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「生前贈与された財産は、遺留分請求の対象となる?」
本記事をご覧になられている方は、このようなお悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、生前贈与された財産は遺留分を算定するための財産の価額に含めることを、根拠となる法令や具体例を交えながら解説しています。
また、遺留分請求するために知っておきたい4つのことも合わせて解説しています。
本記事が遺留分を請求するための、はじめの一歩となれば幸いです。
■遺留分について詳しく知りたい方は、遺産相続の遺留分とは|法定相続人に保証されている最低限の相続分をご覧ください。
目次
1.生前贈与された財産は、遺留分を算定するための財産の価額に含める
生前贈与された財産は、遺留分を算定するための財産の価額に含めます。
民法1413条に、以下のように生前贈与された財産が、遺留分を算定するための財産の価額に含めると明記されています。
(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。e-GOV 法令検索 より引用
2.生前贈与に対して遺留分の請求はできる
生前贈与に対しても遺留分の請求はできます。
正確な言い方をすると、生前贈与された財産は、遺留分の対象となるので、生前贈与された財産を含めた価額に対して、遺留分を請求することができます。
例えば、以下のような以下のような家族がいたとします。
この場合、相続人は長男・長女の2人です。
また、被相続人は生前、長男に1,000万円の生前贈与を行った上に、「全財産(1億円)を長男に相続させる」と記載された遺言書を残していました。
この場合、長女が遺産相続に納得がいかず、遺留分を請求した場合、遺留分の対象となるのは、相続財産1億円と生前贈与1,000万円の計1億1,000万円です。
そして、この場合の長女の遺留分は1/4ですので、長女は2,750万円を遺留分として受け取ることができます。
【参考】遺留分の割合
各相続人がもらえる遺留分の割合は、相続人の組み合わせによって異なります。
また、該当者が複数いる場合は、人数で等分します。
■相続人に「配偶者がいる」場合
相続人の組み合わせ | 相続人 | 遺留分 |
---|---|---|
配偶者のみ | 配偶者 | 1/2 |
配偶者と子供 | 配偶者 | 1/4 |
子供 | 1/4 | |
配偶者と父母 | 配偶者 | 1/3 |
父母(祖父母) | 1/6 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 | 1/2 |
兄弟姉妹 | なし |
■相続人に「配偶者がいない」場合
相続人の組み合わせ | 相続人 | 遺留分 |
---|---|---|
子供のみ | 子供 | 1/2 |
父母(祖父母)のみ | 父母(祖父母) | 1/3 |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹 | なし |
3.遺留分の請求対象となる3つの生前贈与
遺留分の請求対象となるのは、以下の3つの生前贈与です。
全ての生前贈与に対して遺留分侵害額請求ができるわけではありません。
- 【対象1】相続開始前10年以内の相続人への特別受益にあたる生前贈与
- 【対象2】相続開始前1年以内の相続人以外への生前贈与
- 【対象3】遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行われた生前贈与
3-1.【対象1】相続開始前10年以内の相続人への特別受益にあたる生前贈与
相続開始前10年以内の相続人への特別受益にあたる生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象です。
特別受益にあたる生前贈与とは、婚姻・養子縁組・生計の資本として、一部の相続人だけが特別に受けた生前贈与のことです。
特別受益にあたるかどうかの判断は、被相続人・相続人の財産・収入・生活状況・教育水準などによって変わってきます。また、生命保険金は原則特別受益には当たらないなど、注意しなければならない事実も多数あります。生前贈与が特別受益にあたるかどうか判定は、弁護士に相談の上で行うことがおすすめです。
3-2.【対象2】相続開始前1年以内の相続人以外への生前贈与
相続開始前1年以内の相続人以外への生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象です。
例えば、配偶者と子供がいる方が被相続人であった場合、孫(代襲相続人である場合を除く)や兄弟姉妹といった親族は相続人ではありません。孫や兄弟姉妹が生前贈与を受け取っていた場合、相続開始前1年以内のものが遺留分侵害額請求の対象になります。
