相続における寄与分とは?寄与分の請求が難しい4つの理由

この記事をお読みになっている方は、自分は故人に特別な貢献をしたのに、遺産を他の相続人と平等に分けるのは不公平だとお感じになっているのではないでしょうか。

寄与分とは、被相続人の財産の形成に特別に貢献したと認められた人が、その貢献の度合いに応じた金額を、法定相続分に加えて受け取れる制度です。寄与分が認められれば、上記のような不公平感を解消することができます。

しかし、寄与分が認められるためには、さまざまな要件や、それを証明できる証拠の提示が必要となり、それは簡単なことではありません。また、認められてももらえる金額は期待通りの金額には届かないことが多いです。

本記事によって、自分は寄与分の請求ができるのか、請求すべきなのかを今一度ご確認いただき、納得感のある遺産分割を行っていただけるよう、心からお祈り申し上げます。

※本記事は「東京家庭裁判所家事第5部 寄与分の主張を検討する皆様へ」をもとに作成しています。


1.寄与分とは

まずは、寄与分についての基礎知識を確認していきましょう。

1-1.寄与分とは

寄与分とは、被相続人の財産形成に通常期待される以上に特別な貢献をしたと認められる場合に、その貢献に応じた金額を、法定相続分に加えて受け取れる制度です。また、寄与を評価して算出した割合や金額のことも、寄与分といいます。

1-2.寄与分をもらえるのは相続人

寄与分を請求できるのは相続人のみです。

特別寄与料 相続人以外の親族でも寄与分の請求が可能~

民法改正により、2019年7月1日以後開始の相続については、「特別寄与料」の制度が設けられ、相続人以外の親族で、被相続人に対して特別な寄与をした者(特別寄与者)は、その貢献が考慮され、相続人に対して特別寄与料を請求できるようになりました。

■辻・本郷相続税コラム 特別寄与料とはどんなもの? ~制度のポイント~ 

1-3.主張できる寄与行為は、相続開始前の行為のみ

主張できる寄与行為は相続開始前の行為です。亡くなった後の遺産や不動産の管理、法要の実施は対象になりません。また、寄与行為自体に時効はありませんので、それが何十年も前に行ったことでも、証明さえできれば有効です。しかし、何十年も前の行為を証明するのは簡単ではないと言えます。

1-4.寄与行為の種類は大きく5つ

寄与行為には、下の表のとおり、5つのタイプがあります。ご自身が行った寄与行為がどのタイプに当てはまるのか確認してみましょう。本記事では、具体例を示す際は、寄与行為として代表的な、療養看護型(いわゆる介護型)を取り上げて説明していきます。

タイプ概要
療養看護(介護)型
(本記事に記載のタイプ)
被相続人の療養看護を行った場合
家業従事型被相続人の事業経営を手伝っていた場合
金銭等出資型被相続人への財産上の給付をしていた場合
扶養型被相続人を扶養した場合
財産管理型被相続人の財産を一定期間管理した場合

1-5.請求できる期間は相続開始から10年以内

2023年4月に施行された民法改正で、寄与分を請求できるのは、相続開始から10年までとなりました。

※本改正では、寄与分を主張する場合に、「相続開始から10年が経過する日か、あるいは法改正施行時から5年が経過する日のいずれか遅い日まで」に遺産分割調停が申し立てられたときは、権利の主張ができる期間の猶予が設けられています。

■辻・本郷相続税コラム 「特別受益」「寄与分」に相続開始後10年までの期限が設けられました


2.寄与分の請求が難しい4つの理由

寄与分の請求は、さまざまな要件を満たし、その証拠を集める必要があるため、非常にハードルが高いです。また、請求が認められたとしても、自身が行った特別な貢献や、寄与分請求の労力に見合った金額が得られる可能性は高いとは言えません。本章では難しい理由を4つに分けて説明していきます。

2-1.【理由①】6つの要件をすべて満たす必要があるから

寄与分が認められるためには、以下の6つの要件をすべて満たしている必要があります。要件が一つでも欠けると認められることはありません。

①    その寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと

②    特別な貢献であること(扶養義務の範囲内の貢献は寄与にあたりません)

