相続する権利がある人はいったい誰なのだろうか?
と疑問をお持ちではありませんか?
被相続人が独身の場合や、配偶者に連れ子がいる場合などは、誰に相続する権利があるか分かりにくく、悩む方が多数いらっしゃいます。
原則、遺産を相続する権利がある人は、法定相続人です。
しかし、誰が法定相続人となり遺産を相続する権利があるのか分かりづらい場合や、法定相続人であっても遺産を相続することができない場合もあります。
本記事は遺産を相続する権利のある「法定相続人」についての基本的な考え方を説明した後、相続する権利が誰にあるか迷いやすい13のケースを紹介します。
ご覧いただければ、遺産を相続する権利がある人は誰か整理することができ、スムーズに相続手続きを進めることができるでしょう。
1.遺産を相続する権利のある人は、法定相続人
被相続人の遺産を相続する権利のある人は法定相続人です。
法定相続人とは民法で定められている、被相続人の遺産を相続する権利のある人で、被相続人との関係性によって優先順位が決められています。
配偶者は常に法定相続人となり、配偶者以外の人は、①子供②直系尊属③兄弟姉妹の順で配偶者と一緒に法定相続人になります。
ただし、法定相続人であっても、相続欠格・相続廃除に該当する場合には、遺産を相続する権利はありません。
■法定相続人について詳しく知りたい人はこちら
法定相続人とは誰なのか?迷いやすい10の事例つき
1-1.【例外】法定相続人以外が遺産を引き継ぐことになる3つのケース
例外として法定相続人以外が遺産を引き継ぐことなる主なケースが3つありますので紹介します。
【例外1】遺言書に「法定相続人以外の人に財産を遺す」と記載されていた場合
遺言書に「法定相続人以外の人に財産を遺す」と記載されていた場合、その遺言書で指定された人に遺産を引き継ぐ権利があります。
遺言書を作成することで、遺言者(遺言書を書いた人)が自由に遺産を渡す相手を指定でき、法定相続人以外に遺産を渡すことも可能となります。
ただし、法定相続人には遺留分という最低限受け取ることができる権利があります。
例えば、配偶者と子供1人が法定相続人である人が「全ての遺産を愛人に渡す」と遺言書に書いたとしても、愛人に全ての遺産を相続させることはできません。配偶者と子供には各々1/4の遺留分があり、遺留分侵害額請求をすれば、配偶者と子供は各々1/4ずつ遺産を受け取ることができます。
【例外2】相続欠格の場合
相続欠格の人は、たとえ被相続人と法定相続人の関係であったとしても、遺産を相続することはできません。
被相続人を殺害したり、遺言書を破棄したりなどの重大な非行行為があった人は、相続欠格となり、法定相続人としての権利を失います。
【例外3】相続廃除の場合
相続廃除をされた人も、たとえ被相続人と法定相続人の関係であったとしても、遺産を相続することはできません。
相続廃除とは、被相続人が相続人から財産を相続させたくないと思うほどの著しい非行行為を受けた場合に、家庭裁判所に申し立てて、その人の法定相続人としての権利を奪うことです。
2.相続する権利が誰にあるか迷いやすい13のケース
相続する権利が誰にあるか迷いやすい13のケースを紹介します。
法定相続人が「配偶者と子供」や「直系尊属(親など)」というように分かりやすい場合は、誰に相続する権利があるか迷うことはないでしょう。
しかし、被相続人が独身の場合や、配偶者に連れ子がいる場合などは、誰が法定相続人となり相続する権利を持つのか分かりにくくなります。そこで2章では迷いやすい13のケースを取り上げて、一つずつ解説します。
法定相続人が既に亡くなっている場合 | その子供などが代襲相続人として遺産を相続する権利がある |
---|---|
