「遺産分割協議書の作り方が分からない」
あなたは今、そうお考えではありませんか?
遺産分割協議がまとまったら遺産分割協議書を作成する必要があることを知ったが、何を書けば良いのか分からないですよね。
そこでこの記事では、「遺産分割協議書とは何か」から「遺産分割協議書の書き方」まで現役の税理士が分かりやすく解説しています。
さらに、「遺産分割協議書を書く上で見落としがちな3つの注意点」についても紹介していますので遺産分割協議書について分からないことが無くなるはずです!
遺産分割協議書について必要な知識を身につけ、遺産相続円滑に進めるために、この記事がお役に立てば幸いです。
目次
1.遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割についての話し合い(遺産分割協議)をした結果をまとめた書類です。
遺産分割協議書を作成しておくことで、相続人間での合意した内容の証明となるため、話し合い後のトラブルを防ぐことに繋がります。
また、相続財産の名義変更の手続きにも必要となってくることがあります。
このように、遺産分割協議書は遺産相続において非常に重要な役割を担うため誤りが無いよう正しく作成する必要があります。
2.遺産分割協議書が必要なケース
遺産分割協議書が必要なケースは以下の2つです。
・「遺言書がない」+「法定相続割合で分割しない」場合
・「遺言書はある」+「遺言書の内容に不備がある」場合
2-1.「遺言書がない」+「法定相続割合で分割しない」場合
民法では、故人の財産を承継することのできる人「法定相続人」とその法定相続人が相続する財産の割合「法定相続分」を定めています。
遺言書がない場合、この法定相続割合で遺産の分割をするのであれば、遺産分割協議書は必要ありません。
しかし、必ず法定相続割合どおりに分割する必要はありません。相続人全員で話し合いを行い、どのように遺産を分けるのかを自由に決定することができます。その際は、決定した分割内容を基に「遺産分割協議書」を作成します。
2-2.「遺言書はある」+「遺言書の内容に不備がある」場合
遺言書が存在すれば、故人の遺志を尊重して遺言どおりに遺産を分けるのが一般的です。
しかし、以下の場合には遺産分割協議が必要です。
・「日付が抜けている」「押印していない」など、その遺言書が法律上は無効となる方法で作成されている場合。
・「全預金のうち半分は妻に残りは子どもたちで分けること」といったザックリとした遺言書で、分割される財産の具体的な口座や金額、不動産の場合には面積などが記されていない場合。
・遺言書どおりに遺産分割をしない場合。
遺言書に不備があるかどうかチェックしたい方は、遺言書が有効か無効か判定できる14のチェック項目をご覧ください。
3.遺産分割協議書の作成期限
遺産分割協議書にはいつまでに作成しなければならないといった明確な期限は存在しません。しかし、一般的には相続開始から6ヶ月以内に遺産分割協議書の作成を終えるのが理想的です。
この理由は主に2つです。
まず第一に、相続税は相続開始から10ヶ月以内に申告・納税をしなければいけません。
さらに、相続放棄等を選択する場合は相続発生後から3ヶ月以内に申し出る必要があるからです。
したがって、遺産分割協議書自体に作成期限はありませんが、相続開始から6ヶ月以内の作成をおすすめします。
4.遺産分割協議の流れ
遺産分割協議は次の手順で行います。
4-1.財産の洗い出し
お亡くなりになった方が保有していた財産をすべて洗い出します。財産は預金や不動産などのプラスの財産のほか、住宅ローンやカードローンなどのマイナスの財産もあります。遺産分割協議の後で財産が発見されると、また一から遺産分割協議をやり直す。なんてことになってしまいますので、漏れのない調査が大事になってきます。
< 調査方法の例 >
① 故人の自宅や部屋の調査
「通帳、登記簿謄本、契約書、権利書、保険証券などの書類・郵便物」より預貯金や不動産、生命保険などの財産が判明します。書類は紛失しやすいので遺産整理の際には注意が必要です。
② 故人のスマホやパソコン
