私たち夫婦に子供がいれば、私の遺産は配偶者と子供に受け継がれることはわかる。
でも、私たち夫婦には子供がいない。この場合、遺産を相続するのは誰になるのだろう…?
本記事をご覧の方は、このような疑問を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
よく相続の例として登場するのは、夫婦と子供が相続するパターンです。
子供がいない夫婦の方は、ご自身の場合、誰が遺産を相続する権利があるのか気になるのは当然のことです。
本記事は子供がいない夫婦の相続について網羅的に解説しています。
みなさんがご自身に相続が発生した場合の状況を思い浮かべることができ、適切な生前対策を行う上での一助になれば幸いです。
【この記事を読むとわかること】
- 子供なし夫婦の相続で考えられる法定相続人のパターン
- 子供なし夫婦の相続では、トラブルが起こりやすい
【トラブル①】配偶者と親・兄弟姉妹の関係が悪く、相続手続きが進まない
【トラブル②】遺産が自宅しかなく、配偶者が自宅を売却することになる - 子なし夫婦は相続に備えて生前対策を取るべき
【生前対策①】遺言書の作成
【生前対策②】配偶者に生前贈与を行う
【生前対策③】生命保険の受取人を配偶者にする
【生前対策④】家族信託を活用する
目次
1.子供なし夫婦の相続で考えられる法定相続人のパターン3選
子供なし夫婦の相続で考えられる法定相続パターンを3つ紹介します。
子供なし夫婦に相続が発生した場合、相続財産の全てが配偶者のものになるとは限りません。
パターン2・3の場合、親(直系尊属)・兄弟姉妹にも遺産を相続する権利があります。
パターン | 法定相続人 | |
---|---|---|
1 | 被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人には兄弟がいない場合 | 配偶者 |
2 | 被相続人の親(直系尊属)が存命の場合 | 配偶者と親(直系尊属) |
3 | 被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人に兄弟姉妹がいる場合 | 配偶者と兄弟姉妹 |
【パターン1】被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人には兄弟がいない場合→配偶者
被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人には兄弟姉妹がいない場合、配偶者のみが法定相続人となります。
このケースでは配偶者が全ての財産を相続する権利を持ちます。
【パターン2】被相続人の親(直系尊属)が存命の場合→配偶者と親(直系尊属)
被相続人の親(直系尊属)が存命の場合、法定相続人は配偶者と親(直系尊属)になります。
この場合、配偶者の法定相続分は2/3、親(直系尊属)の相法定相続分は1/3です。
【パターン3】被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人に兄弟姉妹がいる場→配偶者と兄弟姉妹
被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており被相続人に兄弟姉妹がいる場合、法定相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。
この場合、配偶者の法定相続分は3/4、兄弟姉妹の相法定相続分は1/4です。
※甥・姪が代襲相続人となることもある
兄弟姉妹が被相続人より前に亡くなっている場合、兄弟姉妹の子供(被相続人の甥・姪)が代襲相続人として、相続財産を引き継ぐ権利を持ちます。
ただし、代襲相続人となることができるのは、1代(被相続人から見た甥・姪)までです。
レアなケースではありますが、兄弟姉妹と甥・姪が被相続人より前に亡くなっており、甥・姪の子供が存命であったとしても、甥・姪の子供は代襲相続することはできません。
■代襲相続についての詳細はこちら
【図解】代襲相続人とは?なる人・割合・遺産分割前に知るべきこと
2.子供なし夫婦の相続で起こりがちな相続トラブル2選
子供なし夫婦の相続で起こりがちな相続トラブルを紹介します。
子供なし夫婦の相続の場合、1章で説明した通り、配偶者と親(直系尊属)・兄弟姉妹が法定相続人になります。
しかし、一般的に配偶者と親・兄弟姉妹は心理的な距離がある場合が多く、配偶者と子供が相続する場合よりも相続トラブルが起こりやすいのが現実です。
起こりがちなトラブルを事前に知ることで、生前に対策をすることができます。
2-1.配偶者と親・兄弟姉妹の関係が悪く、相続手続きが進まない
起こりがちなトラブルの1つ目は、配偶者と親・兄弟姉妹の関係が悪く、相続手続きが進まないことです。
遺言書がなく、配偶者と親または兄弟姉妹が相続人となった場合、遺された配偶者は、義理の両親・兄弟姉妹と遺産分割について話し合わなければなりません。
実の親子でも話しにくい、遺産というお金の話を、義理の親などとする。考えただけでも、配偶者に大きな負担がかかります。
また、配偶者と親・兄弟姉妹で意見が合わずに、遺産分割協議がいつまでも終わらず、相続手続きが進まないという事態も起こります。