③    被相続人から対価を得ていないこと

④    寄与行為が一定の期間あること

⑤    片手間ではなくかなりの負担を要していること

⑥    寄与行為と被相続人の財産の維持・増加に因果関係が認められること

介護型で見る6つの要件のポイント

上の要件だけみても、あまりピンとこない方もいらっしゃるかと思いますので、寄与分の代表例である「療養看護型」、いわゆる「介護型」で、具体的に説明していきます。介護型の場合、6つの要件を満たすには、具体的に下記のようなポイントを押さえる必要があります。

ご覧いただくと、​一般的に考える「サポート」の範囲を超えた行為でないと認められず、これらを満たすのは簡単ではないという​ことがお分かりいただけるかと思います。

療養看護の必要性「療養介護を必要とする病状であったこと」及び「近親者による療養看護」を必要としていたこと」が必要です。高齢というだけでは介護が必要な状態だったとはいえません。疾病などで療養や介護を要する状態だったことが、療養看護の寄与分を主張する際の前提となります。なお、入院・施設へ入所していた場合、その期間は原則として寄与分が認められません。
特別な貢献被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることが必要です。同居やそれに伴う家事負担だけでは、特別な寄与とはいえません。
無償性無報酬またはこれに近い状態でなされていること必要です。ただし、通常の介護報酬に比べて著しく少額であるような場合には認められることがあります。逆に、無報酬又はそれに近い状態であっても、被相続人の資産や収入で生活していれば、認められないこともあります。
継続性相当期間に及んでいることが必要です。期間は一切の事情を考慮して個別に判断されることになりますが、少なくとも1年以上を必要としている場合が多いです。
専従性療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものであることが必要です。仕事のかたわら通って介護した場合などは親族としての協力の範囲であって、特別の寄与とはいえません。介護に専念したといえることが必要です。
財産の維持または増加との因果関係療養看護により、職業看護人に支払うべき報酬等の看護費用の出費を免れたという結果が必要です。

2-2.【理由②】主張の裏付けとなる証拠資料をそろえる必要があるから

次に、上記要件を満たしていることが、誰が見てももっともだと分かる資料を用意しなけばいけません。寄与分が認められるということは、法定相続分を修正することになるわけですから、法定相続分を修正してもよいくらい特別な貢献をしたということを立証する必要があります。主張のみで、その裏付けとなる証拠資料がない場合には、寄与分の主張が求められないこともあります。可能な限り証拠資料を提示できるように準備をする必要があります。

介護型で見る証拠資料の例

ここでも介護型の例をみていきます。介護型の場合、具体的には以下のような証拠をそろえることが求められます。集めること自体は可能かもしれませんが、それなりのコストや労力がかかることが予想されます。
※太字は特に重要な資料

資料の内容
具体例
被相続人の症状、要介護状況に関する資料要介護認定通知書要介護の認定資料認定調査票かかりつけ医の意見書など)、診断書
療養看護の内容に関する資料介護サービス利用表、介護サービスのケアプラン、施設利用料明細書、介護利用契約書
入院期間が分かる資料医療機関の領収書

整理表

主張のポイントやそれに該当する証拠資料を、例のような整理表にまとめておくと、話し合いの際に便利です。

「東京家庭裁判所家事第5部 寄与分の主張を検討する皆様へ」より

2-3.【理由③】認めてもらうのが難しいから

下のグラフは、「寄与分を定める処分」について、結論が出た審判事件における、結論別の割合を表しています。グラフから、「認容」=「寄与分が認められた件数の割合」が20%しかないことがわかります。この結果から、寄与分が認められるのは簡単ではないことがお分かりいただけるかと思います。

寄与分を定める処分について結論が出た審判事件における結論別の割合
令和5年司法統計年報3家事編(家事審判事件の受理、既済、未済手続別時事件数ー全家庭裁判所)より
※「寄与分を定める処分」家事審判事件のうち、既済の内訳を示したもの

2-4.【理由④】期待した金額がもえらえないことが多いから

寄与分を請求するとしても、期待する金額がもらえないことが多いです。寄与分の金額について、一般的な算出方法や、司法統計からみてみましょう。

2-4-1.もらえるのは寄与行為を第三者が行った場合の報酬以下

ここでも介護型を例に説明します。介護型における寄与料算定は、介護報酬基準額等を参考にして、日当額を決め、下記の算式により算出します。<参考>厚生労働省:介護報酬の算定構造[PDF]

