遺産分割調停とは?図解を用いてわかりやすく解説

相続人の間で遺産分割についての話し合いがまとまらず、遺産分割調停を検討している…。
でも、遺産分割調停ってどういう手続きなのだろうか?

本記事ではこのようなお悩みを抱えている方を対象に、遺産分割調停について網羅的に解説しています。

遺産分割調停の詳細は、裁判所のHPをみればすべて掲載されています。
しかし、裁判所のHPの言葉は難しく、はじめて遺産分割調停を検討される方では理解に時間がかかります。
そこで本記事では、はじめて遺産分割調停を検討される方でも1回読めばわかるように、なるべく平易な言葉で遺産分割調停について解説しています。

本記事がみなさんの相続手続きの一助となれば幸いです。


1.遺産分割調停とは

遺産分割調停とは、遺産の分割について相続人の間で話し合いがつかない場合に利用することができる、家庭裁判所の手続きです。

家庭裁判所の裁判官と調停委員が、相続人それぞれの主張を聞き取り、話し合いによって相続人全員による合意を目指します(調停委員とは、民間から選出された非常勤の裁判所職員のことで、弁護士などから選任されます)。

遺産分割調停は言わば、家庭裁判所で行う遺産分割についての話し合いです。

家庭裁判所というと、裁判官から審判(いわゆる判決)を下されるものと考える方もいらっしゃいますが、それは遺産分割審判です。遺産分割調停は、あくまでも話し合いで解決を図ります。


2.遺産分割調停を検討する場面

遺産分割調停を検討する場面は、「遺言書がなく、相続人同士で遺産分割協議を行ったが意見がまとまらない時」です。

遺産の分け方には以下の4つの方法があり、上から順番に検討していきます。
遺産分割調停は3つ目の方法です。遺言書がなく、相続人の間で遺産分割協議を行ったが意見がまとまらない時に、家庭裁判所の助けを借りて遺産分割について話し合うのが遺産分割調停です。


3.遺産分割調停を申し立てることができる人

遺産分割調停を申し立てることができる人は、基本的に法定相続人または受遺者です。

裁判所のHPには、以下の三者が申立者として記載されています。
厳密に言うとこの三者なのですが、相続分譲受人はレアケースです。また、共同相続人や包括受遺者も馴染みが薄い言葉なので、平易な言葉で表現すると「相続人または受遺者」となります。

共同相続人遺産分割が終わっていない状態の法定相続人のこと
包括受遺者遺言によって財産を特定せずに包括的に譲り受ける人のこと
相続分譲受人相続分を譲渡された人のこと

■裁判所HP 遺産分割調停


4.遺産分割調停の申立て先

遺産分割調停の申立て先は、以下のいずれかです。

  • 相続人のうち誰かの住所地を管轄する家庭裁判所
  • 相続人同士が話し合いで決定した家庭裁判所

家庭裁判所のHPに、申立て先は「相手方のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所」「当事者が合意で定める家庭裁判所」と記載されています。
この2つを平易な言葉で表現すると、相続人のうち誰かの住所地を管轄する家庭裁判所、または相続人同士が話し合いで決定した家庭裁判所となります。

また、遠隔地に住んでいるなどの相当の理由がある場合は、リモートでの対応が認められる場合もあります。このあたりの判断は裁判所によって異なりますので、詳しくは各裁判所に直接確認しましょう。

■管轄の裁判所を検索したい方はこちら:裁判所の管轄区域


5.遺産分割調停の申立てにかかる費用

遺産分割調停の申立てにかかる費用は以下の2つです。

  • 被相続人1人につき収入印紙1,200円分
  • 連絡用の郵便切手代(申し立て先の家庭裁判所によって異なる)

また、9章で詳しく解説しておりますが、弁護士に依頼する場合は別途、費用がかかります。


6.遺産分割調停の申立てに必要な書類

遺産分割調停の申立てに必要な主な書類は以下の通りです。

HPから様式をダウンロードできるものは、リンクと記載例を掲載しています。
実際に赴いて取得するものは、取得できる場所を記載しました。ご参考になさってください。

なお、代襲相続が発生している場合、相続人に直系尊属がいる場合、相続人に兄弟姉妹がいる場合などは、追加で必要となるものがありますので裁判所HP「5.申立てに必要な書類」をご確認ください。

