※この記事は令和5年度税制改正以前の税制をもとにしています。
令和5年度税制改正以降は別記事『相続時精算課税制度は令和5年度税制改正でどう変わった?』をご覧ください。
「相続時精算課税制度」という贈与の方法をご存じでしょうか?
高額な資産も贈与税がかからず贈与することができますが、注意しなければならない点もあります。
メリットとデメリットを理解して、最適な方法を選択しましょう。
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度とは、贈与税の制度のひとつで、父母または祖父母から18歳以上の子や孫に対し財産を贈与した場合に選択できます。
この制度を利用して贈与した財産と納税額は、贈与した人の相続発生時に精算(加算)されますので、贈与から相続までつながった申告制度です。
この制度の特徴
- 財産の種類や価額、贈与回数は問わない
- 累計で2,500万円までの財産の贈与には課税されないが、必ず贈与税の申告をする必要がある
- 贈与が累計で2,500万円を超えた場合は、一律20%の税率で贈与税が課税される
- 贈与した人に相続が発生した場合、この制度により贈与した財産は相続財産に加算される
一方、納付した贈与税は、相続税から控除される - 年間110万円の控除が受けられる原則的な贈与税の制度(暦年課税)は使えなくなる
適用を受けるための要件を確認しましょう
適用対象となる人
《贈る側》贈与をする年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母
《受ける側》贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の子や孫
なお、成年年齢が18歳に引下げられた令和4年(2022年)の場合は以下のとおりです。
- 3月31日以前の贈与の場合:1月1日時点の年齢が20歳以上
- 4月1日以後の贈与の場合:1月1日時点の年齢が18歳以上
手続き
贈与を受けた子や孫が、翌年3月15日までに次の書類を税務署へ提出します。
- 贈与税申告書
- 相続時精算課税制度選択届出書
- 贈与を受けた人の戸籍謄本または抄本
- 贈与を受けた人の戸籍の附票の写し
- 贈与した人の住民票の写しまたは戸籍の附票の写し
メリットとデメリットを理解しましょう
メリットは?
- 2,500万円まで贈与税の納税なしに贈与できる
原則的な贈与では、年間110万円を超えると贈与税がかかりますが、この制度を選択すれば多額の財産を一度に贈与することができます。 - 価値が上がりそうな財産を贈与しておくと相続税が抑えられる
この制度により贈与した財産は、相続財産に加算する際に「贈与した時の価額」を用います。そのため、値上がりしそうな財産は価値が低いうちに贈与しておくと、結果的に相続税を抑えることになります。原則的には、非上場株式を後継者に贈与するときなどに活用されています。 - 収益物件を贈与すると、将来の納税資金を準備できる
収益物件を相続人に贈与しておくと、収益により財産を増やすことができ、将来の相続税納税資金を準備することができます。同時に、贈与した人の財産の増加を抑える効果も期待できます。
デメリットは?
- 原則的な贈与制度(暦年課税)には戻れない
この制度を利用した後に、「やっぱり前の制度の方が良かったなぁ」と思っても戻る事はできません。すなわち、110万円まで無税で現金を贈与することもできなくなります。 - 将来値下がりする資産の贈与は、相続税の負担を重くする
メリットにも記載しましたが、相続発生時には「贈与した時の価額」を用いるため、相続まで待っていれば価値が下がった財産を、価値が下がる前に贈与してしまうと、後で相続税の負担が重くなってしまいます。 - 精算(加算)するのを忘れるとペナルティがあることも
相続税申告の際に、この制度で贈与した財産を精算(加算)することを忘れてしまい、税務署からの指摘で発覚した結果、延滞税や加算税を納めなければならないケースもあります。そのため、申告書の控えを保存するなどきちんと把握しましょう。
おわりに
このように、メリット、デメリットがあり難しく感じる制度ですが、有効に制度を活用している方は多くいらっしゃいます。
メリットを感じられた方は、贈与税も相続税に強い税理士へのご相談をおすすめします。
もちろん、私たち辻・本郷 相続センターでもご相談を承っております。