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クリニックの事業承継で行うべきこととは?

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クリニックの事業承継で行うべきこととは?

事業承継の重要性についてメディアでも多く取り上げられるようになり、関心が高まっています。
ただ、実際には準備が手つかずで、相続が発生してから「もっと早く準備しておけばよかった」と重要性を実感する方も多いように感じます。

事業承継には親族内承継と第三者承継とがありますが、親族内承継であっても、行政手続き、事業用資産の承継、契約変更、退職金など検討すべき事項は多岐にわたります。
また、個人事業と医療法人では承継方法に違いがあります

今回は親子間でのクリニックの事業承継を例に、個人事業と医療法人の承継方法について多くの方が当てはまるであろう項目をそれぞれ6つご紹介します。

個人事業のクリニックの承継で行うべきこと

個人事業のクリニックの承継で行うべきこと

個人事業の承継は、親名義の個人事業を閉鎖し、子名義の個人事業を同じ場所で開始するという手続きになります。
外からは院長先生が変わっただけに見えますが、その裏側では多くの手続きが必要です。

1. 保健所や金融機関などとの事前協議

事業承継を円滑に進めるためには、事前に関係機関と十分に協議を行うことが大切です。
とくに医療機関の場合、保健所への届出などが必要ですので、早めに手続きの流れを確認しましょう。

また、金融機関から事業用の借入金がある場合、その使途が運転資金か設備資金か、担保や保証人の設定状況によって対応が変わります。

あとで計画が頓挫しないよう、承継を実行する前に保健所や金融機関と事前協議を行い、手続きや要件などを確認しておきましょう。

2. 「廃業」と「開業」の手続き

前述の通り、個人事業の承継では、たとえ親子間であっても親は「廃業」、子は「開業」の手続きが必要です。

クリニック承継(廃止・開設)から10日以内に届け出を行い、所轄の保健所に「廃止届」と「開設届」を提出します。

また、所轄の厚生局へ保険医療機関の「廃止届」と「指定申請」も提出しますが、空白期間なく保険診療を継続するために、指定期日の遡及も行う必要がありますのでご注意ください。

3. 事業用資産(医薬品、医療機器、不動産)の引継ぎ

親が所有している医薬品、医療機器、不動産などの事業用資産を子に承継する際、単純に贈与を行うと、子に贈与税などが課税されるため、時価での譲渡や賃貸を含めて個別に検討する必要があります。

医薬品は、細かいものも含め棚卸表を作成し、時価で譲渡することが一般的です。
親は売上として、子は仕入として処理します。

医療機器や不動産についても同様に時価で譲渡するか、特に不動産の場合は親から子に賃貸する方法も検討できます。賃貸にすれば、親が継続的な収入を得られる点もメリットです。

4. 従業員の引継ぎ

クリニックの従業員は親の個人事業に雇用されていますので、承継にともない一旦退職させ、子の個人事業で新たに雇用する手続きが必要です。
このタイミングで従業員がそのまま退職してしまわないよう、雇用条件が悪化しないように配慮すべきでしょう。

また、従業員に関する社会保険や労働保険の手続きも発生します。

5. カルテの引継ぎ

カルテは重要な個人情報ですが、事業承継の場合は個人情報保護法の例外規定により、患者の承諾なしに子へ引き継ぐことができます

カルテの保存期間は5年間とされていますが、この保存義務も子に引き継がれます。

6. 患者や取引先への告知

承継時期が決まり、その手続きの確認ができたら、早めに患者や取引先への告知を開始します。院内に掲示を行うと同時に、診療時に直接口頭でも説明しましょう。

患者に不安を与えないよう事後の告知は避け、時間的な余裕をもって誠実に進めることが大切です。

医療法人の承継で行うべきこと

医療法人の承継で行うべきこと

医療法人の承継は、法人格ごと引き継ぐことが一般的です。
個人事業のように廃業と開業の手続きを踏むことなく、基本的には社員と理事長の変更手続きだけで承継が完了します。

