相続時精算課税制度とは?2024年1月以降の改正内容も含めて解説

最近よく耳にする、相続時精算課税制度ってどんな制度なんだろう…?
私が生前贈与を受ける場合、相続時精算課税制度を選択した方がお得なのだろうか?

この記事をご覧になった方は、このような疑問をかかえているのではないでしょうか。

相続時精算課税制度は、2024年1月以降、大幅に改正され、大変注目を集めている贈与制度です。

本記事は相続専門税理士監修のもと、相続時精算課税制度について解説しています。

相続時精算課税制度は「必ず選択した方がお得!」というものではありません。
選択することを検討している人は、申請を行う前に相続専門税理士に相談し、「ご自身の場合、相続時精算課税制度を選択した方が、納める税金を抑えられる可能性が高いのか」試算してもらうことがおすすめです。

本記事を相続専門税理士に相談に行く前に読んでいただき、相続時精算課税制度を検討する第一歩としていただければ幸いです。

【この記事を読むと分かること】

  • 相続時精算課税制度の全体像の理解
  • ご自身が相続時精算課税制度を選択「できるのかどうか」
  • ご自身が相続時精算課税制度の「選択を検討すべきかどうか」

目次


1.相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、贈与税の制度の1つです。

贈与税の制度には、相続時精算課税制度暦年課税制度の2種類があります。

1-1でご説明いたしますように、相続時精算課税制度は令和6年1月1日以後の贈与について、年間110万円の基礎控除額の創設など、大きな見直しがありました。 以下は、改正後の内容です。

  • 相続時精算課税制度:基礎控除額110万円を超えた贈与は、累計2500万円まで贈与税は課税されない。ただし、基礎控除額を控除した残額は、制度の名前の通り相続時に相続財産に加算(精算)され、相続税が課税される。
  • 暦年課税制度:基礎控除額110万円を超えた贈与は、その年ごとに贈与税が課税される。
暦年課税制度相続時精算課税制度
財産を渡す人誰でも可60歳以上の父母又は祖父母
財産をもらう人誰でも可18歳以上の子や孫(養子を含む)
贈与税が非課税となる金額基礎控除額 年間110万円基礎控除額 年間110万円
特別控除額(累計2,500万円ただし基礎控除額を控除した残額は、相続時に相続財産に加算され、相続税が課税)
贈与税の税率超過累進税率(10%~55%)基礎控除額及び特別控除額を超えた部分に対して一律20%

■暦年贈与に関する国税庁のHPはこちら
贈与税の計算と税率(暦年課税)

1-1.相続時精算課税制度は2024年1月以降、大幅に改正された

相続時精算課税制度は2024年1月以降の贈与分から、大幅に改正されました。

主な改正ポイントは以下の2つです。

  • 相続時精算課税に係る年間110万円の基礎控除の創設(暦年課税の基礎控除とは別)
  • 相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例の創設

主な改正前後の制度の違いは以下の通りです。

改正前改正後
基礎控除なし年間110万円
複数の贈与者から贈与を受けた場合はそれぞれの贈与額で按分
相続税の課税価格に加算する財産の価額贈与額基礎控除額を超える部分の贈与額
相続時の財産の評価贈与時の価額特定贈与者の相続税の申告書の提出期限までに、土地又は建物が災害により一定の被害を受けた場合は、当該土地又は建物の価額については、贈与時の価額から災害により被害を受けた部分に相当する額を控除した残りの額。
なお、被害を受けた部分に相当する額は、保険金などにより補填される金額を差し引いたあとの金額となります。

■2024年1月の改正に関する国税庁HPはこちら
令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし


2.相続時精算課税制度を理解するためにおさえておきたい6つの特徴

相続時精算課税制度を理解するためにおさえておきたい6つの特徴を説明します。
この6つの特徴をおさえていただければ、相続時精算課税制度の全体像を理解することができます。

