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遺言書を手書きしなくてもOKに? 公正証書遺言に続き、自筆遺言も電子化検討中!

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2027年までに実現? デジタル遺言の政府検討はどこまで進んでいるか

「公正証書遺言」は令和5(2023)年6月の公証人法や民法等の一部改正により、令和7(2025)年中にデジタル化の開始が決定しました。

「自筆遺言」についても、法務省において法制審議会民法(遺言関係)部会が設けられ、デジタル化に向けて検討が重ねられており、「デジタル遺言」として話題になっています。

このデジタル遺言とはどんなものでしょうか? 現在の自筆遺言の問題点と電子化の方向性について解説します。

現行の自筆証書遺言制度の問題点

「自筆遺言」は正式には「自筆証書遺言」といいます。

「遺書(いしょ)」は亡くなった後に家族へ想いを伝える私的な手紙ですが、「遺言(ゆいごん)」は遺言者が生前にした意思表示により、その死後に効力を生じさせるという法律行為です。

そのため民法に定められた方式で遺言を記載した「遺言書」でないと法的に有効となりません(民法960条)。

例えば相続人が相続で作成する「遺産分割協議書」だったなら、全文をパソコンで印字したものでも有効です。
けれども被相続人が生前に書き遺す「自筆証書遺言」の場合には、パソコンで全文を印字したり、日付けや氏名の記載が漏れてしまったら、民法に定める方式を満たしていないとして、遺言が無効となってしまうのです。

「自筆証書遺言制度」については、この「全文を自筆しなければならない」などの厳格な方式が高いハードルとなり、書くのを躊躇する人が多く、せっかく書いても無効になったりと、うまく活用されていないことが問題でした。

民法で認められた3種類の方式

遺言書の方式は以下3つです(特殊な条件においてのみ認められる例外を除く)。

①自筆証書遺言(民法968条)

遺言者が全文・日付・氏名を自書して作成します。相続財産目録に限り、例外的に自書が不要とされています。
また、令和2(2022)年7月10日から、1件につき3,900円の手数料で保管することができる自筆証書遺言書保管制度が始まっています。

②公正証書遺言(民法969条)

証人2名以上の立会いのもとで、公証人が書面を作成します。

③秘密証書遺言(民法970条)

ワープロソフト(Microsoft Wordなど)によって証書を作成することもできますが、印刷した上で封書を作成しなければなりません。
遺言書の証書を封印した上で、本人・証人2名・公証人が封書に署名・押印をして作成します。

現行制度の利用状況

法務省Webサイトに掲載されている「令和6年3月「デジタル技術を活用した遺言制度の在り方に関する研究会報告書」によれば、令和2年における死亡者数約137万人に対し、自筆証書遺言は31,043件(遺言書の検認数+遺言の確認数+保管件数)で全体の約2%、公正証書遺言は約7%、秘密証書遺言は0.005%で、合計しても1割にも満たない件数でしかありません。

遺言制度の利用者数の少なさがうかがえます。

「公正証書遺言」のデジタル化

公正証書遺言は、遺言を公証人が作成し、原本が公証役場で保管されるため、偽造・改ざん・紛失のおそれがないことから、家庭裁判所での検認手続きが不要です。ただ、デジタル化の面では、書面・押印・対面での手続きが必要で、電子化されていませんでした。

公正証書に係る一連の手続きのデジタル化

※出典:法務省民事局「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」改正の概要 p.5

法務省は、令和3(2021)年6月18日に閣議決定した「規制改革実施計画」に基づき、公正証書遺言を含む公正証書全体の作成に係る一連の手続のデジタル化を目指しています。

これをうけて令和5年6月「民事執行手続、倒産手続、家事事件手続等の民事関係手続のデジタル化を図るための規定の整備等を行う改正法(民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号))」が成立し、同月14日に公布され、公正証書遺言の方式を定めた民法の規定(民法第969条)も変更されました。

最長でも公布から2年半後の、令和7年12月までには公正証書遺言のデジタル化(オンライン作成、電子署名、データ保存)が施行(スタート)されます。

「自筆証書遺言」のデジタル化

世の中で「デジタル遺言」として話題になっているのが、自筆による遺言書の方式緩和です。「自筆証書遺言」は遺言者が1人で作成できる遺言で、証人も不要なため、費用も安く手軽に作成できますが、偽造などを防ぐため、自ら全文を手書きしなければなりません