書類名取得先
遺産分割調停申立書様式記載例
土地遺産目録様式記載例
建物遺産目録様式記載例
現金・預貯金・株式等遺産目録様式記載例
当事者目録様式記載例
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本市区町村役場
相続人全員の戸籍謄本市区町村役場
相続人全員の住民票または戸籍附票市区町村役場
遺産に関する証明書
 ・不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書
 ・預貯金通帳の写し又は残高証明書
 ・有価証券写し など
法務局・金融機関

7.遺産分割調停にかかる期間と回数

遺産分割調停にかかる期間は約1-2年です。
また、話し合いは1ヶ月から1ヶ月半の間隔を設けて、平均で7回行われます。

そのため、遺産分割調停がはじまってから終わるまでは、約1-2年という長い期間がかかります。

実際に令和2年度の司法統計によると、約51%の遺産分割調停が、6ヶ月以上から2年以内に終わっていることがわかります。

第45表 遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所


8.遺産分割調停の流れ

遺産分割調停の流れを説明します。
遺産分割調停は、以下の6つのステップで進んでいきます。

8-1.【ステップ1】必要書類を準備する

まずは、6章「遺産分割調停の申立てに必要な書類」を参考に必要書類を準備しましょう。

8-2.【ステップ2】家庭裁判所に申し立てる

必要書類の準備が終わったら、家庭裁判所に申し立てましょう。

申立て先の家庭裁判所は、4章で説明した通り、「相続人のうち誰かの住所地を管轄する家庭裁判所」または「相続人同士が話し合いで決定した家庭裁判所」です。

8-3.【ステップ3】家庭裁判所から調停期日通知書が郵送される

申立ての約2週間後に、家庭裁判所から調停期日通知書が郵送されてきます。
この調停期日通知書に、初回の調停期日(話し合いの日)が記載されています。

なお、調停は裁判所の開庁日である「月曜日から金曜日(祝日・年末年始を除く)の午前10時から午後5時」の間に行われます。

相手方となる相続人はこのタイミングで、裁判所から答弁書や進行に関する照会回答書などの準備を求められることがあります。

8-4.【ステップ4】調停期日に家庭裁判所に赴く

調停期日になったら家庭裁判所に赴きましょう。
調停期日の詳しい流れは以下の通りです。

①待合室で待機

家庭裁判所に着いたら、調停期日通知届に記載された待合室で待機します。
待合室は申立人と相手方と別に設けられているので、遺産分割について争っている人と待合室で顔を合わせることはありません。

②遺産分割調停の手続きと内容の説明を受ける

初回の調停期日では調停に入る前に、遺産分割調停の手続きと内容について、当事者全員で説明を受けます。この場では遺産分割について争っている人と顔を合わせることになりますが、事情があり他の当事者と同席することが難しい場合は、事前に裁判所に提出する「進行に関する照会回答書」にその旨を記載すれば配慮を求めることができます。

③自分の番が来たら調停室に入室する

調停は、調停室という小部屋で進められます。
自分の番が来たら待合室へ担当の調停委員が呼びに来るので、調停員の指示に従って、待合室から調停室へ移動します。調停委員が当事者から個別に意見や主張を聞きながら、論点を整理します。

調停は調停委員2名(基本的に男女1人ずつ)が中心となって、調停室という小部屋で進められます。
(裁判官が調停期日に姿を見せることはあまりありません。)