2-1.【特徴1】累計2,500万円の特別控除がある

相続時精算課税制度には累計2,500万円の特別控除があります。

年間110万円を超える贈与を行った場合は、累計2,500万円の特別控除までの贈与財産については贈与税がかかりません。ただし、贈与者が亡くなった時に、相続財産に加算して、相続税を計算します。

また、贈与額が累計2,500万円を超えた場合は、一律20%の贈与税がその年ごとにかかります。

​■贈与税の詳しい税率はこちら
国税庁HP 贈与税の計算と税率

2-2.【特徴2】年間110万円の基礎控除がある

相続時精算課税制度には受贈者ごとに年間110万円の基礎控除があります。
受贈者(贈与される人)1人あたりに対して年間110万円の贈与財産については贈与税がかかりません。

また、暦年課税の贈与制度とは異なり、相続開始前7年以内(改正前は3年以内)に贈与された財産があったとしても、基礎控除110万円以下であれば、相続財産に加算する必要はありません
暦年課税の贈与制度を選択した場合は、相続開始前7年間に受けた贈与財産は、たとえ基礎控除110万円以下であったとしても、相続財産に加算する必要があるため、ここが両制度の大きな違いとなります。

なお、この基礎控除は令和5年度税制改正大綱によって新設されたので、令和6年1月1日以降に行われる贈与から適用になります。

暦年課税の贈与制度の相続財産への加算対象期間と100万円の控除など、詳細についてはこちらをご覧ください。

令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし 

2-3.【特徴3】相続時精算課税制度を選択できる人は限られている

相続時精算課税制度を選択できる人は限られています。

相続時精算課税制度を選択することができる人は、以下の贈与者(贈与する人)・受贈者(贈与される人)に該当する場合のみです。

贈与者(贈与する人)60歳以上の父母又は祖父母
受贈者(贈与される人)18歳以上の子や孫(養子を含む)
(正確には「贈与者の直系卑属である推定相続人または孫」ですので、 養子縁組をしていない義父母からの贈与は対象外となります)

成人年齢の変更の関係で、2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合、受贈者は20歳以上となります。

相続時精算課税制度はすべての人が選択できる制度ではありませんのでご注意ください。

2-4.【特徴4】相続時精算課税制度の選択には届出が必要

相続時精算課税制度の選択には届出が必要です。

相続時精算課税制度を選択する場合、最初に贈与を受けた年の翌年3月15日(贈与税の申告書の提出期限)までに相続時精算課税選択届出書などを贈与税の申告書に添付して贈与を受けた人の納税地の税務署へ提出する必要があります。

この届出を行わない限り、相続時精算課税制度を選択することはできません。

■詳細はこちら
国税庁HP No.4304 相続時精算課税を選択する贈与税の申告書に添付する書類

2-5.【特徴5】一度相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度へは戻れない

一度、相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度へ戻ることはできません。

年間110万円までは贈与税も相続税もかからないと安易に考えて相続時精算課税制度を選択してしまうと、もう二度と暦年課税制度に戻ることはできません。

選択する際は慎重に検討する必要があります。

2-6.【特徴6】相続時精算課税制度を利用して贈与した土地は、小規模宅地等の特例を適用することができない

相続時精算課税制度を利用して贈与した土地は、相続発生時に小規模宅地等の特例を適用することはできません。

贈与税がかからなかったとしても、小規模宅地等の特例が使えないことで、かえって相続税が高額になる可能性があります。
小規模宅地等の特例が適用できそうな土地を贈与する場合は、相続時精算課税制度を利用するか慎重に検討する必要があります。


3.相続時精算課税制度を選択するかどうかは、慎重に検討が必要

相続時精算課税制度を選択するかどうかは、慎重に検討する必要があります。

暦年課税と相続時精算課税のどちらを選択するかは、相続開始のタイミング、贈与者と受贈者の属性、贈与財産の価額や種類などを考慮しないと、どちらが納める税金が少なくなるか判断することはできません。
また、一度、相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度へ戻ることはできないので、やり直しがききません。