被相続人に内縁の妻がいる場合 | 内縁の妻には遺産を相続する権利はない |
被相続人が養子縁組をしている場合 | 養子は遺産を相続する権利がある |
被相続人に非嫡出子がいる場合 | 非嫡出子は遺産を相続する権利がある |
被相続人に離婚歴があり、異母兄弟がいる場合 | 異母兄弟は遺産を相続する権利がある |
被相続人の配偶者に連れ子がいる場合 | 連れ子は遺産を相続する権利がある |
被相続人が子供なし夫婦の場合 | 相続財産の全てが配偶者のものになるとは限らない |
被相続人が事実婚をしていた場合 | 事実婚のパートナーには遺産を相続する権利がない |
被相続人に前妻の子供がいる場合 | 前妻の子供は遺産を相続する権利がある |
被相続人に半血兄弟がいる場合 | 半血兄弟は遺産を相続する権利があるが、相続分は全血兄弟の半分 |
被相続人に嫁に行った娘がいる場合 | 嫁に行った娘は遺産を相続する権利がある |
被相続人の身寄りがいとこしかいない場合 | いとこには原則、遺産を相続する権利はない (特別縁故者になる可能性はある) |
被相続人に献身的に介護をしてくれた長男の嫁がいる場合 | 長男の嫁には遺産を相続する権利はない (特別寄与料を請求することはできる) |
2-1.法定相続人が既に亡くなっている場合(代襲相続)
法定相続人が被相続人よりも先に亡くなっている場合、法定相続人の子供などが代襲相続人として遺産を相続する権利を持ちます。
ただし、代襲相続できる範囲は、既に亡くなっている法定相続人が誰なのかによって変わるので注意が必要です。
既に亡くなっている法定相続人の属性 | 代襲相続できる範囲 |
---|---|
被相続人の子供の場合 | 何代でも続けてできる(再代襲) |
被相続人の兄弟姉妹の場合 | 兄弟姉妹の子供(被相続人の甥姪)の代まで可 |
■代襲相続についての詳細はこちら
【図解】代襲相続人とは?なる人・割合・遺産分割前に知るべきこと
2-2.被相続人に内縁の妻がいる場合
内縁の妻がいる場合、内縁の妻には遺産を相続する権利はありません。
ただし、内縁の妻との間に子供がおり、その子供を認知している場合、子供には遺産を相続する権利があります。
■内縁の妻の相続についての詳細はこちら
内縁の妻は相続する権利があるの?財産を渡すポイント
2-3.被相続人が養子縁組をしている場合
被相続人が養子縁組をしている場合、その養子は遺産を相続する権利を持ちます。
相続対策のために養子縁組を行っている方は少なからずいらっしゃいます。
その場合、養子は実子と同じ権利を持ちます。
■詳細はこちら
法定相続人に養子がいる場合、実子と同じように相続できる?
2-4.被相続人に非嫡出子がいる場合
被相続人に非嫡出子がいる場合、認知していれば、その非嫡出子は遺産を相続する権利を持ちます。
非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供のことです。
認知していれば、法律上、被相続人の子供という扱いになるので、第1順位の法定相続人として遺産を相続する権利を持ちます。
また、嫡出子(配偶者との間に生まれた子供)との違いは、認知さえしていれば特にありません。
■非嫡出子の詳細はこちら
父親が亡くなった場合、非嫡出子に相続権はある?
2-5.被相続人に離婚歴があり、異母兄弟がいる場合
被相続人に離婚歴があり異母兄弟がいる場合、その異母兄弟にも遺産を相続する権利があります。
現在の配偶者との間の子供でなかったとしても、被相続人の子供であることには変わりありません。
第1順位の法定相続人として遺産を相続する権利を持ちます。
■異母兄弟についての詳細はこちら
父親が亡くなった時に、異母兄弟に相続権はある?
