贈与税は支払った方がお得?贈与税と相続税の関係を解説

「相続税と贈与税、どちらがお得なのだろうか?」
本記事をご覧になられている方は、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。

結論から申し上げますと、同じ金額を一度に渡すのであれば、贈与税の方が税率は高くなります。

しかし、相続と生前贈与では、「渡すことができる回数」という前提条件が異なります。
そのため、生前贈与・贈与税を上手に活用することで、相続税を節税することもできます

本記事では相続専門税理監修のもと、ケーススタディを用いながら、相続税と贈与税の関係について解説してまいります。


1.同じ金額を一度に渡した場合の税率は、相続税<贈与税

同じ金額を一度に渡した場合の税率は、相続税<贈与税となります。

贈与税は贈与された金額から基礎控除110万円を引いた額に対して税金がかかります。(暦年贈与制度の場合)一方で相続税は遺産の額から基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人の数を引いた額に対して税金がかかります。

以下が相続税と贈与税の税率表です。
この2つの表を比較すると、同じ1,000万円の課税対象額であった場合、相続税は10%で済みますが、贈与税は30%の税率が適用されることになります。

同じ金額を一度に渡した場合の税率は、相続税<贈与税となるので、一見贈与税の方が不利に見えます。

■相続税の詳しい計算方法は、相続税の税率・税額の求め方|ある家族を例に9つのステップで解説をご覧ください。


2.相続と生前贈与では、「渡すことができる回数」が違う

相続と生前贈与では、「渡すことができる回数」という前提条件が異なります
そもそもの前提条件が異なるので、1章でご紹介した税率だけで、贈与税が損で相続税がお得などと言い切ることはできません。

相続は一度に全財産を渡すことしかできませんが、生前贈与は何度でもできます。
さらに、生前贈与は渡す時期を自分で選べるというメリットもあります。

一度にまとめて渡すのではなく、何度にも分けて生前贈与を行うことで、生前贈与1回あたりの課税対象額を下げ、適用される税率を下げることができます。

例をもとに解説していきます。

Aさん(60代男性)

  • 財産:1億円
  • 相続人:息子1人(配偶者は既に他界)
  • 生前贈与した財産は3-7年内加算の対象外であった

このような条件のAさんが相続で息子に財産を渡した場合、相続税額は1,220万円となります。
また、Aさんが生前に一括で1億円を息子に渡した場合、贈与税額は4,799万5千円となります。かなり高額な贈与税がかかり、この2つの税額だけ見れば、相続税の方が断然お得です。

ですが、Aさんが息子に5回、10回、20回と分けて生前贈与を行った場合、生前贈与税の金額は以下の表の通り、どんどん小さくなっていき20回に分けて生前贈与した場合は、相続税額よりも贈与税額が小さくなります。

相続で渡した場合
(1億円を相続)
1,220万円
一括で贈与した場合
(1億円を1回で贈与)
4,799万5千円
5回に分けて贈与した場合
(1回の贈与金額が2,000万円)
2,927万5千円(累計)
10回に分けて贈与した場合
(1回の贈与金額が1,000万円)
1,770万円(累計)
20回に分けて贈与した場合
(1回の贈与金額が500万円)
970万円(累計)

相続は一度に全財産を渡すことがしかできませんが、生前贈与は分割して財産を渡すことが可能であり、生前贈与の回数によっては相続よりも税負担が小さくなるケースもあります。

そのため、贈与税を支払うことが、必ずしも損というわけではないのです。


3.生前贈与を利用した相続税の節税方法2選

生前贈与を利用した相続税の節税方法を2つご紹介いたします。
生前贈与を行い多少の贈与税を支払っても結果として、相続税を節税することができるケースです。

節税方法1相続税が累進課税であることを利用した方法
節税方法2贈与税の基礎控除額(年間110万円)を利用した方法

【節税方法1】相続税が累進課税であることを利用した方法

節税方法の1つ目は、相続税が累進課税であることを利用する方法です。
生前贈与を行い相続する財産額を下げることで、高い税率で課税される部分を減らしていきます。

言葉でお伝えするとイメージが沸きにくいと思いますので、1つ例をみてみましょう。

Aさん(60代男性)

  • 財産:1億円
  • 相続人:息子1人(配偶者は既に他界)
  • 生前贈与した財産は3-7年内加算の対象外であった

このようなAさんに相続が発生した場合、相続税の計算は1億円の相続財産を5つの区分に分けて行います。それぞれの区分ごとに税率をかけ、各区分の税額を出し、その税額を足し合わせて相続税額を出していきます。