④調停委員と30分程度話をする

調停室に入室すると、本人確認をした後に調停員と話をします。
事前に提出した事情説明書や答弁書に基づいて質問されることが多いです。

この話し合いは、申立人と相手側それぞれ2回程度行います。
調停委員を介してやりとりをするので、申立人と相手方が同席することは基本的にありません。

⑤調停委員から総括を受ける

申立人と相手側それぞれ2回程度の聞き取りを行うと時間となり、その日の調停は終了となります。

最後に調停委員が、以下の点を総括して話します。

  • 今回、合意できた内容
  • 次回へ持ち越した課題
  • 次回の調停期日
  • 次回の調停期日までに各々が準備すべきこと

8-5.【ステップ5】7回ほど調停期日を繰り返す

ステップ4で解説した調停期日を7回ほど繰り返します。

調停期日は1ヶ月から1ヶ月半の間隔を経て行われますので、遺産分割調停が終わるまで約1-2年の期間がかかります。

8-6.【ステップ6】合意に至った場合は、調停証書が作成される

遺産分割調停の結果、合意に至った場合は、家庭裁判所が調停証書を作成します。

調停証書は遺産分割協議書と同じ効力を持ちますので、この調停証書をもって、預貯金の名義変更や相続登記などの相続手続きを進めていきます。

8-7.【ステップ6】合意に至らない場合は、遺産分割審判に移行する

遺産分割調停で話し合いがまとまらず合意に至らない場合は、遺産分割審判に移行します。

この遺産分割調停が不成立になり、遺産分割審判へ移行することを判断するのは調停委員です。

遺産分割審判では、裁判官が当事者から提出された書類や証拠に基づいて遺産分割の方法を判断し、決定します。


9.遺産分割調停は弁護士に依頼することがおすすめ

遺産分割調停は弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士に依頼せずに自分で遺産分割調停を行うことはできます。
しかし、弁護士に依頼しないとあなたが不利になってしまう可能性が高いので、弁護士に依頼することをおすすめします。

また、実際に令和2年度の裁判所統計によると、遺産分割調停の約8割は弁護士が関与しています。

第47表 遺産分割事件数―終局区分別代理人弁護士の関与の有無別―全家庭裁判所

9-1.遺産分割調停を弁護士に依頼することをおすすめする理由

遺産分割調停を弁護士に依頼する理由は以下の3点です。

【理由1】代理人として調停に出席してもらえる

代理人として一緒に調停に出席し、本人に代わって冷静に発言してくれます。また、万が一、本人が欠席しても調停を開催することができます。

【理由2】法的な観点から的確な主張をしてくれる

正しい根拠をもって主張してもらうことで、相手方が納得してくれたり、調停委員からの理解を得られたりして、納得のいく形での遺産分割調停を期待できます。

【理由3】申立て手続きを代行しもらえる

申立てに必要な多くの書類の収集・作成を行ってくれるので、手続きにかかる負担を大幅に軽減してくれます。

9-2.遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の費用

遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の費用は、経済的利益の金額によって大きく変わってきます。
経済的利益とは、弁護士が依頼者のために活動した結果として得られた金銭のことです。

遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の、おおまかな費用の内訳は以下の通りです。

相談料(弁護士に相談する時にかかる費用)30分5,500円程度
着手金(業務に着手するときに支払う費用)20-60万円程度
(訴訟の規模に応じて価格が決まる)
報酬金(弁護士に支払う成功報酬)経済的利益の金額によって変動
・300万円以下の場合:16%
・300万円超え3,000万円以下の場合:10%+18万円
・3,000万円超え3億円以下の場合:6%+138万円
・3億円を超える場合:4%+738万円
日当(弁護士が遠方に赴く時の出張費)1日50,000円程度
(出張がなければ支払いなし)
実費(諸費用)1-5万円程度

【例】遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の費用

あくまでも一例ですが、経済的利益が1,000万円だったAさんの弁護士報酬は約163万円になります。

相談料22,000円(2時間相談したと仮定)
着手金40万円
報酬金118万円(1,000万円×10%+18万円)
日当なし
実費(諸費用)3万円

10.遺産分割調停に関するよくあるQ&A

遺産分割調停に関するよくあるQ&Aを紹介します。

Q.調停期日に欠席するとどうなりますか?

A.調停期日自体は予定通り開催されます。

しかし、その調停期日では出席した片方のみから意見を聞くことになるので、欠席すると不利になることが考えられます。期日には、極力出席することが望ましいと言えるでしょう。

Q.遺産分割調停の最中で相続税申告の期限に間に合わない場合、どうしたらよいのか

A.未分割の状態で、期限内に申告しましょう。
遺産分割が終わっていないからと期限内に申告を行わないことは、無申告加算税の対象となるため避けることをおすすめします。

相続税申告の提出期限までに遺産分割が行われていない場合は、分割が決まっていない財産を法定相続分で按分した金額をもって相続税額を計算し、申告・納税を行います。

そして、遺産分割調停が終わり、全財産の遺産分割方法が決定した際に、更生の請求または修正申告を行います。

払い過ぎた税金は戻ってくる?~更正の請求~


11.さいごに

はじめて遺産分割調停を検討される方でも1回読めばわかるように、なるべく平易な言葉で遺産分割調停について解説してまいりました。
遺産分割調停に関する全体像を理解することはできましたでしょうか。

9章で説明した通り、遺産分割調停は弁護士に依頼することがおすすめです。
遺産分割調停を検討している方は、一度弁護士に相談してみましょう。

辻・本郷 税理士法人の相続税申告サービス
一律66万円(税込)の相続コミコミプラン

辻・本郷 税理士法人の相続税申告サービス
一律66万円(税込)の相続コミコミプラン