家督相続とは、なんだろう?
この記事は家督相続とはどのような制度なのか、図解を用いてわかりやすく解説します。
目次
1.家督相続とは
家督相続とは、明治31年から昭和22年まで施行されていた旧民法における遺産相続の方法です。
戸主(家長)が隠居や死亡した際、長男がすべての財産・権利を相続するというものです。
家督相続は過去の遺産相続の方法であり、現行の遺産相続の方法とは大きく異なります。
2.現在において、家督相続が相続制度として適用されることは基本的にはない
現在(令和6年)において、家督相続が相続制度として適用されることは基本的にはありません。
現在(令和6年)において家督相続制度と同じように「長男にすべてを相続させる」には、他の法定相続人全員が同意しない限り不可能です。
現在の相続制度は、民法に規定されています。
民法には法定相続人という被相続人(亡くなった人)の財産を相続できる人が定められています。
この法定相続人には、配偶者や長男以外の子供・直系尊属・兄弟姉妹もなることができます。
つまり、現在の相続制度では、長男だけでなく、配偶者や長男以外の子供・直系尊属・兄弟姉妹にも、被相続人(亡くなった人)の財産を引き継ぐ権利があるのです。
■法定相続人についての詳細はこちら
法定相続人とは誰なのか?迷いやすい10の事例つき
3.【例外】現在でも家督相続を適用するケース
家督相続が制度として廃止された1947年5月2日までに開始した相続については、家督相続制度が適用されます。
そのため、家督相続は過去の遺産相続の方法ですが、現在でも家督相続を適用するケースが稀にあります。
土地や家屋を相続した時は、速やかに相続登記をする必要があります。
しかし、先祖代々受け継がれてきた土地などは、1947年より前から相続登記されない場合があります。
このように長年相続登記がされていない土地を登記するには、最後に登記された所有者から順番に登記の手続きをします。その最後の所有者から相続が発生した日が、1947年5月2日より前であれば家督相続を適用して登記します。
ややこしい話になるので、以下の例を用いて説明します。
現在の実質的所有者は「孫」ですが、登記上の所有者は1944年に死亡している「祖父」となっています。
この孫が土地を登記したいと考えた場合、
- 1944年7月に相続により 祖父→長男 に所有者が移転(家督相続制度)
- 1980年5月に相続により 長男→孫 に所有者が移転(現行の相続制度)
の二段階で登記をします。
一段階目の祖父から長男への相続は、1947年以前のものなので、家督相続制度により長男に相続されたものと考えて登記します。
「祖父→長男」に家督相続制度によって相続されたと考えても、現在(令和6年)においては、長男は亡くなっており、現在の実質的所有者である孫になんら影響はないのですが、考え方として家督相続制度を用います。
4.家督相続のように長男1人に全財産を相続させる方法
家督相続のように長男1人に全財産を相続させる方法をご紹介いたします。
現在においても、家督相続のように長男1人に全財産を相続させたいというニーズはあります。
現在の相続制度においては、相続人同士で遺産を公平に分けることが基本です。
確かに以下の方法をとれば、長男1人に全財産を相続させることは可能です。
しかし、どちらの方法も長男以外の相続人に、長男1人に全財産を相続させることを納得してもらう必要があります。
これは、言葉で表すことは簡単ですが、実行することは容易ではありません。
あらかじめお伝えしておきます。
4-1.【方法1】遺言書を作成した上で、長男以外の相続人に「長男1人に全財産を相続させる」ことを納得してもらう
遺言書を作成した上で、長男以外の相続人に「長男1人に全財産を相続させる」ことを納得してもらうと、長男1人に全財産を相続させることができます。
まず、以下のような文言を入れた遺言書を作成しましょう。
遺言者〇〇〇〇は、財産のすべてを長男△△△△(昭和◇年◇月◇日生)に相続させる。
そして、長男以外の相続人に「長男1人に全財産を相続させる」ことを納得してもらってください。
現在の相続制度には「遺留分」という、相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く)が遺産を相続できる最低限の割合があります。
遺留分は遺言書であっても侵害することはできないので、遺言書を記載しただけでは、長男1人に相続させることは不可能です。
遺留分は遺留分侵害請求をして初めて効力が発揮するものであるので、長男以外の相続人に、長男1人に相続させることを納得してもらい、死後他の相続人が遺留分侵害請求を行わなければ、長男1人に全財産を相続させることができます。
4-2.【方法2】遺産分割協議を行い、他の相続人全員に納得してもらう
遺産分割協議を行い、他の相続人全員に「長男に全財産を相続させる」ことを納得してもらうと、長男1人に全財産を相続させることができます。
現行の相続制度では、遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議という話し合いをして、遺産の分け方を決めます。
この遺産分割協議において、長男以外の相続人が「長男1人に全財産を相続させる」ということに納得すれば、長男1人に全財産を相続させることが可能です。
5.おわりに
家督相続制度について、理解することはできましたでしょうか。
繰り返しにはなりますが、家督相続は過去の相続制度であり、現在で適用されることは基本的にありません。
もし、あなたご自身が家督相続のように、長男だけに遺産を遺したいという強い想いがあるようでしたら、遺言書を作成したり、相続人全員で話し合ったりなど生前対策を取る必要があります。
強い想いのある方は早めに行動に移すことをおすすめします。