2-6.被相続人の配偶者に連れ子がいる場合
被相続人の配偶者に連れ子がいる場合、連れ子には遺産を相続する権利はありません。
連れ子とは配偶者の子供ではあるが、被相続人とは血の繋がっていない子供のことです。
血が繋がっておらず、法律上は親子ではないので、連れ子には遺産を相続する権利はありません。
ただし、被相続人が生前、連れ子を養子にしていた場合は、第1順位の法定相続人として遺産を相続する権利を持ちます。
■連れ子についての詳細はこちら
連れ子は相続できる?事前に知っておくべき事まとめ
2-7.被相続人が子供なし夫婦の場合
被相続人が子供なし夫婦の場合に考えられる、相続する権利を持つ人のパターンは以下の3種類です。
被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人には兄弟がいない場合 | 配偶者 |
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被相続人の親(直系尊属)が存命の場合 | 配偶者と親(直系尊属) |
被相続人の親(直系尊属)が亡くなっており、被相続人に兄弟姉妹がいる場合 | 配偶者と兄弟姉妹 |
子供なし夫婦に相続が発生した場合、相続財産の全てが配偶者のものになるとは限らないので注意が必要です。
■子供なし夫婦の相続に関する詳細はこちら
子供なし夫婦の相続財産は誰のもの?考えられる3つのパターン
2-8.被相続人が事実婚をしていた場合
被相続人が事実婚をしていた場合、事実婚のパートナーには、原則、遺産を相続する権利はありません。
事実婚とは、法律上の婚姻手続きを行わず、同じ戸籍に入らない状態で夫婦と同等の関係を持っている状態のことです。
残念ながら、事実婚のパートナーは法定相続人ではないので、遺産を相続する権利はありません。
事実婚のパートナーに遺産を遺したい場合は、遺言書を作成するなど生前対策を行う必要があります。
■事実婚と相続の関係についての詳細はこちら
事実婚のパートナーに相続権はある?事実婚カップルがとるべき生前対策
2-9.被相続人に前妻の子供がいる場合
被相続人に前妻の子供がいる場合、前妻の子供には遺産を相続する権利があります。
前妻の子供であっても、被相続人の子供であることに違いはありません。
そのため、前妻の子供は第1順位の法定相続人として被相続人の遺産を相続する権利を持ちます。
また、「現配偶者の子供」と「前妻の子供」の相続する権利に差はありません。
どちらも被相続人の子供であるため、第1順位の法定相続人です。
■前妻の子供と相続の関係についての詳細はこちら
前妻の子に相続する権利はある?相続させたくない時の対応も解説
2-10.被相続人に半血兄弟がいる場合
被相続人に全血兄弟と半血兄弟がいる場合、半血兄弟にも遺産を相続する権利があります。
しかし、半血兄弟の相続分は全血兄弟の半分です。
半血兄弟とは、父・母どちらか一方のみを同じくする兄弟姉妹のことです。
一方で全血兄弟とは、父・母の両方を同じとする兄弟姉妹のことです。
この半血兄弟の相続分は民法900条4項で、全血兄弟の半分と明確に定められています。
■半血兄弟と相続分についての詳細はこちら
兄弟姉妹が亡くなった場合、半血兄弟の相続分はどうなる?
2-11.被相続人に嫁に行った娘がいる場合
被相続人に嫁にいった娘がいる場合、嫁に行った娘にも、遺産を相続する権利があります。
嫁に行って名字や住む場所が変わったとしても、実の両親と親子であることに変わりはありません。
嫁に行った娘は、第1順位の法定相続人として、遺産を相続する権利を持ちます。
■嫁に行った娘と相続の関係についての詳細はこちら
嫁に行った娘にも、遺産相続の権利はある?
2-12.被相続人の身寄りがいとこしかいない場合
被相続人の身寄りがいとこしかいない場合であっても、原則、いとこに遺産を相続する権利はありません。
なぜなら、いとこは血族であっても法定相続人ではないからです。
ただし、被相続人に法定相続人がおらず、いとこが特別縁故者と認められた場合は、遺産の一部を引き継ぎます。
■詳細はこちら
いとこの遺産は相続できる?原則と例外を解説
2-13.被相続人を献身的に介護してくれた長男の嫁がいる場合
長男の嫁には、原則、遺産を相続する権利はありません。
同居をしていて実の娘同然の関係であっても、実の子供に代わって長年献身的に介護をしてくれていても、長男の嫁は法定相続人ではないため、遺産を相続することはできないのです。
ただし、長男の嫁が献身的にあなたの介護を無償で行っていた場合などは、特別寄与料を請求することで、遺産の一部を取得することができます。
■詳細はこちら
長男の嫁に遺産相続をする権利はある?遺産を渡す方法も解説
3.遺産を相続する権利に関してのよくあるQ&A
遺産を相続する権利に関しての、よくあるQ&Aを紹介します。
Q.相続する権利のある人が行方不明の場合、どうすればよいか?