2-2.遺産が自宅しかなく、配偶者が自宅を売却することになる
遺産が自宅の土地・建物のみの場合、配偶者が住み慣れた自宅を売却せざる得なくなる可能性があります。
遺産のほとんどが不動産である場合は、1人が不動産を取得し、他の相続人に代償金としてそれぞれの相続分に見合った額の金銭を支払う方法で遺産分割を行うケースがあります。
配偶者の他に法定相続人がいて、配偶者の手元に他の法定相続人に支払える資金がなかった場合、配偶者は自宅を売却し現金化して、他の法定相続人と遺産を分ける必要があります。
3.子供なし夫婦がとるべき生前対策4選
2章で紹介したような相続トラブルとならないために、子なし夫婦がとるべき生前対策を紹介します。
3-1.遺言書を作成する
子なし夫婦がとるべき生前対策の1つ目は、遺言書を作成することです。
遺言書には法定相続分よりも強い効力があるため、遺言書に「配偶者に遺産のうち〇〇を遺す」と記載し、その遺言が有効であれば、相続発生時に指定した遺産を配偶者に相続させることができます。
しかし、遺言書であっても法定相続人の遺留分を侵害することができません。
兄弟姉妹には遺留分はありませんが、親は遺産の1/6の遺留分があります。
そのため、「配偶者に全ての遺産を相続させる」という遺言書を作成したとしても、親が遺留分侵害額請求をしたら、配偶者は全ての遺産を相続することはできません。
遺言書を作成する場合は、遺留分に配慮した内容で作成するようにしましょう。
■遺言書と遺留分の関係についての詳細はこちら
遺言があっても遺留分は貰える?ケース別まとめ
3-2.配偶者に生前贈与を行う
配偶者に生前贈与を行うことも一つの方法です。
結婚後20年以上経った夫婦の間で居住用の不動産を贈与する場合、基礎控除の110万円に加えて、最高2000万円までが贈与税の課税価格から控除されるなど、配偶者に有利な特例があります。
しかし、この特例には適用要件があり、この適用要件はやや複雑で分かりづらいです。
生前贈与を検討している場合は、どのような特例を受けることができるのか、一度税理士に相談することをおすすめします。
3-3.生命保険の受取人を配偶者にする
子なし夫婦がとるべき対策の3つ目は、生命保険の受取人を配偶者にすることです。
生命保険の死亡保険金は受取人固有の財産であるため、遺産分割の対象とはなりません。
生命保険に加入し、その受取人を配偶者にすれば、その保険金は必ず配偶者のものとなります。
3-4.家族信託を活用する
子なし夫婦がとるべき対策の4つ目は、家族信託を活用することです。
家族信託とは、預貯金や不動産などの保有資産を信頼できる家族に託して、管理や処分を任せることができる財産管理方法のことです。
家族信託を活用すれば、配偶者へ財産を相続させるだけではなく、配偶者が亡くなった後にその財産を誰に相続させるのかまで決めることができます。
子供なし夫婦で、配偶者が亡くなった後は関係性が深い特定の人物に相続させたいという明確な希望があるた場合は、家族信託を活用することがおすすめです。
例えば、自分が亡くなった際は配偶者に財産を相続させたいが、その配偶者が亡くなった場合は、配偶者の兄弟姉妹(法定相続人)ではなく、自分の甥姪に相続させたい場合などです。
4.子なし夫婦の相続についてよくある質問
子なし夫婦の相続について、よくある質問をご紹介します。
Q.現在の配偶者との間に子供はいないが、前妻との間に子供がいる。この場合、子供は法定相続人なのか。
A.はい、子供は法定相続人になります。
前妻との間の子供であっても、あなたの子供に変わりはありません。
子供は法定相続人となるため、あなたに相続が発生した場合の法定相続分は現在の妻1/2・前妻の子供1/2となります。
Q.自分が亡くなった後に配偶者も亡くなった場合、財産は誰が相続するのか。
A.配偶者の相続財産は、配偶者が亡くなった時点で配偶者の親が生きていれば親、親が既に亡くなっていれば兄弟姉妹、親も兄弟姉妹も亡くなっていた場合は兄弟姉妹の子供(甥・姪)が相続します。
また、この3者のうち誰もいない場合、配偶者の相続財産は、基本的には国庫に帰属されることになります。
ただし、遺贈・特別縁故者・家族信託などの制度を活用することで、国庫に帰属されることなく、お世話になった人など、特定の誰かに渡すこともできます。
5.まとめ
「私たち夫婦に子供がいれば、私の遺産は配偶者と子供に受け継がられることはわかる。
でも、私たち夫婦には子供がいない。この場合、遺産を相続するのは誰になるのだろう…?」
と疑問に思われている方を対象に、子なし夫婦の相続について解説してきました。
本記事の大切なポイントを最後にもう一度紹介します。
- 子供なし夫婦の相続で考えられる法定相続人のパターン
- 子供なし夫婦の相続では、トラブルが起こりやすい
【トラブル①】配偶者と親・兄弟姉妹の関係が悪く、相続手続きが進まない
【トラブル②】遺産が自宅しかなく、配偶者が自宅を売却することになる - 子なし夫婦は相続に備えて生前対策を取るべき
【生前対策①】遺言書の作成
【生前対策②】配偶者に生前贈与を行う
【生前対策③】生命保険の受取人を配偶者にする
【生前対策④】家族信託を活用する
みなさんがご自身に相続が発生した場合の状況を思い浮かべることができ、適切な生前対策を行う上での一助になれば幸いです。