公正証書遺言を作成すれば、相続の時に本当にもめないの?
本記事はこのようなお悩みをかかえていらっしゃる方を対象に、公正証書遺言を「もめるかどうか」という観点から考察します。
残念ながら、公正証書遺言を作成したからといって、もめるリスクをゼロにすることはできません。
もめる可能性があるケースは2章で紹介した6つのケースのように多々あります。
公正証書遺言を作成する際は、本記事に記載している「もめにくい公正証書遺言を作成する6つのコツ」をおさえた上で作成してください。それがもめにくい遺言書を作成する一番の近道と言えるでしょう。
1.公正証書遺言を作成しても、もめるリスクはゼロにはならない
公正証書遺言を作成しても、もめるリスクはゼロにはなりません。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため無効になりづらく、原本が公証役場で保管されるため紛失や隠蔽の心配がない遺言方式です。
他の遺言方式と比較しても、最も確実で無効になりにくい遺言方式と言えるでしょう。
しかし、公正証書遺言を作成したからといって、もめるリスクをゼロにすることはできません。
理由は以下の2つです。
- 公正証書遺言を作成したとしても、遺言書が無効になる可能性はゼロにはならない
- 公正証書遺言は遺言書の中身までを保証しているものではない
公正証書遺言を作成することで、もめるリスクを軽減することはできますが、もめるリスクをゼロにすることは残念ながらできないのが現実です。
2.公正証書遺言を作成しても、もめる可能性がある6つのケース
では実際にどのようなケースにおいては、公正証書遺言を作成しても、もめる可能性があるのでしょうか。
2章ではその6つのケースを紹介します。
2-1.認知症などで遺言能力がない時に作成していたケース
認知症などで遺言能力がない時に公正証書遺言を作成していたケースです。
公正証書遺言が無効となった裁判例で最も多い要因は、認知症などにより遺言者本人に遺言能力がないことです。
民法963条によると、遺言者に遺言能力がない状態で作成された公正証書遺言は無効となると定められています。
遺言能力とは、自分が作成した遺言の内容・効果を適切に理解できる能力のことです。
遺言作成時において遺言者に遺言能力がなかったと疑われる場合、他の相続人から「その遺言書は無効である」と主張され、もめることになります。
2-2.遺留分を侵害していたケース
公正証書遺言に記されていた遺産分割方法が遺留分を侵害していたケースです。
遺留分とは法定相続人に与えられた、最低限保証された遺産の取り分です。
遺言書であっても、遺留分を侵害することはできません。
遺留分を侵害された法定相続人は、「遺留分侵害額請求」として侵害されている遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができます。
また、万が一、遺留分侵害額請求に応じなかった場合、家庭裁判所における調停・訴訟となることも考えられます。
■遺留分についての詳細はこちら
遺言があっても遺留分は貰える?ケース別まとめ
2-3.不適格な証人のもとで作成したケース
不適格な証人のもとで公正証書遺言を作成したケースです。
公正証書遺言を作成するには、二人以上の証人の立ち合いが必要です。
この証人には民法974条に欠格事由が定められており、以下の者は証人になることができません。
- 未成年者
- 推定相続人及び受贈者並びにこれらの者の配偶者と直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
1と3は公証人が気付く可能性が高く、誤って証人となってしまうことはまず起こりません。
しかし2に関しては範囲が広く、公証人が続柄を正確に把握できなかったがために、証人として認めてしまうケースが過去にありました。
この欠格事由に該当する者が証人となった公正証書遺言は無効になります。
遺言書が無効になれば、一般的な相続と同様に遺産分割協議を行うこととなるので、もめるリスクは十分にあります。
2-4.内容に錯誤があったケース
公正証書遺言の内容に錯誤があったケースです。
公正証書遺言の内容に重大な錯誤があった場合、公正証書遺言は取り消される可能性があります。
たとえば、法的拘束力をもたない付言事項に、法的拘束力があると勘違いして遺言内容を記載してしまった場合、錯誤があったと判断される可能性があります。
2-5.内容が公序良俗に反するケース
公正証書遺言の内容が公序良俗に反するケースです。
公正証書遺言の内容が公序良俗に反していた場合、公序良俗違反として公正証書遺言は無効になります。
公序良俗違反として無効になる例は、配偶者や子供などの相続人がいた場合で、その者の生活が脅かされる可能性があるのにも関わらず、愛人に全財産を相続させるなどと記載してあるケースです。
