「私がやりたいことは遺言書を書くことで実現可能なのだろうか?」
「法的効力がある遺言はどうやって作ればいいのだろう?」
この記事をご覧のみなさんはこのようなお悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
遺言書の効力が及ぶ主な事項は、以下の8つのことです。
上記の8つのことであれば、遺言書の効力が及びます。しかし、その効力は絶対のものばかりではありません。中には、相続人の意思次第で、遺言書の内容を覆すことができるものもありますので、本記事では、その点も詳しく説明します。
また、法的効力のある遺言書を作成する方法も紹介しています。ご自身が行いたいことが遺言書を作成することによって実現可能であるとわかった場合、すぐに行動に移すことができます。
みなさんの想いが「法的効力のある遺言書」という形になって、相続人の方々に届くことのお手伝いができればい幸いです。
1.遺言書の効力が及ぶ8つのこと
遺言書の効力が及ぶのは、主に以下8つのことです。
しかし、その効力は絶対のものばかりではありません。中には、相続人の意思で、遺言書の内容を覆すことができるものもあります。
効力 | 遺言書が効力を発揮すること | 根拠法令 |
△ | 相続分の指定 | 民法902条1項 |
△ | 遺産分割方法の指定・遺産分割の禁止 | 民法908条 |
△ | 遺贈 | 民法964条、 986条~1003条 |
〇 | 非嫡出子の認知 | 民法781条2項 |
〇 | 未成年後見人の指定 | 民法839条1項 |
〇 | 相続人の廃除 | 民法893条 |
〇 | 生命保険金の受取人変更 | 保険法44条 |
〇 | 遺言執行者の指定 | 民法1006条 |
1-1.相続分の指定|効力の強さ△
遺言書を作成することで、相続分(遺産の取り分)を自由に決めることができます。
相続人には民法で「法定相続分」という取り分が定められています。しかし、遺言書を作成することで、遺言者(遺言書を書いた人)が自由に遺産の取り分を決めることができます。
ただし、この効力は絶対ではありません。相続人には遺留分があり、遺言であっても遺留分を侵害することはできません。遺言書で相続分を指定する場合は、遺留分を侵害しないように配慮する必要があります。
例えば、配偶者と子供が1人いる人が「すべての遺産を愛人に渡す」と遺言書に書いたとしても、愛人に遺産すべてを渡すことは不可能です。配偶者と子供には各々1/4の遺留分があり、遺言であっても遺留分を侵害することはできないのです。
■遺留分についての詳細はこちら
法定相続分と遺留分の一覧
1-2.遺産分割方法の指定・遺産分割の禁止|効力の強さ△
遺言書を作成することで、遺産分割方法を指定することができます。
遺産産分割方法の指定とは、以下のように遺産を分割する方法を指定することです。
- 長男は不動産を、次男は預貯金を相続する
- 主な遺産である自宅は売却して、売却金を長男と次男がそれぞれ1/2ずつ相続する
ただし、この効力は絶対ではありません。相続人全員が同意した場合には、遺言書の内容と異なる分割方法を、遺産分割協議で決めることができます。
例えば、相続人が長男と次男、長女の3人であり、遺言書には長男が不動産、次男が預貯金を相続するように記されていたとします。しかし、相続人3人が遺産分割協議を行った結果、「長女にも遺産を渡したい」という結論にいたれば、長女に遺産を渡すことが可能です。
また、相続開始から5年以内であれば遺産分割を禁じることができます。遺産分割でもめそうなとき、冷却期間を置く意味で禁止することができます。
1-3.遺贈|効力の強さ△
遺言書を作成することで、遺贈をすることができます。遺贈とは法定相続人ではない人に財産を渡すことです。
遺言者の財産は、原則として配偶者や子供などの法定相続人が相続します。しかし、遺言書を作成することで、愛人やお世話になった人、孫に財産を渡すことができます。
法定相続人以外に遺産を遺したいという意向がある場合は検討するとよいでしょう。
ただし、この効力は絶対ではありません。相続人には遺留分があり、遺言であっても遺留分を侵害することはできません。遺贈する場合は、相続人の遺留分を侵害しないように配慮する必要があります。
1-4.非嫡出子の認知|効力の強さ〇
遺言書を作成することで、非嫡出子を認知することができます。
非嫡出子とは婚姻をしていない女性との間にできた子供です。遺言者が生前にその子供を認知していれば、嫡出子となり、配偶者と認知されていない子供と同じ扱いになり、法定相続人として遺産をもらう権利もあります。一方で非嫡出子は法定相続人ではないので、遺産をもらう権利がありません。
遺言書を作成することで、生前に認知していなかったとしても、非嫡出子を遺言書で認知し、非嫡出子に遺産をもらう権利を与えることができます。