しかし、電子化が進んだ現在、全文手書きを求めるのは世の中に合わなくなっています。

法務省は、遺言制度の利用促進のためにもデジタル技術を活用して遺言を作成できるようにする民法の改正に向けて、法制審議会民法(遺言関係)部会を設置し、令和6年4月16日に第1回会議を開催以降、令和6年10月末までに6回の検討を重ねています

遺言制度の見直しの背景と経緯

※出典:法務省 法制審議会第199回会議配布資料「遺言制度の見直しについて

デジタル化の具体的方法と課題

部会では現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性が確保される、デジタル技術で遺言を簡便に作成できる新たな方式を設けることや、自筆証書遺言書における押印の必要性及び自書を要求する範囲等について検討を行っています。

デジタル技術を活用した新たな遺言の方式のあり方

おもに文字情報に係る電磁的記録を遺言とする方式(甲案)とプリントアウトした書面を遺言とする方式等(乙案)の両方が現在、検討されています。

デジタル化の具体的方法として検討されているのは、おもに下記の5つです。

  • タブレット上でデジタルタッチペンを用いて書く方法
  • ②パソコン上でワープロソフト等を利用して書くという方法(デジタルタッチペン・音声入力含む)
  • ③パソコン、タブレット、スマホ等を利用してネット上のウェブサイトにアクセスし、そこで遺言の内容を入力する方法「ウェブサイト・フォーマット入力」
  • ④遺言書を書くのではなく、遺言の内容を話しているところを録音する方法
  • ⑤遺言書を書くのではなく、遺言の内容を話しているところを録画する方法

なお、部会では上記のようにパソコンなどで作成した遺言書について本人の真意をどのように確認するか、改ざんをどう防いでいくか、その他以下の項目を含めた課題が検討されています。

  • 遺言者本人による入力を必要とするか否か
  • 保管制度のあり方(保管の主体、具体的な規律等)
公正証書に係る一連の手続きのデジタル化
※出典:法務省 法制審議会第199回会議配布資料「遺言制度の見直しについて

今後の見通し ~将来的にはどんな手続きを行うことになる?

公正証書遺言のデジタル化は、最長でも令和7年12月までには施行予定です。将来的に次のような手続きになると予想されています。

対面による公証手続き

従来と同様に、遺言者は公証役場に日時を予約のうえで訪問します

公正証書で作成する遺言は、電子データで作成・保存することになります。
そのため、遺言者の署名はタブレット端末にタッチペン等で署名することになるでしょう。

それに伴い、実印の押印・印鑑証明書の提出という必要性は無くなり、原則としてマイナンバーカード等の提示による本人確認手続きになると思われます。

なお、手続き完了後の公正証書の原本は、原則として、電子データで作成・保存することとなります。
公正証書に関する証明書についてはデータ提供のみならず書面による交付も選べるので、従来の取扱いより選択の幅が広がったといえます。

リモートによる公証手続き

公証人が遠隔地の当事者とWEB会議システムを利用して、画面越しに目視で本人確認しつつ、画面共有しながらその場で文書の内容を確認しながら作成することになります。遺言者は、写真や録画で証拠を保存します。

このリモートによる公証手続きが可能となることで、自宅でも、高齢者施設でも、病院でも、ノートパソコンの持ち込みとWi-Fi環境が整っていれば、少ない負担で公正証書の作成が可能になるといえるでしょう。

より多くの人が簡便に遺言を作成できる将来に向けて

自筆証書遺言のデジタル化については、現在まだ検討を重ねている段階です。
しかし、近い将来、全文自書要件がデジタル化されるのは間違いないでしょう。

遺言制度は、被相続人の意思を尊重するという点にとどまらず、相続手続を円滑化することにより所有者不明土地問題や空き家問題などの社会課題を解決する上でも、重要な役割を有するものです。

政府はより多くの人が簡便に遺言を作成することができるようにするため、可能な限り迅速に遺言制度のデジタル化に取り組んでいます。

おわりに

遺言は、遺言者の意思によって相続人間の遺産分割争いを抑制することが可能な制度です。また、法定相続人がいない場合には公益的事業を行う団体に遺贈を行うことも考えられるなど、遺言制度の重要性はますます増していくと考えられます。

「デジタル遺言」の今後の動きに注目していきたいですね。

執筆担当:審理室 片 ユカ
参考サイト
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