あなたがお持ちの共有名義の土地を分筆できるのかどうか、お悩みではありませんか?
「分筆」とは「登記簿上、一つの土地として扱われている土地を、複数個の土地に分けて登記をすること」を言います。
また、共有名義の一つの土地を複数個に分筆した上で、分筆後の土地の一つひとつを共有者一人ひとりが単独所有する形で分ける(例えば、Aさん・Bさん・Cさんの3人が大きな土地を一つ共有している場合、その土地を土地①・土地②・土地③の3つの土地に分筆して、Aさんが土地①を単独所有、Bさんが土地②を単独所有、Cさんが土地③を単独所有する)ことがしばしば行われるため、「分筆した後の土地を単独所有にする」ことも含めて「分筆」と言うこともあります。この「分筆した後の土地を単独所有にする」手続については、後述します。
分筆すれば、分筆後の土地ごとに異なる用途で活用することができるようになります。また、土地の分筆ができれば、分筆後の土地を共有者各人の単独所有とすることによって、共有状態を解消するという提案もしやすくなります。
そこで、あなたの現在の状況では分筆できるのか、分筆するメリットやデメリットはあるのかが分かる内容をご用意しました。
この記事では分筆にかかる具体的な手順や費用も解説しているので、分筆に挑むハードルを下げることができるようになっています。 記事を読むことで、実際に分筆が必要なのかを見分けられて、共有名義の土地を分筆できるようにもなります。この記事を、あなたが柔軟な土地の利活用ができるようになるための一助としてください。
目次
1.共有名義の土地で分筆ができる条件
分筆をすれば、分筆後の土地ごとに異なる用途で活用することができるようになります。また、土地の分筆ができれば、分筆後の土地を共有者各人の単独所有とすることによって、共有状態を解消するという提案もしやすくなります。分筆するメリットは大きいのです。しかし、条件を満たしていないと分筆はできません。あなたの環境がこれから述べる条件を満たすのであれば、分筆をぜひ検討してみてください。
1-1.共有持分の過半数の共有者の同意がある
2023年4月1日に民法が改正されたことにより、共有土地の分筆登記の条件が変更されました。これにより、2024年現在では、共有者過半数の申請書を法務局へ提出するだけで変更登記ができるようになりました。 つまり改正前は分筆不可能だった『所在が不明な共有者がいる場合』や、『一部の共有者に反対されている場合』など、『共有者全員の合意が得られない場合』であっても、現在では分筆可能になっています。
1-2.分筆可能な最低面積の条件を満たしている
分筆後の土地の面積が0.01㎡未満になる分筆は、実務上行うことができないとされています。また、地域によっては「分筆最低面積」の定めがあるところも存在します。
さらに、景観保護の条例がある地域などでは、建築物を建設できる最低敷地面積として、建築基準法で定められた最低限度よりも広い土地を確保しなければならないというケースがあります。この場合は、せっかく分筆ができても、分筆した土地に建築物が建てられなくなってしまいます。 ご自身の所有する不動産が存在する地域について、分筆に関する条件があるかどうか、役場などで確認してみてください。
1-3.隣地の所有者の協力が得られる
分筆するには土地の境界を確定させる必要があり、隣地との境界を確認するために、原則、隣地の所有者の立ち会いが必要となります。そのため、隣地の所有者と連絡がつかない場合や、隣地の所有者が立ち会いに来られない場合などでも分筆ができなくなります。隣地に誰も住んでいない、手入れがあまりされていないという場合は注意が必要です。
2.共有名義の土地を分筆するメリット
2-1.共有関係を解消することに繋がる
共有名義の土地は、管理や処分などを行う際に、他の共有者と話し合う必要があります。分筆した土地を共有者各人の単独所有とすることによって共有関係を解消できると、その手間がなくなり、共有名義の土地を利活用したい方にとって大きなメリットとなります。
2-2.(分筆後、共有状態を解消した場合)適正な市場価格で売れる
土地の共有持分の売却価格は、土地の本来の価値の半額が相場となってしまいます。これは、共有持分だけを取得しても他の共有者と話し合う必要があり、自由に活用できず、需要が少ないためです。
しかし、分筆後に単独所有にした土地であれば、土地本来の価値のままで売却できます。 土地を売却したいときは分筆し、分筆後の土地を単独名義とした後に売却する方が、メリットがあると言えます。
2-3.(分筆後、共有状態を解消した場合)自由に土地の活用ができる
土地を分筆して単独所有にした場合、2-2で述べたように売却ができる他にも、分筆した後の土地上に建物を作って賃貸住宅にしたり、土地自体を借地にしたりと、共有状態で共有者の合意を必要とする場合と違って、単独所有者だけの判断で自由な利活用ができるようになるので、メリットがあると言えるでしょう。