「暦年課税よりも相続時精算課税を選択した方が絶対にお得!」ということはなく、どちらを選択すれば有利かはケースバイケースです。

相続時精算課税制度を選択することを検討されている方は、「ご自身の場合、暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利なのか」を相続専門税理士に相談し、試算してもらうことををおすすめします。

■相続税に強い税理士の選び方はこちら
相続税に強い税理士を選ぶポイント5選


4.相続時精算課税制度を選択した方が、税金を抑えられる主なケース

相続時精算課税制度を選択した方が税金を抑えられる主なケースを紹介します。

ただし、相続時精算課税制度を選択した方が良いかどうかは、ケースバイケースです。
こちらに記載したケースと自分が類似しているからといって、すぐに相続時精算課税制度を選択するのではなく、相続専門税理士に相談し、シュミレーションしてもらうことをおすすめします。

4-1.資産保有者が高齢のケース

資産保有者が高齢のケースは、相続時精算課税制度を選択した方が税金を抑えられるケースがあります。

なぜなら、暦年課税制度は相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産がある場合は、その取得した財産の贈与時の価額を相続財産に加算します。

しかし、相続時精算課税制度を選択した場合、基礎控除により控除された毎年110万円までの贈与財産は、相続が発生しても、相続財産に加算する必要がないからです。

上記の例の場合、暦年課税制度を選択していた場合、相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産は相続財産に加算されるため、相続開始前3年以内に取得した財産以外から100万円を控除した、600万円が相続財産に加算されます。

相続時精算課税制度を選択していたため、2024年から2031年までの累計700万円の贈与財産は相続財産に加算されません。

このように、資産保有者が高齢かつ基礎控除110万円以内で贈与を検討する場合、相続開始前7年以内の贈与により取得した財産が相続財産に加算されるかどうかの違いから、相続時精算課税制度を選択した方が税金を抑えられるケースがあります。

4-2.将来値上がりしそうな財産(不動産・自社株など)を贈与したいケース

将来値上がりしそうな財産(不動産・自社株など)を贈与したケースは、一般的に相続時精算課税制度を選択した方が税金を抑えられることが多いです。

なぜなら、相続財産に加算される価額は、贈与時の価額だからです。

例えば、再開発が予定されている土地や、今後規模拡大が見込まれている会社の自社株などは、贈与時よりも相続時の方が値上がる可能性が高い財産です。

このような将来値上がりしそうな財産を贈与したいケースは、相続時精算課税制度を選択した方が税金を抑えられるケースがあります。

4-3.複数人から贈与を受けるケース

金額にもよりますが、複数人から贈与を受けるケースでは、一般的に贈与者ごとに相続時精算課税制度と暦年課税を使い分けた(同一人での併用はできません)方が税金を抑えられる場合があります。

たとえば上記のように、父が相続時精算課税制度を選択し、母が暦年課税制度を選択した場合、子供は年間220万円の贈与まで非課税となります。

しかし、父も母も暦年課税制度を選択した場合、暦年課税制度の基礎控除は「贈与を受けた人ごとに1年間に110万円」であるため、子供の年間非課税枠は110万円となってしまいます。

このように複数人から贈与を受けるケースでは、贈与者ごとに相続時精算課税制度と暦年課税を使い分けた(同一人での併用はできません)方が税金を抑えられるケースがあります。

なお、複数人(たとえば2人)からの贈与について、2人ともについて相続時精算課税制度を選択した場合には、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で110万円の基礎控除額を按分することになります。


5.相続時精算課税制度を選択するための手続き方法

相続時精算課税制度の選択には届出が必要です。

相続時精算課税制度を選択する場合、最初に贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日(贈与税の申告書の提出期限)までの間に、以下の書類を提出する必要があります。
提出先は贈与を受けた人の納税地を管轄する税務署です。

