事実婚のパートナーに相続権はある?事実婚カップルがとるべき生前対策

事実婚のパートナーに相続権はあるのだろうか?
もし相続権がないとしたら、どのようにパートナーに資産を遺せばよいのだろう?

本記事をご覧のみなさんは、このようなお悩みを抱えていらっしゃることと思います。

事実婚とは、法律上の婚姻手続きを行わず、同じ戸籍に入らない状態で夫婦と同等の関係を持った状態のことです。

法律上で事実婚について明確な規定があるわけではありませんが、主に以下の3つの要件を満たした場合、事実婚として認められることが多いようです。

  • 婚姻の意思があること
  • 同居していて住民票が同一であること
  • 生計が同一であること

現行法では、事実婚のパートナーは多くの場面において法律上の配偶者に準ずる存在として扱われます。
しかし、相続の場面においては、法律上の配偶者の扱いとは大きな差があるため注意が必要です。

本記事では、事実婚のパートナーに資産を遺したい人を対象に、事実婚と相続の関係について網羅的に解説しています。

本記事が事実婚カップルのみなさんの、相続対策を行う上での一助となれば幸いです。


1.事実婚のパートナーには、原則「遺産を相続する権利はない」

事実婚のパートナーには、原則、遺産を相続する権利はありません

遺産を相続する権利を得るためには、民法で定められた法定相続人である必要があります。
しかし、法定相続人になることができるのは、法律上のパートナーである配偶者と、子供・直系尊属・兄弟姉妹のみです。

また、国税庁の「相続人の範囲と法定相続分」というページには、「内縁関係の人は、相続人に含まれません。」と明記されています。

残念ながら、事実婚のパートナーは法定相続人ではないので、原則、遺産を相続する権利がないのです。

■法定相続人についての詳細はこちら
 法定相続人とは誰なのか?迷いやすい10の事例つき

■国税庁の「相続人の範囲と法定相続分」のページはこちら
 タックスアンサー No.4132 相続人の範囲と法定相続分

1-1.事実婚カップルの間に生まれた子供は、父親が認知していた場合、遺産を相続する権利がある

事実婚カップルの間に生まれた子供は、父親が認知にしていた場合、遺産を相続する権利があります

事実婚カップルに子供が生まれた場合、母親を筆頭者とする新しい戸籍を作り、子供はその戸籍に入ります。この段階では、父親の欄は空欄となり、法律上では、父親との親子関係はありません。
父親が「認知」を行うことで、子供は法律的に父親と親子関係を結ぶことができます。

つまり、認知されていれば、法定相続人になることができ、遺産を相続する権利があります。
一方で認知されていなければ、法定相続人ではないため、遺産を相続する権利はありません。


2.事実婚のパートナーに財産を渡す5つの方法

事実婚のパートナーに財産を渡す方法を5つ紹介します。

1章で説明した通り、事実婚のパートナーには原則、遺産を相続する権利はありません。
2章では事実婚のパートナーに財産を渡したいと思った場合、どのような方法を取ればよいのか紹介します。

2-1.生前贈与を行う

生前贈与を行うことで、事実婚のパートナーに財産を渡すことができます。

生前贈与は贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産をもらう人)の関係に関わらず行うことが可能です。
また、年間110万円までの贈与であれば贈与税の申告をする必要もありませんし、贈与税を支払うこともありません。

2-2.遺言書を遺す

遺言書を遺すことで、事実婚のパートナーに財産を渡すことができます。

遺言書には法定相続分よりも強い効力があるため、遺言書に「事実婚のパートナーに遺産を遺す」という旨を記載し、その遺言が有効であれば、相続発生時にパートナーに遺産を渡すことができます。

なお、遺言書であっても法定相続人の遺留分を侵害することができません。法定相続人である子供や直系尊属(親・祖父母)などがいる場合は、遺留分を侵害しないよう、遺言書を作成する段階で配慮することをおすすめします。

■遺言書の効力の強さについての詳細はこちら
 遺言書の効力が及ぶ8つのこと・及ばない4つのこと

■遺言書が有効か無効かをチェツクする方法はこちら
 遺言書が有効か無効か判定できる14のチェック項目

■遺言書と遺留分の関係についての詳細はこちら
 遺言があっても遺留分は貰える?ケース別まとめ

2-3.生命保険の受取人にする

生命保険の受取人にすることで、事実婚のパートナーに財産を渡すことができます。

一般的に生命保険の受取人にすることができるのは、配偶者または2親等以内の親族(兄弟姉妹・祖父母・孫)です。

しかし、以下の3つの条件がそろえば、生命保険会社によっては事実婚のパートナーを受取人に指定できます。

  • お互いに戸籍上の配偶者がいない
  • 生命保険会社所定の期間、同居人であること
  • 生命保険会社所定の期間、生計を一にしていること

ただし、事実婚のパートナーが受け取った死亡保険金には、相続税における生命保険の非課税枠を適用することはできないため、全額相続税の課税対象となる点には注意が必要です。