2-6.遺言書で婚外子を認知するケース
遺言書で婚外子を認知するケースです。
生前に認知していなかった婚外子は遺言書で認知することができ、認知された婚外子は相続権を持ちます。
配偶者や婚内子の立場からすると、隠し子がいたことに大きなショックを受ける上に、自分の遺産取り分が減るため心象を悪くすることは必然です。
3.もめにくい公正証書遺言を作成する6つのコツ
では、もめにくい公正証書遺言を作成するにはどうしたらよいのでしょうか。
3章ではもめにくい公正証書遺言を作成する6つのコツを紹介します。
3-1.弁護士などの専門家に作成サポートを依頼する
公正証書遺言を作成する際は、弁護士などの専門家に作成サポートを依頼するとよいでしょう。
公正証書遺言は弁護士などの専門家を介さずに、遺言者自身が直接公証役場へ行って作成することも可能です。
しかし、公証役場は既に決まっている遺言内容を公正証書とする場所であり、遺言の内容にまで責任を持ってはくれません。
ご自身の考えている遺言内容が、遺留分を侵害していないか、その他相続人同士の争いの火種となりえるかどうかは、弁護士などの専門家に相談する必要があります。
3-2.認知症の場合は主治医の診断書を取得しておく
認知症の場合は主治医の診断書を取得しておきましょう。
遺言者本人が認知症や認知症が疑われる場合は、主治医の診断書を取得するなどして、公正証書遺言を作成した時点での遺言能力に問題ないかを証明する証拠を準備しましょう。
相続開始後、遺言能力の有無を巡って争いがおきた場合に、家庭裁判所は遺言者の年齢や病状、遺言の内容、主治医の診断などの様々な事情を考慮して遺言能力の有無を判断します。
その際に主治医の診断書が特に重要視されます。
ただし、主治医の診断書さえあれば必ず遺言能力が認められるというものでもありません。
あくまでも個々の状況に応じた判断が下されるので、認知症の方の遺言を作成される場合には、相続にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。
3-3.遺留分に配慮した内容にする
遺言書の内容を遺留分に配慮した内容にしましょう。
遺留分を侵害した内容であっても、公正証書遺言を作成することはできます。
しかし、後々、遺留分侵害額請求や家庭裁判所における調停・訴訟など、相続人同士が争う火種となります。
遺留分についてよく理解した上で、公正証書遺言を作成しましょう。
■遺留分については、こちらの記事に詳しく掲載されています。
遺言書に「他人に財産を遺す」と記載があっても、遺留分はもらえる?
3-4.証人の欠格事由を確認する
公正証書遺言の証人の欠格事由を確認しましょう。
欠格事由に該当している人が証人となっている場合、その公正証書遺言は無効になります。
ご自身で証人を手配する場合は、民法974条に記載されている証人の欠格事由を今一度確認しましょう。
- 未成年者
- 推定相続人及び受贈者並びにこれらの者の配偶者と直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
また、欠格事由について少しでも疑問がある場合は、弁護士に相談した上で、証人を決めることをおすすめします。
なお、弁護士に公正証書遺言の作成サポートを依頼した場合は、証人の手配も弁護士が行ってくれることが多いです。
3-5.作成する前に、家族に自分の意思を伝えておく
公正証書遺言を作成する前に、家族に自分の意思を伝えておきましょう。
遺言は遺言者が単独で作成することができます。
推定相続人などに了承を得る必要は法律上ありません。
しかし、将来のもめごとを回避するためには、ご自身が遺そうと思っている遺言の内容について、あらかじめ家族に伝えておいた方がよいでしょう。
また、家族が集まった場で遺そうと思っている遺言の内容について直接家族に伝えることで、遺言者の想いが家族に伝わりやすくなります。
3-6.付言事項を活用する
付言事項を活用しましょう。
付言事項とは遺言書の最後に記載できる「追伸」のような文章です。
法的拘束力は持ちませんが、遺言を遺す理由や家族への想いを記すことで、相続人同士の争いの抑止力となることでしょう。
4.まとめ
「公正証書遺言を作成すれば、相続の時に本当にもめないの?」と疑問を持たれている方を対象に、公正証書遺言を「もめるかどうか」という観点から考察してきました。
最後に本記事のポイントを3つ、もう一度紹介します。
残念ながら、公正証書遺言を作成しても、もめるリスクをゼロにすることはできません。
しかし、公正証書遺言は最もトラブルになる可能性が低い遺言の形式であることは確かです。
公正証書遺言を作成する際は、本記事に記載している「もめにくい公正証書遺言を作成する6つのコツ」を押さえた上で作成してください。それがもめにくい遺言書を作成する一番の近道と言えるでしょう。