しかし、出資持分や基金の取扱い、借入金の個人保証の問題などの検討が漏れがちなので注意しましょう。

1. 社員の変更手続き

医療法人の構成員である社員は、社員総会で重要事項を決議する役割を持っています。事業承継により親が社員を退社し、子が入社する場合には、社員総会の決議が必要です。

「社員は3名以上を置くこと」とされており、決議の際には社員1名につき1個の議決権が与えられます。

もし、子の方針に賛同してくれる社員が確保できない場合には、事業承継後にも親が社員の地位を継続することも選択肢の一つです。

なお、出資持分がある医療法人では、社員の変更により定款変更が必要になることがあります。
この定款変更にあたっては、社員総会の特別決議を経て所轄庁の認可を受けなければなりません。

また、後述のように出資持分の承継についても検討が必要です。

2. 理事長の変更手続き

理事長は医療法人を代表し、業務に関する一切の権限を有します。
また、医療法人の理事長は、原則として医師または歯科医師である理事から選任されます。

社員総会で理事長の退任と選任を決議したあと、2週間以内に役員変更届を所轄庁に提出し、法務局で役員変更登記を行います。

さらに、退任した理事長が診療所の管理者であり、これも変更する場合には、保健所や厚生局への届出も必要です。

3. 役員退職慰労金の支給

個人事業では事業主本人に退職金を支給することはできませんが、医療法人の役員を退任する場合には、規程に基づき役員退職慰労金を支給することが可能です。

規程がない場合でも、社員総会の決議に基づき支給を決定することができます。
その場合にも税務上の問題が生じないよう、以下の「功績倍率法」という計算式で役員退職慰労金を算出することが一般的です。

最終報酬月額×勤続年数 × 功績倍率=役員退職慰労金

また、退職金が一定の控除額を超える場合は、所得税の源泉徴収が必要です。支払月の翌月10日までに所轄税務署へ納付することを忘れないようにしましょう。

4. 借入金の保証人の変更

医療法人は分院展開によりその事業規模が大きくなり、多額の借入金を抱えていることがあります。

医療法人の借入金には、理事長個人による経営者保証(連帯債務)が設定されていることが多く、この承継が問題となります

まずは、金融機関に理事長変更に伴う保証人の取扱いを確認しましょう。その際、借り換えにより保証の条件を見直すことも検討できます。

5. 基金の返還または譲渡(基金拠出型の場合)

基金とは、社団医療法人に拠出された金銭等の財産で、定款の定めに従って拠出者に返還義務を負うものをいいます。

親が医療法人に基金の拠出をしている場合には、医療法人からの基金の返還、または親から子への基金の譲渡が検討事項となります。

基金の返還や譲渡に際しては、定款の規定に従って適切に手続きを行う必要があります。

また、返還できる金額は、基本的に医療法人の繰越利益剰余金が上限とされていること、基金を無償で譲渡する場合には譲受人に贈与税が生じることにも注意が必要です。

6. 出資持分がある場合

出資とは、医療法人の設立や運営に必要な資金として拠出されたものです。
社員が出資しているケースが多く、社員の退社に伴って出資の払戻しを受けるか、出資を後継者に譲ることになります。

気づかないうちにこの出資の評価額が高額になっていることが多くあるため、これを払い戻すにも、子が譲り受けるにも多額の資金を要する可能性があります。

事前に評価額を算定し、承継方法を慎重に検討しましょう。

なお、平成19年4月1日以降は出資持分のない医療法人のみが設立できることになっており、これ以前に設立された出資持分のある医療法人は「経過措置型」と位置付けられています。

既存の出資持分を放棄して、出資持分なしに移行する際は、原則としてその医療法人に出資持分の払戻請求権の免除益に対する課税が生じますが、「認定医療法人制度」を活用することで、この課税を回避することができます。

おわりに

今回は、医療機関の親族間の事業承継について述べて参りました。スムーズな事業承継を実現するためには、早めに検討を始めていくことが重要です。

私たち辻・本郷 税理士法人では、税務面はもちろん、事業承継対策、そして経営者様の相続まで、総合的なアドバイスを行っております。
事業承継でお困りの際には、ぜひお問い合わせください。

執筆担当:新宿ミライナタワー事務所
 ヘルスケア事業部 三村 浩一郎
参考サイト・資料
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