ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、2018年7月改正となった相続法が、2019年7月1日から2020年7月10日にわたって施行されました。
この改正は「高齢化の進展など社会環境の変化に対応するため」といわれています。残された配偶者や、ご長寿の家族を介護した人等に手厚く、遺言を書いたものの保管場所を忘れてしまいそうな方への対応等も盛り込まれました。
主な改正ポイントは8つです。順次見ていきましょう。
目次
配偶者保護を目的とした改正
(2020年4月1日施行)
「遺産分割のために、自宅を売却して引っ越さなければならない」という問題を解決するのが「配偶者居住権」です。
改正前は、居住していた不動産以外に財産を所有していないケースで、同居の配偶者がいたとしても(遺産分割の対象となり)、他の相続人から遺産分けを要求され、自宅を売却しなければならないといったことがありました。
改正により「所有権」と「居住権」に区分されました。
- 配偶者短期居住権
被相続人が所有していた不動産に配偶者が居住していた場合、「遺産分割が確定した日」「相続開始から6カ月を経過する日」のいずれか遅い日まで、配偶者は当該不動産に無償で居住することができます。
※配偶者短期居住権は、遺産分割において考慮されず特別受益の額にも算入されません(望めば必ずできます)。 - 配偶者居住権(長期居住権)
被相続人が所有していた不動産に配偶者が居住しており、次の①~③のいずれかに該当するときに、その居住用建物を無償で使用および収益をすることができます。原則終身です。
①遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
③被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約(事前に約束した財産を贈与する)があるとき
※配偶者居住権は第三者対抗要件として登記ができます。
遺産分割の財産を構成します。配偶者居住権の評価は、相続税において建物敷地の評価額から負担付所有権の価額を差し引いて算出します(財産性が認められています)。
結婚20年以上の夫婦の場合は、自宅の贈与・遺贈は遺産分割の対象外
(2019年7月1日施行)
改正前は20年以上連れ添った配偶者間での居住用不動産の贈与であっても、特別受益額として財産持ち戻し計算の対象となっていました。
改正により、相続税法上は3年以内贈与財産の加算の対象外となりますので、相続税計算上の影響はありません。
また、配偶者に多くの財産を残せるようになったため、二次相続や前妻の子と後妻の争いがある場合などには注意が必要です。
特別受益とは、一部の相続人が被相続人(亡くなった人)から受け取った特別な利益のことをいいます。例えば、複数の相続人のうち一人だけが遺贈や贈与によって生前から特別受益を受けていた場合、そのことを考慮しないで遺産を分割すると他の相続人と平等でなくなるため、それを是正するためにあります。
故人の預金が引き出せるように
(2019年7月1日施行)
預貯金は遺産分割の対象となるため、口座の名義人が亡くなると凍結され相続人全員の同意がなければ引き出すことができませんでした。
改正後は相続人全員の同意がなくとも、凍結口座から仮払いができるようになりました。その方法は、以下のどちらかになります。
- 家庭裁判所に仮分割の仮処分の申し立て
調停の申し立てが前提であり手間と時間がかかります。 - 金融機関の窓口で直接依頼法定相続分の三分の一または同一の金融機関で150万円までは他の相続人の合意を得ずに払い戻しを行うことができます。
遺産の使い込みによる不公平分割に対処
(2019年7月1日施行)
改正前は遺産分割の対象となるのは、現時点で残っている遺産だけでした。使い込み分は、別途、不当利得返還請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求の民事訴訟を行う必要がありました。
改正後は使い込みをした者以外の共同相続人の合意があれば、裁判所は遺産分割審判において使い込みがなかったものとして審判を行うことになりました(民事訴訟が不要になります)。
遺言よりも登記を優先
(2019年7月1日施行)
相続分の指定や遺産分割方法の指定がされた場合、法定相続分を超える分についても対抗要件なくして第三者に対抗できていました。
改正により遺言があったとしても、法定相続分を超える部分については、対抗要件(登記)がないと第三者には自己の持分を対抗できないことになりました。
相続人の一部が自らの相続登記をして第三者に売却してしまった場合には対抗できませんでしたが、改正後は相続登記される前に差押え等登記を行えば、法定相続分で請求を行うことができるようになりました。
寄与認定:義父母の介護が報われる(特別寄与料)
(2019年7月1日施行)
相続人ではない親族(6親等以内の親族、3親等以内の配偶者等)が被相続人の介護等を行っていた場合、相続人に対して寄与分を請求することができるようになりました。金額としては療養介護の日当 × 日数が目安となります。
請求の要件は次のとおりです。
- 被相続人の親族(相続人、相続の放棄をしたもの、相続人の欠格事由に該当するものおよび廃除されたものを除く)であること
- 1の者が被相続人に対して療養看護その他労務の提供をしたこと
- 2により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと
- 2が無償であること
遺留分の改正:生前贈与は過去10年に限定
(2019年7月1日施行)
改正前は不動産など「物」に関する贈与を、遺留分減殺請求により効力を一部失わせた場合には、遺留分減殺請求者が現物で返還を求められる権利を得ることを原則とする一方、贈与を受けた側が「物」ではなく「金銭」で支払うこと(価額弁償)を選択した場合にのみ、金銭を請求できるものとしていました。
また、遺留分の算定に含める贈与について、相続人以外の第三者に対する贈与は相続開始前1年間に限られ、相続人に対しては「特別受益」に該当するものは無制限に算入されていました。
改正により遺留分減殺(げんさい)請求という名前を改め「遺留分侵害額請求」とされました。「物」自体の返還の権利を原則としていた遺留分減殺請求権を「金銭」での返還を求める権利に変更しました。
また、相続人に対する贈与について、“期間に限定がないこと”が問題視され特別受益に該当するものでも、相続開始10年以内にされた「物」に限定されました。
自筆証書遺言の作成がより手軽に。財産目録がパソコンで作れる
(2019年1月13日施行)
自筆証書遺言は自分の手で全ての内容を書くこと、日付があることおよび署名・押印が必須の要件となっていました。
改正により自筆証書遺言に財産目録を付ける際には、その目録は自署ではなく、パソコンなどで作成したものでも良いとされました。ただし、その目録が本人の意思で作成したことを確認するため、目録には署名・押印が必要であり、複数ページになる場合には全ページに署名・押印が必要となります。
新たに、法務局に自筆証書遺言を預ける制度が始まりました
(2020年7月10日施行)
遺言書を保管することによって、遺言が発見されない、紛失するなどを防ぎ、遺言の保管時に遺言者を確認すること(本人確認)で、本人の意思で遺言を書いたことを確認します。保管時に本人確認をしているため、遺言者死亡後の検認は不要となります。
さらに、預け時に遺言書の形式をチェックしてもらうことができる、第三者に内容を改ざんされるおそれが無くなることもメリットとしてあげられています。
まとめ
配偶者居住権や、配偶者に贈与・遺贈した居住用不動産の遺産分割からの除外等、「配偶者保護」(主旨は夫を亡くした妻)が多く含まれているように感じられます。
だれもが相続に対面します。知らないと相続人以外の特別の寄与を考慮するための方策や遺産分割前の払戻し制度など損をしてしまうこともあります。
「知らなかった」とならないよう、また相続を円満に乗り切るために、改正相続法を正しく理解して上手に活用していきたいものです。