第三者の日当額 × 療養看護日数 × 裁量割合(0.5~0.8)

つまり、寄与分は、自分が行った行為を第三者が行っていた場合の報酬以下の金額となってしまうということです。上記の方法で試算した上で、ご自身が行った「特別な貢献」に見合った金額となるのか、今一度検討してみることをおすすめします。

※寄与分の支払金額は、被相続人が相続開始時において有していた財産の価額から、遺贈の価額を控除した残額を超えることができません。遺言がある場合は注意が必要です。

2-4-2.期待する金額がもらえないことが多い

下のグラフは、寄与分がみとめられた審判・調停において、認められた寄与分の金額が遺産全体に占める割合表しています。グラフから、その半分近くが、遺産全体の10%以下しかもらえていないことがわかります。

あなたが故人にしてきた特別な貢献や、寄与分の請求にかかる労力に対して、得られる金額が、それに見合ったものになる可能性はどの程度あるのか、請求の前に今一度検討することをおすすめします。

寄与分の遺産の価額に占める割合
令和5年司法統計年報3家事編(遺産分割事件のうち認容・調停成立で寄与分の定めのあった事件数)より

 


3.可能なら生前対策をしておくことがベスト

上記の通り、寄与分を請求し、期待通りの金額を受け取ることは容易ではありません。もし今、生前対策をとることが可能な状況であれば、上記のような苦労をせずにすむように、事前に以下のような生前対策をすることをおすすめします。

  • 寄与分を反映した遺言を残しておく
  • 寄与した人へ生前贈与をする
  • 寄与した人を生命保険の受取人とする
  • 介護について働きに応じてその都度支払を行う

※生前対策をおこなったことで、贈与税や所得税が発生することがあります。詳しくは税理士にお尋ねください。


4.寄与分の請求方法

寄与分の請求はハードルが高いということについて、記載してきましたが、前対策をとることができない場合など、それでも請求したいというケースもあるかと思います。ここからは、寄与分請求の流れについて記載していきます。

4-1.準備をする

2章で記載した通り、下記の資料を準備しましょう。

  • 6つの要件を満たしていることがわかる資料
  • 上記の根拠資料
  • 請求額とその根拠が書かれた資料

その際、スムーズに主張を伝えられるように、整理表を作成しておくことをおすすめします。

4-2.相続人全員で話し合う

準備ができたら、まずは、相続人全員で話し合いをしましょう。その際は、上記の資料は相続人全員分コピーを用意するなどして共有しておきましょう。

4-3.弁護士に相談する

相続人同士の話し合いでうまくいかなかった場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。親族間のトラブルになり、協議が長期化してしまうと、相続税申告に間に合わない可能性も出てきます。紛争解決の専門家である弁護士に速やかに相談しましょう。

4-4.家庭裁判所に調停を申し立てる

上記でも解決しない場合には、家庭裁判所に「寄与分を定める処分調停」「特別の寄与に関する処分調停」を申立てることができます。必要書類や方法など詳しくは下記をご参照下さい。

■裁判所 寄与分を定める処分調停


5.まとめ

ここまで、寄与分の請求は簡単ではないということ、それでも請求する場合の方法を記載してきました。

本記事では、寄与行為として代表的な療養看護型(いわゆる介護型)の具体例を見ながら説明して参りましたが、1-4で記載した通り、寄与行為は5つのタイプに分かれており、他にも4つのタイプがあります。それぞれ主張のポイントや提出すべき証拠がありますので、不明な点は弁護士に相談してみましょう。

タイプ概要
療養看護(介護)型
(本記事に記載のタイプ)
被相続人の療養看護を行った場合
家業従事型被相続人の事業経営を手伝っていた場合
金銭等出資型被相続人への財産上の給付をしていた場合
扶養型被相続人を扶養した場合
財産管理型被相続人の財産を一定期間管理した場合

私たち辻・本郷 相続センターには、数多くの事例がございます。相続の専門家が対応いたしますので、お気軽にご相談ください。

辻・本郷 税理士法人の相続税申告サービス
一律66万円(税込)の相続コミコミプラン

辻・本郷 税理士法人の相続税申告サービス
一律66万円(税込)の相続コミコミプラン