相続には複数人の関係者がかかわり、それぞれの考えが一事に集中するためトラブルになりがちです。
「相続人の数が多く遺産分割協議がまとまりそうにない……」
「疎遠な親戚が亡くなり、面倒なことに巻き込まれそうだ……」
「内縁関係のパートナーや、お世話になった第三者にも遺産をあげたい……」
こんな時、自分の相続分を譲り渡す方法があります。
目次
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、相続人としての自分の持分をほかの人へ譲り渡すことをいいます。
相続分の譲渡の方法に関して、法律上の定めはなく、譲受人(ゆずりうけにん、または、じょうじゅにん)の対象者や、有償・無償は不問です。譲受人は、他の共同相続人と同様に遺産分割協議へ参加し、遺産(プラスの財産と、借金などマイナスの財産も含む)を相続できます。
譲渡人(ゆずりわたしにん、または、じょうとにん)は持分全部を譲り渡した場合、相続権を失い、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。また、持分の一部だけを譲渡することもできます。
譲渡は、譲渡人と譲受人双方の合意により行うことができるため、他の共同相続人の了承や手続きも必要ありません。極論すれば、口頭による合意でも成立しますが、トラブルになる可能性が高いため、現実には「相続分譲渡証明書」を作成したほうが無難でしょう。
相続放棄との違い
相続分の譲渡と似ているようで異なる制度に「相続放棄」があります。どこが違うのでしょうか。
譲渡人が譲受人を自由に選べる
「相続放棄」の場合は相続人でなかったものとして、他の共同相続分に相続分が割り振られます。「相続分の譲渡」では、譲受人を問わないため譲渡人が自由に譲受人を選ぶことができます。他の共同相続人でも、まったくの第三者でもかまいません。
負債の支払い義務はなくならない
「相続放棄」は負債の支払い義務がなくなりますが、「相続分の譲渡」では、マイナスの財産も譲受人に移転することになります。これによる効果は譲渡人と譲受人との間の関係に過ぎず、第三者である債権者に対抗できるものではありませんので、返済には応じる必要があります。
家庭裁判所での申述が不要
「相続分の譲渡」と「相続放棄」は、他の共同相続人の了承が不要という点では同じですが、「相続放棄」の場合、相続開始日から3か月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所にて相続放棄の申述を行う必要があります。
相続分の譲渡のメリット・デメリット
メリット
- 相続の手続きをしなくて済む
- 有償譲渡であれば遺産分割協議を待たずに現金が手に入る
- 相続人が多い場合、遺産を引継ぐ人数を減らすことができる
デメリット
- 第三者に相続分を譲渡することで遺産分割協議がもめる可能性がある
検討する場合に知っておきたい、相続分の譲渡に関する注意点
譲渡の期限
相続分の譲渡は、遺産分割協議成立前に行う必要があります。分割協議成立後は譲渡できません。
特定遺贈は贈与できない
被相続人が遺言を残されていたときは、相続分の譲渡ができない場合があります。
包括遺贈・指定相続分 | 指定された相続分を譲渡できます |
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特定遺贈 | 特定遺贈された財産は相続分ではないので、譲渡はできません |
相続分の取戻しが行われる可能性がある
他の共同相続人以外への譲渡の場合、他の共同相続人は譲渡から1か月以内であれば取り戻し請求ができます。
税金がかかる可能性がある
条件によっては税金がかかる可能性があります。以下の表にまとめました。
譲受人 | 無償/有償 | 譲渡人にかかる税金 | 譲受人にかかる税金 |
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他の 共同相続人 | 無償 | なし | 相続税 |
有償 | 譲渡時に譲受人から受け取った金銭に対し、相続税が課税される | なし 譲受のために支払った金銭を相続財産から差し引くことができる | |
第三者 | 無償 | 一旦相続したとみなされ、相続税がかかる | 贈与税 |
有償 | 相続税 譲渡した相続財産に不動産が含まれ、譲渡益が出る場合には譲渡人に譲渡所得税が課税される | なし |
おわりに
遺産分割協議を行うよりも簡易かつ早期に相続問題を解決する一つの方法として、検討してみてはいかがでしょうか?
今回ご紹介した、相続分の譲渡を含め、相続や相続税申告でお困りのことがありましたら、辻・本郷 相続センターまでお問い合わせください。