遺産相続手続きは自分でできるのだろうか…?
本記事を開かれた方は、遺産相続手続きについてインターネットで調べて「税理士が代行します!」「相続手続きは司法書士事務所にお任せください!!」といったページをたくさん見ているうちに、遺産相続手続きを自分で行うことはできるのだろうか?と不安になられていることと思います。
結論から申し上げますと、遺産相続手続きを自分で行うことはできます。
しかし、遺産相続手続きの中には4つの専門家に任せた方がよい手続き、3つの専門家に相談した方がよいケースがあることも事実です。
本記事では遺産相続手続きを自分で行う方法を解説したのち、専門家に任せた方がよい手続き・ケースをご紹介しています。
ご覧いただければ、あなた自身が「遺産相続手続きをすべて自分で行うことができるのか」「専門家に任せるべき手続きは何か」を理解することができ、スムーズで確実な遺産相続手続きを進めることができるでしょう。
目次
1.遺産相続手続きは自分でできる
遺産相続手続きは自分で行うことができます。
相続税申告などの、いくつかの専門家に任せる手続き以外は、多くの方がご自身で行っています。
実際に当法人に相続税申告をご依頼いただくお客様の大半は、戸籍謄本を取得して行う相続人調査、金融機関の名義変更といった遺産相続手続きをご自身で行われています。
お仕事などが忙しくて遺産相続手続きを自分で行う時間がないという方に向けて、グループ会社と連携しながら「相続手続き代行」というサービスも行っていますが、ご利用いただいているのは全体の一部のお客様にとどまっているのが現状です。
遺産相続手続きは自分でできると考えてよいでしょう。
しかし、
に該当する場合は、時間や労力、正確さなどの観点から、速やかに専門家に依頼・相談することをおすすめします。
2.遺産相続手続きのリスト
遺産相続手続きのリストです。
各項目名をクリックいただければ、その手続きを「どこで・誰が行うのか」など詳細を確認することができます。
このリストの通りに遺産相続手続きを行っていけば、自分で遺産相続手続きを行うことができます。
目安 | 手続き |
---|---|
死亡日から7日以内 | 死亡診断書の受け取り |
死亡届の提出 | |
火葬許可証の取得 | |
埋葬許可証の取得 | |
死亡日から10日以内 | 年金受給権者死亡届(報告書)の提出 |
死亡日から14日以内 | 介護保険被保険者証の返却・ 介護保険の資格喪失届の提出 |
世帯主変更届の提出 | |
死亡日から1か月以内 | 国民健康保険証の返却 ※目安 |
葬祭費の申請 ※目安 | |
金融機関へ口座凍結の連絡 ※目安 | |
公共料金等の解約(名義変更) ※目安 | |
生命保険金の請求 ※目安 | |
死亡日から2ヶ月以内 | 遺言書の有無の確認 ※目安 |
遺言書の検認 ※目安 | |
相続人調査 ※目安 | |
故人の財産調査 ※目安 | |
死亡日から3か月以内 | 相続放棄の申述 |
死亡日から4か月以内 | 準確定申告 |
預貯金の名義変更手続き ※目安 | |
高額療養費の請求 ※目安 | |
死亡日から6か月以内 | 遺産分割協議の開始 ※目安 |
遺産分割協議書の作成 ※目安 | |
死亡日から10か月以内 | 相続税申告 |
死亡日から1年以内 | 遺留分侵害額請求の手続き |
死亡日から3年以内 | 相続登記(不動産の名義変更手続き) |
3.専門家に任せるべき4つの遺産相続手続き
専門家に任せるべき4つの遺産相続手続きを紹介します。
繰り返しになりますが、遺産相続手続きは基本的に自分で行うことができます。