なお、贈与者が贈与した年の途中で亡くなった場合は、相続時精算課税選択届出書の提出期限および提出先は通常と異なりますので、該当する場合は下記3つめのリンクをご参照ください。 

  • 相続時精算課税選択届出書
  • 贈与税の申告書(基礎控除額110万円を超える贈与の場合のみ)

この届出を行わない限り、相続時精算課税制度を選択することはできません。
自動的に暦年贈与を選択したことになります。

また、相続時精算課税制度を選択した年以降であっても、基礎控除額110万円を超える贈与があった年は、贈与税の申告書を翌年3月15日までに提出する必要があります。
忘れずに提出するようにしましょう。

■相続時精算課税選択届出書のフォーマットはこちら(国税庁HPより引用)
相続時精算課税選択届出書
■贈与税の申告書のフォーマットはこちら(国税庁HPより引用)
令和5年分贈与税の申告書等の様式一覧

贈与者が贈与した年の中途に死亡した場合の相続時精算課税の選択(国税庁HPより引用) 


6.よくあるQ&A

相続時精算課税制度に関するよくあるQ&Aを紹介します。

6-1.相続時精算課税制度の選択の届出を忘れた場合、どうなるのか

暦年課税制度の贈与とみなされます。

相続時精算課税制度は最初に贈与を受けた年の翌年3月15日までに税務署へ一定の書類を提出しないと選択することができません。

なお、最初に贈与を受けた年の贈与が110万円以下で贈与税の申告が不要な場合でも、期限までに相続時精算課税選択届出書など一定の書類の提出は必要になるのでご注意ください。

6-2.相続時精算課税制度を選択しても、相続放棄はできるのか

相続時精算課税制度を選択しても、相続放棄をすることはできます。
しかし、既に受け取った贈与財産に対する相続税は徴収されるので、贈与を受けた分の相続税を逃れることはできません。

6-3.受贈者が、贈与者よりも先に死亡した場合どうなるのか

受贈者の死亡以降、さらに贈与者より贈与してもらうことはもちろんできません。
贈与者の亡くなった時の精算手続きは、受贈者の権利・義務を引き継いだ「受贈者の相続人」が行います。

■詳細はこちらをご覧ください
相続時精算課税における相続税の納付義務の承継等


7.相続時精算課税制度の選択を検討している方は、相続専門税理士に相談しよう

相続時精算課税制度を検討している方は、相続専門税理士に相談するようにしましょう。

暦年課税よりも相続時精算課税を選択した方が絶対にお得!ということはなく、どちらを選択するかは慎重に検討する必要があります。

暦年課税と相続時精算課税のどちらを選択するかは、相続開始のタイミング、贈与者と受贈者の属性、贈与財産の価額や種類を考慮した上で検討する必要があります。

また、5章で説明した相続時精算課税選択届出書、贈与税の申告書は複雑であり、ご自身で記載するとミスが生じる可能性があります。

そのため、相続時精算課税選択届出書を提出する前に、この制度を選択するタイミングや将来の相続のことも考えて本当に選択したほうが良いのかどうか、相続専門税理士に相談し、手続きも相続専門税理士と一緒に行うことをおすすめします。

■相続税に強い税理士の選び方はこちら
 相続税に強い税理士を選ぶポイント5選


8.まとめ

相続時精算課税制度の全体像を理解いただけましたでしょうか。

また、ご自身が相続時精算課税制度を選択「できるのかどうか」、相続時精算課税制度の「選択を検討すべきかどうか」判断することはできましたでしょうか。

本記事をご覧になった結果、「相続時精算課税制度の選択を検討しよう!」と思われた方は、相続専門税理士に相談してください。

本記事が相続時精算課税制度を検討する第一歩になれば幸いです。

辻・本郷 税理士法人の相続税申告サービス
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