3.共有名義の土地を分筆するデメリット
3-1.同意を得るのに手間がかかる
1-1で述べたように、共有名義の土地を分筆したい場合、共有者の過半数の同意が必要です。共有者全員の同意が必要であった以前と比べると楽になってはいますが、やはり手間なことには違いありません。 さらに1-3で述べたように、分筆には隣地の所有者の立ち会いが原則必要です。隣地の所有者と連絡を取るのも、時間と労力がかかってしまいます。
3-2.分筆方法を誤ると価値が落ちる
土地の資産価値は、土地としての需要や人気にも関わっています。したがって地目(土地の用途)のほか、土地の形状や傾斜、高低差、日当たりなどによっても資産価値は変動します。
資産価値を決定づける「不動産評価額」と、実際の取引価格が異なる場合も多いです。 また、1-2で触れたように、分筆した土地に建築ができなくなることもあります。そのため、分筆後の面積や形状によっては資産価値が落ちてしまうおそれがあります。
3-3.分筆により更地のみの土地を所有することになると固定資産税が上がる
土地の固定資産税には、住居が建築されていると減額されるという特例があります。この特例によって、固定資産税は1/3から1/6程度に減額されるのが一般的ですが、分筆後の土地が更地のみであると、特例の対象から外れてしまいます。したがって固定資産税を減らしたい場合には、分筆の際に十分考慮しておきたい点となります。
4.共有名義の土地の分筆にかかる費用3種
共有名義の土地を分筆するために必要な費用は、大きく分けて3種類あります。
費用の合計金額は、おおよそ数十万円から数百万円です。実施する土地家屋調査の内容によって金額は変わり、一概には示すことができないため、ご自身の場合はどうなるか、土地家屋調査士に相談してみてください。
下の一覧表で費用を確認してみましょう。
それぞれの項目について、内容を詳しく見ていきましょう。
4-1. 土地家屋調査士に依頼する費用
土地を分筆する際には、まず土地家屋調査士に依頼する必要があります。この依頼は必須です。分筆におけるほとんどの役割を土地家屋調査士が代行してくれます。 土地家屋調査士の行うことについては5章で詳しく記しますが、主には土地についての資料を集め、現地調査及び現況測量を実施、境界確認と境界標の設置を行った後、地積測量図と呼ばれる図面を作成して申請書と一緒に登記所へ提出・申請するまでを代行してくれます。
土地家屋調査士への報酬金額は、土地の広さや、分筆の各工程を省けるケースか否かによって異なります。 相場は数十万円から100万円程度と言われていますが、土地家屋調査士への依頼の際に、見積もり金額を確認することをおすすめします。
- 測量費:10万円以上
- 境界標の設置費:10万円以上
- 土地分筆登記申請費用:5万円程度
- 筆界確認書の作成費:10万円程度
- 官民境界確定図の作成費:10万円程度
4-2. 登録免許税の費用
登録免許税は、分筆登記の際、不動産登記簿を変更する税金として必要な費用です。分筆するときに実費として、登録免許税が「分筆後の土地の数×1,000円」かかることになります。
4-3.所有権移転登記の費用
所有権移転登記をする際は、分筆後に共有名義を単独名義へ変更するために必要な費用がかかります。
分筆後の土地を単独名義にするためにかかる費用は、数万円~数十万円程度となります。内訳は以下です。
- 登録免許税:土地の価格の4/1,000
- 司法書士報酬:5万円程度
上記のほか、必要書類の取得費が必要です。
5.共有名義の土地の分筆に必要な具体的手順
それでは、分筆に必要な手順をご説明します。 全ての工程が終了するまでにかかる期間は、土地の測量や手続きなどを含めて2週間~半年程度はかかります。期間の長さは『土地の境界線を明確にするための測量』が済んでいるか否かに大きく影響されます。
手順の中であなたが行うべきことは、主に5-1と5-2と5-4です。土地家屋調査士に依頼し、土地の現状と境界を確認して、土地に境界標を設置する際に立ち会うまでが、あなたのすべきことです。
それ以外は土地家屋調査士及び司法書士に代行してもらえます。 具体的な手順について詳しく説明していきます。
5-1.土地家屋調査士に相談
まずは地域の土地家屋調査士を探し、依頼するところから分筆は始まります。4-1で述べた通り、分筆において土地家屋調査士の役割は非常に重要となりますので、慎重に探していきましょう。
最寄りの都道府県の土地家屋調査士会のウェブサイトから、土地家屋調査士を探すことができます。