しかし、以下に紹介する4つの遺産相続手続きについては、時間や労力、正確さなどの観点から「自分で行わずに専門家に依頼した方がよい」と言えます。
相続登記(不動産の名義変更手続き) | 司法書士 |
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相続放棄・限定承認の申立て | 弁護士 |
相続税申告 | 税理士 |
遺留分侵害額請求の手続き | 弁護士 |
3-1.相続登記(不動産の名義変更手続き)→司法書士
相続登記(不動産の名義変更手続き)は司法書士に依頼することがおすすめです。
基本的な相続であれば、司法書士に依頼せず自分で相続登記を行うことは可能です。
しかし、以下の7つのパターンに該当する場合は、司法書士に依頼することをおすすめします。
- 兄弟間相続・代襲相続の場合
- 相続した不動産が、被相続人の先祖名義のまま放置されていた場合
- 相続人同士が不仲で、登記に向けた連携が取りにくい場合
- 代償分割・換価分割で不動産の遺産分割を行いたい場合
- 戸籍の附票が保存期間の経過で破棄されており、必要書類の一部を入手できない場合
- 相続した不動産が遠方にある場合
料金 | 土地1筆あたり、約5-15万円 (初回相談料は無料の事務所が多い) |
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相談方法 | 主に対面 |
予約の有無 | 必要 |
3-2.相続放棄・限定承認の申立て→弁護士
相続放棄・限定承認の申立ては、弁護士に依頼することをおすすめします。
相続放棄・限定承認の申立ての事務的な手続きは、家庭裁判所のHPを見て、分からないことがあれば家庭裁判所に相談しながら、自分で行うことができます。
しかし、相続放棄をすると、相続放棄をした人と次順位の相続人との間でトラブルが生じる可能性があります。そして、家庭裁判所ではこのようなトラブルのケアは行ってくれません。
たとえば…
負債が含まれる相続において相続放棄をし、「相続放棄をしたから、自分はもう関係ない」と次順位の相続人に相続放棄をしたことを伝えなかった場合、次順位の相続人の方へ突然、債権者からの連絡が入り、次順位の相続人の方は対応を求められることになります。
次順位の相続人からすれば、突然借金の督促が来て、そこで初めて自分に借金の返済義務があると知ることになるため青天の霹靂です。相続放棄をした人と次順位の相続人との間で新たなトラブルが生じるのは時間の問題でしょう。
弁護士は相続放棄の手続きだけでなく、相続放棄による影響についても熟知していますので、事前にこのようなトラブルが起きないよう、あなたのケースに合わせて助言をしてくれます。
円満に相続放棄の手続きを進めるためにも、弁護士に依頼することがおすすめです。
料金 | 約5-10万円 |
---|---|
相談方法 | 主に対面 |
予約の有無 | 必要 |
■相続放棄の期間は3ヶ月!期限を過ぎた時の対処法や期間伸長の申立を解説!
3-3.相続税申告→税理士
相続税申告は税理士に依頼することをおすすめします。
なぜなら、税理士に依頼せずに相続人がご自身で申告する場合と、税理士に依頼して申告する場合では、相続人の背負うリスクが大きく異なるからです。
料金 | 遺産総額の0.5-1.5%程度 (初回相談料は無料の事務所が多い) |
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相談方法 | 主に対面 PCによるオンライン面談が可能な事務所もあり |
予約の有無 | 必要 |
■なぜ相続税申告の税理士への依頼はコスパが高い選択と言えるのか?
