大切なご家族・ご親族がお亡くなりになると、遺族は葬儀やご法要、各種名義変更の手続等であわただしい日々を過ごすことになります。
そんななかで、相続税についての相談のタイミングを逃してしまった、いつ相談すれば良いのかわからなかった、そのようなお声をいただくことが度々あります。
今回は、相続税の相談時期について事例をまじえてご案内します。
専門家への早めの相談がカギ
これまでのコラムでとり上げてきたように、相続税は一定の財産規模に応じて課せられる税金です。
まずはお亡くなりになった方の財産が、相続税の申告が必要な一定の財産規模にあたるのか、それともそれを下回り申告自体が不要なのかを見極める必要があります。
どのような財産が「相続財産」にあたるのか、土地や建物といった不動産はどのように金額(評価額)を決めて計算するのか、相続の仕方をまとめた「遺産分割協議書」はどうやって作るのか…など、相続は調べたり検討したりする事項が多く、専門的でもあります。ご自身だけで考えて実行するには、残念ながら限界があるかと思います。
専門家へ聞けば短時間で確認できたことを、お一人で何カ月も悩まれていた…。
そのようなお話も、実際に耳にします。
相続が発生し、疑問を感じた時はお一人で悩まず、まずは税理士事務所へご相談されることをおすすめします。申告の要否や遺産分割、申告、納税までのひととおりの流れを聞いてみましょう。
そのうえで、争族となったときは弁護士を、不動産の登記をするときは司法書士を紹介してもらうとよいでしょう。
相談のタイミングを逃してしまったAさんの事例
事例を1つ紹介いたします。
地方都市に住むAさんは、昨年お父様を亡くされました。
お母様はすでに他界されており、Aさんのご兄弟は「相続は地元にいる兄さんに全部任せる。財産は何もいらないよ。」と言ってくれ、Aさんの単独相続で円満に進みそうです。
一方で、お父様の遺品整理を進めていくと、想像していたより多くの預貯金や不動産をお持ちだったことが分かりました。
「資産がある人は相続税がかかるって聞いたことがあるなぁ。ウチはどうなのだろう?」
そう思ったAさんでしたが、お仕事や各種手続に追われ、相続税に関する相談はできないまま時間が過ぎました。
お父様のご逝去から半年以上が経ったある日、地元の税務署からAさん宛てに郵便が届きました。
開封すると「相続税についてのお尋ね」という文書が入っており、どうやら返信が必要なようです。
書き方も分からないので、Aさんは近くの税理士事務所へ相談に行きました。
10カ月の壁
相談に対応してくれた税理士事務所のスタッフによると、遺された財産規模ではどうやら相続税の申告が必要だと判明しました。しかも、あと2カ月以内に申告しなければならないとのこと。
申告期限が相続開始から10カ月以内であることを、相続の当事者になって知りました。
それでもAさんは「専門の人に頼めば、1カ月くらいで申告できるだろう」と楽観していましたが、現実はそんなに甘くなかったようです。
不動産、とくに土地の評価は時間がかかり、筆数(登記簿上、土地は1筆、2筆と数えます)が多い場合、通常でも数カ月はかかるとの説明を受けたAさん。
遺産分割協議も済んでいなかったことから、財産の評価、申告準備と並行して遺産分割協議も進めることとなりました。
評価に時間のかかる財産
さらに厳しい現実が、Aさんに突き付けられます。
お父様が所有されていた土地の中に市の土地区画整理事業対象地があり、現在も工事中だったのです。
区画整理中の土地は公表されている路線価や倍率表では評価できず、個別に税務署へ申出し、個別の評価額を出してもらい、それを基に財産の評価・相続税の申告書を作成することになります。
税務署への申出から評価額の伝達まで、短くても1~2週間、長い場合だと2カ月以上かかることもあると説明を受けました。
その土地が区画整理の対象になっていることはうっすら知っていたものの、まさか相続税申告にも関係するとは思っていなかったAさん。
大あわてで税務署への申出の準備をしますが、必要な書類が実家に見当たらなかったり、役場からの取り寄せにも時間がかかったりしたため、結局、個別評価の申出書を提出できたのは申告期限の約3週間前でした。
申告期限までに評価額の回答が来るかどうか、微妙な状況です。
期限内に申告はできたけど……
幸い、ご兄弟の協力もあり、並行して進めた遺産分割協議のほうは円満に成立しました。
しかし、区画整理対象地の評価額回答結果はまだ届きません。これ以外の財産の評価額は、依頼した税理士事務所で何とか計算し、申告準備もしてもらいました。
書類が揃わないことにあせるAさんではありますが、ご自身でどうにかなる問題でもありません。
頭を抱えたAさんは、税理士の先生と相談しました。期限後申告では使えなくなる特例等を考慮して、区画整理対象地は近くの公示地価で仮評価し、一旦期限内に申告することに決めました。
税務署から回答結果が来たら、改めて計算しなおし、修正申告(または「更正の請求」)を行うことになりました。
税理士の先生からも、税理士事務所のスタッフからも「早く相談してくれれば、1回の申告で済んだのに」と言われてしまいました。
相続税だけでなく、2回分の申告費用のこともあり、力を落とすAさんでした。
早めの相談が安心と余裕につながる
いかがでしたでしょうか?
Aさんの事例は決して他人事ではありません。
「(ご家族が)亡くなったばかりだから……」「ウチはそんなに財産はないから……」
と、心配や疑問を先送りしてしまうと、Aさんのような痛いしっぺ返しを受けることもあります。
また、申告期限などを急に知らされると、普段の生活にも余裕を失われる方が多いようです。
他のご家族への遠慮があったり、気が進まないこともあるかと思いますが、故人が遺された貴重な財産を大切に守っていく意味でも、早めの行動をおすすめします。
相続のことなら辻????・本郷 相続センターへ、どうぞお気軽にご相談ください。