「銀行、証券会社、不動産会社の連絡先・アプリやメール」よりネット銀行の預金や株式、不動産取引などインターネット上での取引事実や財産が判明します。ネット銀行やネット証券の口座を持っていることを亡くなった本人しか知らないということもありますが、メール内容の調査により取引事実を知ることができます。
③ 取引銀行・取引不動産会社・保険会社など生前関係のあった機関への問い合わせから
故人が取引していた機関が判明したら、その取引銀行や不動産会社・保険会社などに問い合わせをすることで、預金残高や不動産取引の詳細、生命保険の加入状況などが判明します。
4-2.分割内容の協議
上記で洗い出された財産を、誰がどのように相続するのかという協議を行います。これを「遺産分割協議」といいます。必ず、相続人全員で協議のうえでの合意が必要です。
遺産の金額が、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると相続税が発生します。遺産分割の内容によっては相続税額が変わる可能性がありますので、慎重な判断が求められます。遺産分割を確定する前に専門家に相談してみるのも良いでしょう。
4-3.遺産分割協議書の作成
遺産分割の話し合いの結果を「遺産分割協議書」という書類にまとめます。遺産分割が相続人全員の話し合いでこのように決まった、という証拠になります。
遺産分割協議書を作成するポイントは次のとおりです。
〇 決まった書式はなく、手書き・パソコンどちらでもよい。
〇 亡くなった方の情報と相続人全員の名前を記載する。
〇 誰がどの遺産を相続するのかを明確に記載する。
〇 相続人それぞれが1通ずつ保管するため、相続人分作成する。
4-4.押印
相続人全員が署名・押印をします。押印は実印がよいでしょう。
5.遺産分割協議書の作成方法を項目ごとに解説!
遺産分割協議書の作成方法を雛形でご紹介します。まずは、基本的な形式です。
遺産分割協議書に、決まった形式はありません。手書き・パソコンどちらの作成でもOKです。なお、赤い枠線部分は、遺産の種類によって異なります。以下、遺産の種類に応じた書き方の例や注意点をまとめました。
5-1.現預金
一軒家の不動を所有する場合登記事項証明書に記載されている通りに記入しましょう。また、所在や地番は省略せずに書き写します。
5-2.不動産(一軒家の場合)
不動産(マンション)について記入する場合、登記事項証明書の通りに、
・一棟の建物の表示
・専有部分の建物の表示
・敷地権の表示
の3つに分けて記載します。
5-3. 不動産(マンションの場合)
不動産(マンション)について記入する場合、登記事項証明書の通りに、
・一棟の建物の表示
・専有部分の建物の表示
・敷地権の表示
の3つに分けて記載します。
5-4.不動産(共有持分の場合)
共有特分とは、一つの不動産を複数人で共有する場合のそれぞれの所有権の割合のことを指します。
被相続人の財産の中に共有特分の財産があった場合、その持分割合を示すようにしましょう。
5-5. 配偶者居住権
民法改正により、2020年4月以後に相続が発生した場合に「配偶者居住権」という権利が認められるようになりました。
配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人が亡くなった時点に住んでいた建物を、一定の期間または配偶者が亡くなるまでの期間、無償で使用することができる権利です。
これにより家と宅地という財産を、その家に住む権利「配偶者居住権」と、その家を所有する権利「所有権」とに分け、住む権利だけを配偶者に与えることができます。
さらに、家と宅地の評価額を「配偶者居住権」と「所有権」とに分けることで、妻の住まいに対する相続金額は低く抑えられるので、生活費としての現金や預金など他の遺産の相続がしやすくなります。
例えば、夫 鈴木F太 が亡くなり、妻 鈴木G美 が配偶者所有権を、子 鈴木H矢 が所有権を取得する場合の遺産分割協議書は次のようになります。
5-6.上場株式・出資金等
相続財産に上場株式・出資金等が含まれる場合は、証券会社からの通知などを参考に有価証券の情報を記入します。
5-7. ゴルフ会員権
ゴルフ会員権は、プレー権のみの場合は相続税の対象にならないなど、ゴルフ会員権ごとに相続税申告上の取扱いが異なるため、クラブに問い合わせをするようにしましょう。