3-4.遺留分侵害額請求の手続き→弁護士
遺留分侵害額請求の手続きは弁護士に依頼することがおすすめです。
なぜなら、遺留分侵害額請求の制度は専門的で、法律の専門家以外が正確に請求を行うことは難しいからです。現在の法律の条文、判例など多くの法的な知識が求められる上に、遺留分侵害額の算定も財産の正確な評価や特別受益の持ち戻しなど、複雑な計算が必要となります。
さらに、遺留分侵害額請求についての話し合いが当事者間でまとまらず、調停や訴訟になる可能性もあります。特に訴訟となれば、訴訟法に従った厳密な主張や立証が求められるので、弁護士以外の人が行うことは難しいでしょう。
料金 | 50万円程度~ 回収できた金額によって、成功報酬が大きく変動するので注意 |
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相談方法 | 主に対面 PCによるオンライン面談も可能な事務所もあり |
予約の有無 | 必要 |
4.遺産相続手続きを専門家に相談した方がよい3つのケース
遺産相続手続きを専門家に相談した方がよい3つのケースを紹介します。
繰り返しにはなりますが、遺産相続手続きは基本的に全部自分でできます。
しかし、以下で紹介する3つのケースに該当している場合は、遺産相続手続きを進める前に専門家に相談することをおすすめします。
相続人同士でトラブルが起きている | 弁護士 |
---|---|
家族関係が複雑 | 弁護士・税理士・司法書士 |
遺産相続手続きを行う時間がない | 代行センター |
4-1.相続人同士でトラブルが起きている→弁護士
相続人同士でトラブルが起きている場合は、自分で遺産相続手続きを進めずに弁護士に相談しましょう。
トラブルとは具体的に以下のようなことを指します。
- 相続人同士で主張が異なり、遺産分割方法が決まらない
- 内容に納得のいかない遺言書がある
- 相続人同士の仲が悪く連携が取れない
- スムーズに連絡が取れない相続人がいる
- 熱心に介護をした相続人以外の家族がおり、遺産分割に不満を持っている
このようなトラブルが発生している場合、必要書類をそろえることができない上に、遺産分割協議もまとまらないので、遺産相続手続きを進めることがそもそもできません。
まずはトラブルを解決する必要があるため、紛争解決の専門家である弁護士に速やかに相談しましょう。
■遺産相続トラブルになりやすい10のケース|生前にできるトラブル解消方法も解説
4-2.家族関係が複雑→弁護士・税理士・司法書士
家族関係が複雑な場合は、自分で遺産相続手続きを進めずに弁護士・税理士・司法書士のいずれかに相談しましょう。
家族関係が複雑な場合とは、具体的には以下のようなケースです。
- 代襲相続が発生している
- 相続人に兄弟姉妹がいる
- 認知した子がいる
- 養子縁組をしている
- 離婚・再婚歴がある
家族関係が複雑な場合、誰が遺産を相続する権利のある法定相続人であるかを特定することが難しくなります。また、特定できたとしても、集めるべき戸籍の量が通常の相続よりも多くなり、手間と時間がかかります。
さらに、家族関係が複雑な場合は、遺産を巡ってトラブルになることも多いのが実情です。
前妻の子と現配偶者の意見が対立し、遺産分割がまとまらないなど、様々なトラブルが想定されます。
弁護士・税理士・司法書士の、どの専門家に相談すべきかは、あなたの状況によって変わります。
以下の表を参考に選択してください。
弁護士 | 遺産分割を巡ってトラブルになりそうな場合 |
---|---|
税理士 | 相続税申告を行う必要がある場合 |
司法書士 | 相続登記を行う必要がある場合 |
■遺産を相続する権利がある人は誰?迷いやすい13のケースも紹介
4-3.遺産相続手続きを行う時間がない→代行センター
遺産相続手続きを行う時間がない場合は、自分で遺産相続手続きを進めずに代行センターに相談しましょう。
遺産相続手続きには膨大な時間がかかります。
あくまで一例ではありますが、相続税申告を自分で行った場合、累計で約200時間ほど時間を要すると言われています。
さらに、遺産相続手続きを行う上で必ず赴くことになる市区町村役場や金融機関の窓口は、平日の昼間しか営業していません。遺産相続手続きのために平日の昼間に時間が取れない場合、遺産相続手続きを自分で行うことは難しいでしょう。
このような遺産相続手続きを行う時間がない人を対象に、各士業事務所が代行センターを運営しています。
遺産相続手続きの中には、明確な期限が決まっており期限を過ぎるとペナルティが生じるものもあるので、自分で行うことが難しい場合は速やかに代行センターに相談しましょう。
5.まとめ
遺産相続手続きを自分で行うことができるのだろうか…?との疑問について解説してまいりました。
遺産相続手続きは自分で行うことができます。
しかし、遺産相続手続きの中には4つの専門家に任せた方がよい手続き、3つの専門家に相談した方がよいケースがあることも事実です。
この4つの手続きを行う必要がある人、相談すべき3つのケースに該当した人は、速やかに専門家に依頼することをおすすめします。
自分でできることは自分で行うことで費用を節約しながら、専門家に任せるところは任せて、スムーズで確実な遺産相続手続きを行っていきましょう。