■相続税における生命保険の非課税枠の詳細はこちら
 受取人、選んで非課税 生命保険

■事実婚のパートナーを受取人にすることができる生命保険会社の例
 ライフネット生命

2-4.特別縁故者の手続きをする

特別縁故者の手続きをすることで、事実婚のパートナーに財産を渡すことができます。

特別縁故者とは、被相続人(亡くなった人)に法定相続人がいない場合に、特別に被相続人の財産を取得できる人のことです。
この特別縁故者は民法で規定されています。

特別縁故者になるためには、条件があり、家庭裁判所に「特別縁故者の申し立て」を行い、家庭裁判所が相当と認めた場合に限られます。

事実婚のパートナーはこの条件を満たす可能性が高いので、特別縁故者になれる可能性が十分にあります。

ただし、受け取とれる遺産額は裁判所が決定した金額のみです。
遺産の全額を受けれるわけではないので注意が必要です。

また、特別縁故者になる手続きをご自身で行うことは困難なため、パートナーを特別縁故者とすることを検討してる方は、一度弁護士に相談するようにしましょう。

■特別縁故者についての詳細はこちら
 相続人がいない人が知っておきたい「特別縁故者制度」

■特別縁故者へのご相談はTH弁護士法人/TH総合法律事務所へお気軽にご相談ください。
 TH弁護士法人/TH総合法律事務所

2-5.婚姻して配偶者になる

婚姻して配偶者になることで、事実婚のパートナーに財産を渡すことができます。

籍を入れていない事実婚という状態は、相続という面からみると様々なハードルがあります。
このハードルは婚姻して配偶者となってしまえば、全て解決するものばかりです。

事実婚を選択された方は、何かお考えがあり事実婚を選択していらっしゃることでしょう。
その方々に婚姻を進めるのは心苦しいですが、パートナーに遺産を遺す一つの有益な方法であるためご紹介させていただきます。


3.事実婚のパートナーに財産を渡す前に知るべき5つの注意点

事実婚のパートナーに財産を渡す前に知るべき5つの注意点を紹介します。

3-1.相続税が2割加算される

事実婚のパートナーが遺言書による遺贈などで遺産を受け取った際は、相続税は2割加算されます。

なぜなら、相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、配偶者・子供・親以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されるからです。

何度もお伝えしている通り、事実婚のパートナーは配偶者ではありません。
そのため相続税の2割加算の対象となり、通常の相続税よりも高い税額を納める必要があります。

■配偶者控除の詳細はこちら
 国税庁HP タックスアンサー No.4157 相続税額の2割加算

3-2.配偶者控除は適用されない

事実婚のパートナーが遺産を受け取った際、配偶者控除は適用されません

配偶者控除とは戸籍上の配偶者が遺産を相続する場合、相続税の「配偶者の税額軽減」の特例により、1億6,000万円または法定相続分相当額のうち、どちらか多いほうまでは相続税の課税対象としないという制度です。

何度もお伝えしている通り、事実婚のパートナーは配偶者ではありません。
そのため配偶者控除は適用されず、配偶者である場合よりも高い税額を納める可能性があります

■配偶者控除の詳細はこちら
 国税庁HP タックスアンサー No.4158 配偶者の税額の軽減

3-3.障害者の税額控除は適用されない

事実婚のパートナーが遺産を受け取った際、パートナーが障害者であったとしても、障害者の税額控除は適用されません

障害者の税額控除とは、相続人が障害者と認められている場合、85歳に到達するまでの年数1年あたり10万円(特別障害者は20万円)が相続税から控除される制度のことです。

残念ながら事実婚のパートナーは1章で説明した通り、相続人ではないため、障害者であったとしても障害者控除を適用することはできません。

3-4.小規模宅地等の特例が適用されない

事実婚のパートナーが相続の時に小規模宅地等の特例を適用できる要件のそろった土地を受取ったとしても、小規模宅地等の特例は適用されません

小規模宅地等の特例とは、被相続人と共同生活を送っていた土地や、事業用に使っていた土地を相続した場合、特例として一定の面積までの評価額を50・80%まで減額できるという制度です。

小規模宅地等の特例の適用が認められているのは、法定相続人のみです。
そのため、事実婚のパートナーは相続の時に小規模宅地等の特例を適用できる要件のそろった土地を受取ったとしても、小規模宅地等の特例を適用することはできません。納める相続税額も配偶者である場合より高くなるでしょう。

■小規模宅地等の特例に関する詳細はこちら
 家を相続したら相続税額が安くなる?~「小規模宅地等の特例」基礎編

3-5.寄与分・特別寄与料が認められない

事実婚のパートナーは、寄与分・特別寄与料を認めてもらうことはできません

寄与分とは、相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらえる制度です。

具体的には、相続人の中で、被相続人の家業を無給で手伝ってきた人や、介護をしてきた人などですが、対象となるのは相続人のみです。
事実婚のパートナーは1章で説明した通り相続人ではないので、寄与分を認めてもらうことはできません。

また「特別寄与料」は、寄与分の対象範囲を「被相続人の相続人ではない親族」にまで広げた制度です。被相続人の家業の手伝いや介護をしてきた「被相続人の子の配偶者」が例としてあげられます。

しかし事実婚のパートナーは、「被相続人の相続人ではない親族」にも当てはまらないため、特別寄与料も認められません。


4.まとめ

事実婚のパートナーに相続権はあるのだろうか?
もし相続権がないとしたら、どのようにパートナーに資産を遺せばよいのだろう?

と疑問に思われている方を対象に、事実婚と相続の関係についてに解説してきました。

本記事の大切なポイントを3点、最後にもう一度紹介します。

  • 事実婚のパートナーは法定相続人ではないため、原則「遺産を相続する権利はない」
  • 事実婚のパートナーに財産を渡す5つの方法
    【方法1】生前贈与を行う
    【方法2】遺言書を遺す
    【方法3】生命保険の受取人にする
    【方法4】特別縁故者の手続きをする
    【方法5】婚姻して配偶者になる
  • 事実婚のパートナーに財産を渡す前に知るべき5つの注意点
    【注意点1】相続税が2割加算される
    【注意点2】配偶者控除は適用されない
    【注意点3】障害者の税額軽減は適用されない
    【注意点4】小規模宅地等の特例が適用されない
    【注意点5】寄与分・特別寄与料が認められない

本記事が事実婚カップルのみなさんの、相続対策を行う上での一助となれば幸いです。

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