区分各区分に属する課税金額各区分にかかる税率各区分の税額
8,600万円超~1億円まで1,400万円30%420万円
6,600万円超~8,600万円まで2,000万円20%400万円
4,600万円超~6,600万円まで2,000万円15%300万円
3,600万円超~4,600万円まで1,000万円10%100万円
3,600万円まで3,600万円0%0円

1億円にかかる相続税額は1,220万円(420万円+400万円+300万円+100万円)であることがわかりました。
また、この例の最高税率である30%がかかる8,600万円超~1億円の区分にかかる税額が一番大きいことも表から読み取れます。

では次に、Aさんが生前息子に生前贈与を300万円し、相続財産額が9,700万円になった時の各区分ごとの相続税額を同じようにみていきましょう。

区分各区分に属する課税金額各区分にかかる税率各区分の税額
8,600万円超え~1億円まで1,100万円30%330万円
6,600万円超~8,600万円まで2,000万円20%400万円
4,600万円超~6,600万円まで2,000万円15%300万円
3,600万円超~4,600万円まで1,000万円10%100万円
3,600万円まで3,600万円0%0円

相続財産9,700万円にかかる相続税額は1,130万円(330万円+400万円+300万円+100万円)となりました。相続財産が1億円の時に比べて、相続税額は90万円も減少しています。

生前贈与を行うことで、この例の場合で最も税率が高い30%の区分に属する財産額を減らすことができたので、大きく相続税額を減少させることができました。
また、息子への300万円の生前贈与にかかる贈与税は、15%の税率で計算され、税額は19万円で済みます。

贈与税と相続税のトータルでみても、300万円を生前贈与した場合の方が、71万円税負担が少ない結果となります。

贈与税相続税合計
300万円の生前贈与を行った場合
(相続税額9,700万円)
19万円1,130万円1,149万円
生前贈与を行わなかつた場合
(相続税額1億円)
1,220万円1,220万円

【節税方法2】贈与税の基礎控除額(年間110万円)を利用した方法

節税方法の2つ目は、贈与税の基礎控除額(年間110万円)を利用する方法です。

こちらは相続までに時間的余裕がある方におすすめしたい方法です。
節税方法1とは違い、贈与税を支払わずに、相続税を節税することができます。

贈与税には年間110万円の基礎控除額があります。
この基礎控除額を利用して、長期的に複数人の人へ生前贈与を行うことで、贈与税を納めずに相続税を節税することができます。

こちらも例を用いて解説します。

Bさん(60代男性)

  • 財産:1億円
  • 相続人:子供3人(相続発生時、配偶者は既に他界)
  • 暦年課税制度を選択

Bさんは3人の子供に、亡くなる20年前から毎年100万円ずつ、計画的に生前贈与を行いました。
その結果、相続開始前までに2,000万円ずつ(計6,000万円)を贈与税をかけずに子供に渡すことができました。

また、生前贈与を行ったことにより、Bさんの相続財産は、6,100万円まで減少します。(相続開始前7年間の贈与財産は、相続財産となるので、4,000万円とはなりません。)
生前贈与をせずに相続を迎えた場合の1億円にかかる相続税は630万円なのに対し、このケースのように生前贈与を行った場合の相続税額は130万円となります。

贈与税を支払わずに、相続税を500万円節税することができました。

贈与税相続税合計
30年間、生前贈与を行った場合
(相続税額6,900万円)
0円130万円130万円
生前贈与を行わなかつた場合
(相続税額1億円)
630万円630万円

4.相続税対策を目的に生前贈与を行う際は、税理士に相談を

相続税対策を目的に生前贈与を行う際は税理士に相談することをおすすめします。

本記事では3章で2つの節税方法をご紹介させていただきましたが、あくまでも一例です。

税理士に相続税の試算をしてもらい、適用される相続税の税率・税額を知った上で、生前贈与・贈与税を効果的に活用していくことが節税の近道です。

相続対策を目的に生前贈与を行う際は、自己流ですることなく、税理士に相談するようにしましょう。

また、税理士に相続税について相談するメリットや相続税に強い税理士の選び方は、相続税の相談はどこにするのが良いのか?にまとめてありますので、ご覧ください。


5.まとめ

相続専門税理監修のもと、ケーススタディを用いながら、相続税と贈与税の関係について解説してまいりました。

繰り返しにはなりますが、相続対策を目的に生前贈与を行う際は、理士に相続税の試算をしてもらい、適用される相続税の税率・税額を知った上で、生前贈与・贈与税を効果的に活用していくことが節税の近道です。

私が所属しております辻・本郷 税理士法人でも相続税の生前対策のコンサルティングを受け付けております。家族構成や保有している財産、ご家族への想い等、お客様の現状を把握し、課題解決に向けた最適なご提案をさせていただきます。

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一律66万円(税込)の相続コミコミプラン

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