以下の手順で連絡を取る努力を続けましょう。
ステップ1 | 住所を調べる |
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ステップ2 | 手紙を送る |
ステップ3 | 訪問する |
ステップ4 | 不在者財産管理人の選任を申し立てる |
ステップ5 | 遺産分割調停を申し立てる |
ステップ6 | 失踪宣告を行う |
遺産分割協議は法定相続人全員の出席が必要です。
万が一、法定相続人全員が出席せずに遺産分割協議を行ったとしても、作成した遺産分割協議書は無効となります。不動産の名義変更や預貯金の払い戻し等を行うこともできません。
必ず連絡を取るようにしましょう。
■詳細はこちら
連絡の取れない相続人がいた場合の対処方法6選
Q.遺産を相続する権利がある人が既に亡くなっている場合はどうしたらよいか?
法定相続人が被相続人よりも先に亡くなっている場合、その子供などが代襲相続人として遺産を相続する権利を持ちます。
■詳細はこちら
【図解】代襲相続人とは?なる人・割合・遺産分割前に知るべきこと
Q.相続する権利のある人がいない場合、遺産はどうなるのか?
相続する権利のある法定相続人がいない場合、以下の手順で財産を清算していきます。
ステップ1 | 相続財産清算人によって、遺産の清算が行われる |
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ステップ2 | 特別縁故者へ財産分与される |
ステップ3 | 国庫に帰属する |
■詳細はこちら
相続人不存在とは?手続きから財産の行方まで丁寧に解説しました
Q.法定相続人に判断能力が不十分な認知症の人がいる場合、どうしたらよいか?
法定相続人に判断能力が不十分な認知症の人がいる場合は、成年後見制度を利用することをおすすめします。
認知症になり判断能力が低下すると、適切な判断ができなくなります。
そのため、判断能力が不十分な認知症の人が法定相続人にいる場合、遺産分割協議を開催することができず、相続手続きを進められません。
成年後見制度を利用すると、成年後見人は認知症の人に代わって、遺産分割協議を行うことができます。
家庭裁判所への申し立てなど手続きが煩雑ではありますが、判断能力が不十分な認知症の人がいる場合は、成年後見制度を利用して遺産分割協議を行いましょう。
■詳細はこちら
認知症の相続人がいる場合、相続はできるの?対処方法まとめ
4.まとめ
遺産を相続する権利のある「法定相続人」についての基本的な考え方を説明した上で、相続する権利が誰にあるか迷いやすい13のケースを紹介してきました。
最後にもう一度、相続する権利が誰にあるか迷いやすい13のケースを整理します。
法定相続人が既に亡くなっている場合 | その子供などが代襲相続人として遺産を相続する権利がある |
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被相続人に内縁の妻がいる場合 | 内縁の妻には遺産を相続する権利はない |
被相続人が養子縁組をしている場合 | 養子は遺産を相続する権利がある |
被相続人に非嫡出子がいる場合 | 非嫡出子は遺産を相続する権利がある |
被相続人に離婚歴があり、異母兄弟がいる場合 | 異母兄弟は遺産を相続する権利がある |
被相続人の配偶者に連れ子がいる場合 | 連れ子は遺産を相続する権利がある |
被相続人が子供なし夫婦の場合 | 相続財産の全てが配偶者のものになるとは限らない |
被相続人が事実婚をしていた場合 | 事実婚のパートナーには遺産を相続する権利がない |
被相続人に前妻の子供がいる場合 | 前妻の子供は遺産を相続する権利がある |
被相続人に半血兄弟がいる場合 | 半血兄弟は遺産を相続する権利があるが、相続分は全血兄弟の半分 |
被相続人に嫁に行った娘がいる場合 | 嫁に行った娘は遺産を相続する権利がある |
被相続人の身寄りがいとこしかいない場合 | いとこには原則、遺産を相続する権利はない (特別縁故者になる可能性はある) |
被相続人に献身的に介護をしてくれた長男の嫁がいる場合 | 長男の嫁には遺産を相続する権利がない (特別寄与料を請求することはできる) |
本記事がみなさんの相続手続きの一助となれば幸いです。