1-5.未成年後見人の指定|効力の強さ〇
遺言書を作成することで、未成年後見人を指定することができます。
未成年後見人とは、親権者の死亡などのため、未成年者に対し親権を持つ人がいない場合に未成年者の代理人となり、未成年者の監護養育、財産管理、契約等の法律行為などを行う人のことです。
未成年の子供がいて、遺言者の死亡により親権者が不在になる場合に指定します。
1-6.相続人の廃除|効力の強さ〇
特定の相続人から相続人としての地位を無くし権利を奪うことができます。
ただし、遺言者が生前にその相続人から虐待や、重大な侮辱を受けるなど、絶対に相続させたくないと思わざるを得ないような事情があった場合に限ります。
1-7.生命保険金の受取人変更|効力の強さ〇
遺言者を作成することで、生命保険受取人を変更することができます。
保険金の受取人の変更は本来、契約変更の手続きが必要ですが、遺言書に記載することで、保険金の受取人を変更することが可能です。
1-8.遺言執行者の指定|効力の強さ〇
遺言者を作成することで、遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者は、遺言の内容に従って財産目録を作成したり、金融機関で預貯金の名義変更を行ったり、不動産の相続登記などを行います。
2.遺言書の効力が及ばない4つのこと
遺言書の効力が及ばない4つのことをご紹介いたします。
以下に記載した4つのことは、たとえ遺言書を作成したとしても法的効力は及びません。
2-1.養子縁組・離婚・結婚に関すること
遺言書で養子縁組・離婚・結婚など、子の認知以外の身分を指定したとしても、効力は生じません。遺言書で身分の指定ができるのは非嫡出子の認知に関する事項のみです。
2-2.家族への願い・感謝の気持ち
遺言書に付言事項(いわゆる 追伸・のようなもの)として、家族への願いや、感謝の気持ちを書く方が多くいらっしゃいます。しかし、その内容は家族の心を動かすかもしれませんが、法的な効力はありません。
2-3.遺言者が営んでいた事業の継承方法等の希望
会社を営んでいる人が遺言書を作成した場合、自分の死後、会社を継承して欲しいなどの想いを付言事項として書くことが多くあります。しかし、その内容はあくまでも希望であり、法的な効力はありません。
2-4.臓器提供など遺体の処理方法に関する希望
遺言書の付言事項(いわゆる 追伸・のようなもの)に、臓器提供など遺体の処理方法に関する希望を記載する人もいらっしゃいますが、その内容はあくまでも希望であり、法的な効力はありません。
3.効力のある遺言書の作成方法
法的効力のある遺言書の作成方法をご紹介します。
1章2章をご覧になり、ご自身が行いたいことが遺言書を作成することによって実現可能であるとわかった場合は、3章でご紹介した方法で遺言書を作成してみてください。
遺言書は、民法で定められた作成上のルールを遵守して作成することで初めて、法的効力を持つことができます。また、適切に保管を行わないと、誰かに改ざんされたり、紛失したり、誰にも見つけてもらえなかったりと、遺言書として意味をなさない結果となってしまいます。
そのため、法的効力の遺言を作成するには、以下の2つ要件が必要不可欠です。
- 遺言書作成のルールを遵守できる方法
- 安全に保管できる方法
上記2つの要件を満たす遺言書の作成方法は、ずばり「公正証書遺言を作成すること」です。その他の方法では残念ながら、上記の2つの要件を満たすことはできません。
遺言書の作成方法 | 遺言書作成のルールを遵守できるか | 安全に保管できるか | 総合おすすめ度 |
公正証書遺言を作成する | ◎ | ◎ | ◎ |
直筆証書遺言を作成し、法務局で保管する | △ | ◎ | △ |
自筆証書遺言を作成し、自宅で保管する | △ | △ | △ |
3-1.公正証書遺言を作成する|おすすめ度◎
法的効力のある遺言を作成したい場合は「公正証書遺言を作成する」ことをおすすめします。
公正証書遺言は遺言者の口述内容を元に公証役場にいる公証人が関与して遺言書を作成します。そのため、遺言書作成のルールは必ず遵守することができます。また、原本は公証役場で保管されるので、安全に保管されます。
4.遺言書の効力の有効期限
遺言書の効力には有効期限はありません。
正しい形式で作成されていれば、遺言者が亡くなった時から無期限でその効力は有効となります。
5.さいごに
ご自身が行いたいことが遺言書を作成することで実現できるかどうかお分かりになりましたでしょうか。
ご自身が行いたいことが遺言書を作成することで解決できる方は、本記事で解説した作成方法で遺言書を作成してください。みなさんの想いが「法定効力のある遺言書」という形になって、相続人の方々に届くことを願っております。