5-8.葬式費用及び債務
葬式費用や債務についても遺産分割協議の結果を記載することでトラブル防止に繋がります。
5-9.名義財産がある場合
名義財産とは、名義と所有者が違う財産のことです。例えば、口座名義人がお亡くなりになった方の配偶者や子供であっても、実際には贈与の事実はなく、お亡くなりになった方が口座を管理していた等の場合には、真の所有者は被相続人となり、名義財産(預金)に該当することになります。
名義財産は、名義が違うだけで他の相続財産と何ら変わることはないため、遺産分割の対象となりますし、また相続税申告の対象となります。
5-10.代償分割がある場合
代償分割とは、相続人の一人が遺産を相続し、代わりに他の相続人に対して現金などの代償金を支払うという遺産分割の方法です。
例えば…甲さんが亡くなりました。相続人は子である佐藤A男さん、佐藤B子さんの2人です。遺産は、甲さんとA男さんが住んでいた土地と家のみで、A男さんは今後もその家に住み続けたいと思っています。このような場合に、代償分割の方法を使います。
A男さんは土地と家を相続します。その代わり、A男さんの財産からB子さんに対して現金などの代償金を支払います。これを、遺産分割協議書に記載すると次のようになります。
5-11. 換価分割がある場合
換価分割とは、遺産の全部または一部を売却し現金化して、そのお金を相続人で分ける方法です。
例えば、「父」の遺産としてマンションがあるけれども相続人である「長男 山田D介」と 「次男 山田 E真」はすでに持ち家があるため引き継ぐ必要がない。といった場合にそのマンションを売却し現金を相続人同士で分けることができます。これを遺産分割協議書に記載すると次のようになります。
5-12その他、遺産分割協議書に記載すべき事項
遺産分割協議の後に新しく遺産の存在が判明した場合にどうするかについても明記することで後のトラブル防止に繋がります。
6.遺産分割協議書の提出先
遺産分割協議書の提出先として想定されるのは、主に次の4つが挙げられます。
・税務署
・金融機関
・法務局
・運輸支局
6-1.税務署
税務署には相続税の申告をする際に提出します。原本ではなく、コピーを提出すれば問題ありません。
■相続税申告の詳細はこちら
相続税申告は自分でできる?税理士が相続税申告の進め方を解説
6-2.金融機関
銀行や証券会社などの金融機関には、遺産分割の内容を証明するために遺産分割協議書を提出する必要があります。原本を持っていけば、その場でコピーを取って返却されます。
6-3.法務局
法務局には、相続登記をする際に遺産分割協議書を提出する必要があります。(法定相続分の割合で分割する場合は不要)
6-4.運輸支局
運輸支局には、自動車の名義変更をする際に遺産分割協議書を提出する必要があります。
7.遺産分割協議書が無効になる場合
一旦作成された遺産分割協議書でも、次のような場合には無効になります。
7-1.遺産分割協議を相続人全員で行わなかった場合
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要となります。したがって、その話し合いの場に1人でも相続人が欠けていれば、遺産分割協議は無効となります。
例えば、協議の後に故人の認知していた婚外子がいることがわかったというような場合です。
7-2.判断能力が乏しい状態の相続人が成年後見人をたてずに協議に参加した場合
精神上の障害や認知症などにより判断能力が不十分である相続人がいる場合、成年後見人を選任し代理をたてて、遺産分割をします。相続人が正しい判断ができないことにより不利な遺産分割となることを防ぐためです。
したがって、成年後見人をたてずに判断能力が不十分な状態の相続人との間で行われた遺産分割協議は無効となります。
7-3.遺産分割の表示に錯誤があった場合
重要な財産について思い違いをして合意をした場合や、遺言書の存在を知らずに合意した場合には、その遺産分割協議は錯誤による無効を主張することができます。
8.遺産分割協議書の作成に関するQ&A
遺産分割協議の作成に関するQ&Aをご紹介いたします。
Q.遺産分割協議書が相続手続きに必要なケースはどのようなものでしょうか?
