「相続税の節税のために生前贈与をしたいけど、現金で手渡すだけでよいのだろうか。」
「110万円までなら贈与税がかからないと聞いたけど、110万を現金で手渡しすることに問題はないのだろうか。」
「契約書を作ったり、税務署に申告したりする必要はないのだろうか。税務署からあとで何か言われたりしないのだろうか。」
「そもそも現金手渡しであれば、いくら渡しても税務署にばれないのでは?」
この記事をお読みの皆様はそんな疑問を持たれているのではないでしょうか。
「振込は味気ないし、できれば手渡しで贈与してあげたい」
「高齢で振り込みが難しいので手渡しで贈与したい」
そんなニーズもあるかもしれません。
結論から申し上げますと、贈与を現金手渡しで行うことは、法的には問題ありませんが、「契約書+銀行振込」がベストです。
本記事は、現金手渡しで贈与する場合のリスクと、安全に正しく贈与する方法と注意点をお伝えします。
本記事が、安全にかつ効果的に生前贈与を進めておきたいとお考えの方の一助となれば幸いです。
目次
1. 法的には問題ないが「契約書+銀行振込」がベスト
冒頭でも申し上げた通り、贈与を現金手渡しで行うことは、法的には問題ありません。しかし、できるならば、贈与契約書を交わし、銀行振込のように足跡が残る方法をお勧めします。本章ではそれについて2つの理由とともに解説していきます。また最後に贈与契約書のひな型も掲載しておりますので、ご活用いただけますと幸いです。
1-1.税務調査リスクに対応するため
税務調査を受けた際、贈与契約書がなければ、「生前贈与として」お金のやり取りをしたことを証明するのは困難です。また、現金手渡しの場合、贈与契約書を交わしたとしても、「本当に契約書のとおりにお金のやりとりをしたのか」と疑われてしまう可能性があります。また、使途不明金とみなされてしまい、税務調査を受けるリスク自体が高まります。そういった事態をさけるためにも、「契約書+銀行振込」がベストなのです。
振り込みは味気ない、高齢で振り込みが難しいなど、どうしても現金の手渡しをせざるを得ない場合は、領収書を作成し、受け取った資金を口座に入金して通帳に記録を残しておくなど、後の税務調査に対応できるようにしておきましょう。
税務調査で「生前贈与」と認めてもらえなかった場合、贈与したと思っていた財産が、贈与者のものと判断されて、贈与者が亡くなった際に、相続財産に加算され、想定外の相続税が発生するなどの問題があります。
1-2.のちのトラブルを防ぐため
契約書を作ることで、贈与者と受贈者の間で、生前贈与の金額や時期などを事前に明確にしておくことで、のちのトラブルを防ぐことができます。
また、贈与者が亡くなった際、他の相続人から「本当はもっと多くもらっていたのでは?」と疑われ、相続トラブルに発展することを防止する効果もあります。
【雛形】贈与契約書
辻・本郷 税理士法人が作成した「贈与契約書」のひな型を掲載しますので、ご活用下さい。
生前贈与の成立には、「あげる側・もらう側の合意(契約)」が必要です。
この合意(契約)は口頭の約束であっても成立しますが、贈与契約書を作り証拠を残すことで、後々の「あげた」「あげてない」で揉めるなどのトラブルを防ぐことができます。
贈与契約書は決まったフォーマットがあるわけではありません。
また、手書きでもパソコン入力でも構いません。
■辻・本郷 税理士法人が作成
また、公証役場で確定日付を取ると、より確実性が高まります。
確定日付の取り方は日本公証人連合会のHPに詳しく記載されています。
2.現金手渡しでも年間110万を超える場合には必ず贈与税申告を
「そもそも現金手渡しであれば、いくら渡しても税務署にばれないのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。確かに現金手渡しであれば、当事者以外に知りようがないように感じられます。しかしながらそれは大きな間違いです。税務署は私たちが想像している以上に様々な観点から脱税の可能性をチェックしています。
2-1.現金手渡しでもばれる!!
年間110万円を超える贈与が発生した場合には贈与税申告が必要です。現金手渡しによる贈与でも必ず申告しましょう。
税務署は税金を徴収するため、情報を常に収集しています。個人の資産や収入についてもある程度把握していますので、「年収・所得と比較して不釣り合いな買い物をしている」など、不自然なことが起こると、誰かから贈与を受けたのではないかという疑念を持たれて、税務調査が行なわれることもあります。
また、相続税調査の過程でばれる場合も少なくありません。相続税調査は、亡くなった方の財産を調べるものですが、その際、相続人の財産も合わせて調べられるからです。
たとえ記録の残らない現金手渡しによる贈与であっても、税務調査を受けた場合は脱税の発覚を免れるのは困難です。
2-2.ばれれば追徴課税。時効は6年、悪質な場合は7年
脱税が発覚した場合には、追徴課税の支払いが課せられ、悪意がなくとも、追加で納付すべき金額に対して10%を乗じた金額が課せられますし、悪質なケースでは、40%の重加算税が課税されます。
また、贈与税の時効は6年、脱税目的で贈与を隠すなど、故意に申告しなかった場合には7年です。
3.注意点
3-1.110万円以下の贈与でも、相続発生時に相続税が発生することがある
被相続人が亡くなる前の一定期間内に行った生前贈与については、その金額を相続財産に加算することとになっています。この期間は、2023年末までの贈与については「3年」でしたが、2024年以降は段階的に延長され、2031年からは「7年」になります。
たとえば、相続開始前の3年間、毎年100万円ずつ生前贈与を受けていた場合、贈与税は110万円以下なので非課税ですが、贈与を受けた合計300万円は相続財産に加算され課税対象となるということです。この期間が今後段階的に延長され「7年間」となります。相続税の節税目的で生前贈与を行う場合には、できるだけ早く始めておいた方が良いと言えます。
■辻・本郷相続ガイド 2024年1月に改正になった相続税・贈与税の制度
3-2.暦年課税の非課税枠が適用されずに贈与税が発生することがある
暦年課税は、もらう人ごとに年間110万円までの贈与が非課税となり、申告も不要です。しかし、例えば、毎年贈与契約書を作成するのがめんどうだからと言って、「今後10年にわたり、毎年100万円を贈与する」という契約書を作成してしまうと、「定期贈与」として「一括で1,000万円を贈与する契約」と同等とみなされて、贈与税が課税されてしまうことがあります。面倒でも、必ず毎年契約書を作成するようにしましょう。
また、上のような契約書を作成していなかったとしても、同じ時期に同じ金額を毎年贈与していると、上の例と同様に「定期贈与」とみなされて、課税される恐れがあります。これを防ぐためにも、贈与額や贈与時期はその都度変える、あるいは、あえて110万円を少し超えた贈与を行い、贈与税申告をするなどの対策をとることが有効です。
4.まとめ
ここまで下記について解説して参りました。
- 生前贈与は現金手渡しでも法的には問題ないが、「契約書+銀行振込」で行うのがベスト
- 現金手渡しであっても税務署にはばれるので110万を超える場合は必ず贈与税申告を
- 注意点2つ
について解説してまいりました。
本記事が安全に、効果的に生前贈与を進めておきたいとお考えの方の一助となれば幸いです。