登録免許税(どの事務所が行っても本来は一定額となる、分筆登記にかかる税金)の水増しやごまかしのない見積書を、きちんと見せてくれる土地家屋調査士を選ぶと良いでしょう。また、登記に関する書籍を出版しているような実績のある事務所を選ぶことで、損をしない分筆を行うことができます。 金融機関や住宅メーカー、不動産仲介業者などからの紹介による、「指定」された土地家屋調査士となると仲介料が高額になる場合があります。なるべくご自身で依頼するようにしましょう。
5-2.登記簿上の境界と土地の現状を確認(おおむね代行可能)
土地家屋調査士から境界が明確でないという知らせがあったら、共有者全員、もしくは代表者と隣地所有者の立ち会いのもと、境界を決定する手続きに移行します。基本的には土地家屋調査士に先導してもらいましょう。
5-3.分筆案を作成(代行可能)
土地家屋調査士に、役所や隣地所有者に対する説明資料として使う分筆案を作成してもらいます。土地家屋調査士は現地での調査をした上で、資料と現況を示し合わせて、新たに境界とする位置を計算し測量を行います。土地の資産価値を下げないように切り分けるためにも、重要な工程です。
5-4.土地に境界標を設置
次に、境界の目印となる「境界標」を現地に設置してもらいます。その際は共有者の立ち会いや、隣地の所有者への許可を取ることが必要となります。
境界標とは通常、境界の各折れ点に設置される、コンクリートやプラスチックなどで作られた目印のことです。
境界標を設置する際には、分筆案に問題がないかどうかを役所や隣地所有者に改めて確認してもらいます。土地家屋調査士から分筆案を受け取ったら、隣地の所有者から署名と押印をもらい、土地家屋調査士に境界標を設置してもらいます。これら全工程を土地家屋調査士が先導してくれるので、難しいことはありません。
5-5.土地分筆登記を申請(代行可能)
土地家屋調査士が、
- 登記申請書
- 境界の確認できる書類(境界確認書や道路境界確定証明書など)
- 地積測量図
- 現地案内図
を用意し、登記所へ申請します。受理されると、分筆は完了します。
5-6.所有権移転登記を申請(代行可能)
4-3で述べたように、土地を分筆しただけでは共有名義の土地は単独名義に切り替わりません。それぞれの分筆後の土地について、以前と同じ持分での共有状態となります。
共有名義の土地を単独名義にする場合、共有持分を交換する所有権移転登記を申請してください。 所有権移転登記に関しては、司法書士に依頼することで代行してくれます。
6.共有名義の土地を分筆できない場合の解消法!
分筆ができる場合でもできない場合でも、土地の共有名義状態は解消しておくことをおすすめいたします。
相続の際に共有者が増えたり、土地を利活用したい際に同意が必要であったり、土地の資産価値が落ちたりと、最終的にはトラブルを招きかねないからです。
1章では、共有名義の土地を分筆できる条件について述べましたが、その条件に当てはまらず分筆できないケースでも、共有状態を解消する方法はあります。 ここからは、分筆以外で共有状態を解消することができる代替案をご紹介していきます。
6-1.土地の売却
共有名義の土地の売却には、2024年3月現在においても共有者「全員」の同意が必要となってしまいます。 しかし、もし全員の総意として売却したいという場合には最もスムーズに、かつ土地の資産価値を下げずに共有状態を解消できる方法です。
6-2.他の共有者に共有持分を売却
共有者間で、単独名義で土地を所有したい方と持分を手放したい方がいる場合には、共有者間で持分を売却してしまう方法が良いでしょう。 ただし、売却金額分の多額の資金が必要であったり、公正な価格による売却を行うには不動産会社などの専門家の介入が必要となったりと、話が少々難しくなります。
6-3.第三者に共有持分を売却
共有持分の売却をするには、共有者の同意は不要です。持分所有者と買取業者の間で価格の合意が取れ次第、売却することができます。 しかし、あくまで共有持分だけの売却となるので、あまり需要がないこともあり、価格が下がってしまうことも多いです。
7.まとめ
ここまで、共有名義の土地の分筆について、分筆できる条件、メリットとデメリット、実際にかかる費用と手順を解説してきました。
要点をまとめると、
・共有名義の土地は分筆することで、土地ごとに用途を変更したり、共有状態を解消することに繋がったりするといったメリットがある
・共有名義の土地の分筆には、持分の過半数の共有者の同意が必要(2023年4月1日変更内容)
・分筆にかかる費用は、土地家屋調査士への報酬と所有権移転登記にかかる費用が主となる
・手順の大半は代行可能
以上となります。 共有名義の土地の扱いは複雑で、適切な資産価値にするのも手間がかかります。なるべく早く分筆、もしくは6章で述べた代替案を行って、共有名義状態を解消しておくことをおすすめいたします。
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