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3-3.【対象3】遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行われた生前贈与
遺留分権利者に損害を与えることを知りながら行われた生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象です。
対象1・対象2ともに期間が設定されていましたが、遺留分権利者に損害を与えることを双方が知りながら行われた生前贈与は、期間を問わず全て遺留分計算の対象となります。
しかし、このケースに該当するかどうかの判断を、相続人が行うことは難しいでしょう。
疑わしき生前贈与がある場合は弁護士に相談することをおすすめします。
4.遺留分を請求するために知っておきたい4つのこと
ここまでご覧いただき、生前贈与された財産が遺留分の対象であることをご理解いただいたと思います。
3章では今後、遺留分を請求するために知っておきたい4つのことをご紹介いたします。
遺留分が認められている人 | 一定の相続人 ・配偶者 ・子供・孫などの直系卑属 ・親・祖父母などの直系尊属 |
---|---|
遺留分を請求できる期限 | 相続開始と遺留分侵害の事実を知った日から1年以内 |
遺留分の計算方法 | 相続財産の総額×遺留分の割合 |
遺留分を請求する流れ | 当人同士・弁護士を交えて話し合いを重ね、それでも解決することが難しい場合、家庭裁判所で調停・訴訟を行う |
※4章は遺産相続の遺留分とは|法定相続人に保証されている最低限の相続分の記事の内容を要約したものになります。遺留分やその請求方法について、詳細に知りたい方は遺産相続の遺留分とは|法定相続人に保証されている最低限の相続分をご覧ください。
4-1.遺留分が認められている人
遺留分を請求できるのは、以下の一定の相続人です。
- 配偶者
- 子供・孫などの直系卑属
- 親・祖父母などの直系尊属
また、相続放棄した人、相続廃除された人、相続欠格者も遺留分を請求することはできません。
4-2.遺留分を請求できる期限
遺留分侵害額請求の期限は、相続開始と遺留分侵害の事実を知った日から1年以内です。
被相続人が死亡したこと、不公平な遺言書や贈与があったことを知りながら1年間放置すると、遺留分を請求することはできなくなります。
また、相続開始・遺留分侵害の事実を知らなかったとしても、相続開始から10年以内に請求をしないと遺留分を請求する権利はなくなります。
4-3.遺留分の計算方法
遺留分は「相続財産の総額×遺留分の割合」で計算します。
相続財産の総額は、遺贈などで実際に相続した財産に死亡前1年以内の生前贈与や、相続開始前10年以内の特別受益を合算した金額から、被相続人の借金を引いて求めます。
遺留分の割合は以下の表の通りです。
〇相続人に配偶者がいる場合
相続人の組み合わせ | 相続人 | 遺留分 |
---|---|---|
配偶者のみ | 配偶者 | 1/2 |
配偶者と子供 | 配偶者 | 1/4 |
子供 | 1/4 | |
配偶者と父母 | 配偶者 | 1/3 |
父母(祖父母) | 1/6 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 | 1/2 |
兄弟姉妹 | なし |
〇相続人に配偶者がいない場合
相続人の組み合わせ | 相続人 | 遺留分 |
---|---|---|
子供のみ | 子供 | 1/2 |
父母(祖父母)のみ | 父母(祖父母) | 1/3 |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹 | なし |
4-4.遺留分を請求する流れ
遺留分の請求は以下の流れで行っていきます。
ご覧いただければわかる通り、いきなり家庭裁判所で調停・訴訟を行うわけではありません。
当人同士・弁護士を交えて話し合いを重ね、それでも解決することが難しい場合、家庭裁判所で調停・訴訟を行います。
各ステージの詳しい解説をご覧になりたい方は、遺産相続の遺留分とは|法定相続人に保証されている最低限の相続分をご覧ください。
5.まとめ
生前贈与された財産は遺留分の対象であり、生前贈与された財産に対しても遺留分を請求ができることを、根拠となる法令や具体例を交えながら解説してまいりました。
また、生前贈与された財産が遺留分の対象であることをご理解いただいた読者のみなさんが、今後、遺留分を請求するために知っておきたいことも合わせて解説いたしました。
遺留分請求について迷うことがあれば、弁護士へ相談することをおすすめします。