し付けは、長期間に及ぶことが多く、土地の譲渡とのバランスを考慮して非課税とされています。
ただし、条件によって消費税の取り扱いが変わるものがあります。参考に、よくお客様からいただく質問を2つ挙げます。
お客様からよくいただく質問から
1.土地の貸し付けについて
Q:(1)と(2)では消費税法の取り扱いは変わりますか?
- (1)アスファルト舗装をしたうえで、第3者に駐車場として貸し付けている
- (2)地面の整備をしないまま、第3者に駐車場として貸し付けている
A:変わります。
(1)はアスファルト=施設の貸し付けに伴ってその敷地として土地を利用させているので、課税取引となります。
(2)は更地として貸し付けている=土地の貸し付けとみなされるので、非課税取引となります。
2.土地建物の貸し付けと譲渡について
Q:当社は所有する土地の上に建物を建設し、法人に貸し付けています。なお、住宅として貸すものではありません。貸し付けの対価は、土地部分1,000万円、建物部分1,500万円です。
このたび、土地建物を一括して法人Aに譲渡することになりました(対価3億円)。このときの消費税の取り扱いはどうなりますか?
A:法人Aは年間2,500万円を支払ってこの土地付き建物を借り、本社として利用しています。
土地部分も借りていて、たまたま貸付金額が土地部分と建物部分に分かれているのでわかりにくいですが、建物部分だけを借りることはできません。
建物を本社として利用するために借りていますから、2,500万円は施設(建物)の借入れに対する対価と考えられ、課税仕入れとなります。
ただし、もし住宅や老人ホームとして使うための借入れであれば、非課税仕入れとなります。これは社会政策的配慮に基づくものです。
同じ土地と建物を貸す行為ですが、消費税の取り扱いが異なります。これが消費税を複雑に見せてしまう原因の一つです。
これに対して、土地付き建物を一括して譲渡する場合は、土地の譲渡は非課税に、建物の譲渡は課税になります。
また、その譲渡対価の額が、契約書等により土地部分と建物部分とに区分されていないときは、この対価の額を土地と建物の時価の比によって区分します。
個人事業者でも消費税が課税されるケース
個人事業者で以下2つの要件のどちらかに該当する場合は、当年度に消費税の課税事業者となり、納税義務が発生します。
- 1.その年の前々年の課税売上高が1,000万円を超えている場合
- 2.その年の前年の1月~6月の間の課税売上高が1,000万円を超え、かつ給料支払額の合計が1,000万円を超えている場合
この規定は事業用の建物を売却した場合でも、要件を満たせば、消費税の納税義務が発生するので注意が必要です。
いつもは売上が1,000万円以下のため消費税の納税義務がない方も、事業用の建物を売却したため、この要件を満たした場合は課税事業者となります。
[参考]消費税の課税対象となる取引4要件
以下の4つの要件を満たす取引が課税対象となります。
- 1.国内において行うものであること
- 2.事業者が事業として行うものであること
- 3.対価を得て(有償で)行うもの
- 4.資産の譲渡、貸し付け、役務の提供であること
よって不動産を売却する行為は「資産の譲渡」にあたり、「事業者」として行う場合には、消費税がかかります。
つまり、事業者でない個人が行う不動産の売却には、消費税はかかりません。
ここでいう「事業者」とは、法人や個人事業主をいいます。
したがって、事業者でない個人、例えば会社員などが、自分の住んでいたマンションを売却する場合にも、この売却価額に消費税は含まれません。
マンションを売却する場合において、消費税を預かる義務があるのは、法人や個人事業主などの「事業者」だけ、ということです。
おわりに
不動産取引がある場合、納税義務の有無の判定を含め注意が必要になります。
例えば、いつもは課税売上が1,000万円を超えず消費税を納める義務がない免税事業者である個人事業主が、建物を売却することにより課税売上高が1,000万円を超えたとします。
その年の2年後には課税事業者となり、消費税の計算をする必要が出てきます。
現在免税事業者の個人事業主の方は、2023年10月1日から導入されるインボイス制度とあわせて、消費税の納税義務について検討する必要があるかもしれません。
消費税についてお悩みの方は、お近くの辻・本郷 税理士法人までご相談ください。
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