相続財産の名義変更をする場合や相続税申告の際に必要になります。
相続の手続きをするうえで、相続財産(不動産・預貯金・株式など)の名義変更には、「遺産分割協議書」が必要となることがあります。複数人の相続人がいるのであれば、誰がどの財産を相続するのかという遺産分割協議書や遺言書などの証明の提示を求められます。
例えば、故人のA預金口座を相続人の一人が勝手に名義変更をしてしまえばその後のトラブルにつながりかねません。しかし、相続人全員の合意が得られたうえで作成される「遺産分割協議書」があれば、誰がどの財産を相続するのかという証明ができます。
また相続税申告にあたっても、配偶者控除などの特例を適用する場合には「遺産分割協議書」の提出が必要になります。
Q.遺産分割協議書が複数枚になりました。どのように綴じればよいでしょうか?
遺産分割協議書の改ざん防止のために、次の方法をお薦めします。
① 製本テープを使って綴じる方法
複数の書類をホチキスで止めてその部分が隠れるよう製本テープで製本します。製本テープと書類にまたがるように押印します。もし、改ざんしようとすると製本テープにより破けてしまうので改ざん防止になります。
② ホチキスで止めて割り印を押す方法
複数の書類をホチキスで止めて、書類のつなぎ目にまたがるように割印します。これは、全ページの見開きに必要です。
Q.押印はしないとダメでしょうか?
遺産分割協議書は実印で押印しましょう。不動産登記などの相続手続きには、遺産分割協議書と印鑑証明書の提出が求められます。そのため、同じ印(つまり実印)でなければいけません。
Q.氏名を自書(署名)しないといけないですか?
必ず自書(署名)しなければならないということはありません。しかし、相続税軽減の特例を受ける場合など、自書(署名)が求められるケースも出てきます。また、自書(署名)と押印をすることで間違いなく遺産分割協議の合意があったという証拠になるため後のトラブル防止にもつながります。なるべく名前は自書(署名)したほうがよいでしょう。
Q.遺産分割協議書は何部作製すればよいのでしょうか?
相続人の人数分作成し、各相続人が保管するのが一般的です。なぜなら、相続人それぞれが相続手続きをするために遺産分割協議書が必要です。相続するものが何もなかったとしても、遺産分割協議をしたという証になるので相続人全員が保管するべきです。
Q.財産ごとに遺産分割協議書があってもいいですか?
財産ごとに遺産分割協議書があってもいいですか?
財産ごとに遺産分割協議書を作成することは可能です。例えば、相続人を早く確定したいという理由で、まずは不動産の分割に関する話し合いをして、「不動産に関する遺産分割協議書」を作成し、その後、不動産以外の遺産分割の話し合いの場をもち、遺産分割協議書を作成する。といったことができます。ただし、遺産分割協議書ごとに相続人や決定事項など内容が異なるものは認められません。
9.まとめ
遺産分割協議書は、必ず作成しなくてはいけないものではありません。しかし、作成しておくことでその後の相続手続きやトラブル防止に役立つことがお分かりいただけたのではないかと思います。
遺産の種類や金額はすべての相続で異なるので、遺産分割協議書も一つとして同じものはありません。しかし、基本的な作成方法や絶対外せないポイントを抑えれば自分で作ることは十分可能です。もし、不安なことがあれば、専門家に相談するのもよいでしょう。