以前、相続税コラム「生命保険は相続税対策になるのか?」で、生命保険を上手に活用すれば相続対策になることをお伝えしました。
今回は生命保険金が逆に相続手続きの障害になってしまったケースをご紹介いたします。
今回の相続内容
相続関係
被相続人:妻
相続人:配偶者である夫と、相続開始時17歳の長女
特別代理人:被相続人の叔父
相続人による遺産分割に関するご希望
- 不動産・預貯金・投資信託は夫へ
- 他の生命保険はすべて長女へ
相続人に未成年者が含まれる場合の手続きは?
今回は相続人に未成年者が含まれるため、この場合の手続きを簡単にご案内します。
相続税を申告するために、どの遺産を誰に・どのように分けるかについて遺産分割協議を行います。
さらに、その内容を遺産分割協議書として書面にまとめます。未成年は遺産分割協議に参加できないため、法定代理人である親権者(父母等)が未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります。
ただし、親権者自身が未成年者とともに共同相続人の一人だった場合には、特別代理人を未成年者の住所地にある家庭裁判所に申請し、選任してもらいます。
特別代理人には、利害関係のない方が選任されます。直接の相続人でなければ、祖父母やおじ、おばなどの親族者も利害関係がないとみなされます。
特別代理人を申請する際には「遺産分割協議書案」を提出しますが、協議書の内容が未成年者に不利と判断された場合は、特別代理人の審判が下りず、選任されません。
家庭裁判所からの指摘
叔父を特別代理人として認定してもらうため家庭裁判所へ申請を行ったところ、以下の指摘を受けました。
「遺産分割が法定相続分(今回は夫と長女で1 / 2ずつ)となっていない。相続財産から本来の相続財産とならない生命保険金を除いて法定相続分となるよう遺産分割をするべきではないか」
今回の相続が、長女にとって不利とみなされたのです。
今回の相続の問題点
- 長女の生命保険金受取額がかなり多額で、それを除いた財産での遺産分割が難しい
- 遺産分割協議が確定する前に夫がいくつか預金口座を解約し、預金を動かしていた。
未成年者の権利を侵害する行為とみなされ、裁判官の心証が悪くなってしまったと思われる(後日、払い出した預金で投資信託と長女のために新規で生命保険を契約したことが判明)
特別代理人が選任される確率は半々?上申書を提出
家庭裁判所からの指摘に対して、提携している司法書士事務所の方と、相続人を含めて何度か相談をしました。
その結果、生命保険金を含めた遺産分割を認めてほしいという主旨の上申書を司法書士事務所に作成していただき、申し立てを行うことにしました。
上申書には、なぜこうした遺産分割をするに至ったかの経緯、財産を夫と長女が相続する理由、生命保険金は民法上本来の相続財産とはならないけれども、長女が受け取った生命保険金の金額を鑑みると決して長女に不利となるような遺産分割協議の内容ではないことを記していただきました。
そうしたところ、ようやく特別代理人の審判が下りました。
未成年者がいる場合の遺産分割協議は法定相続分が原則で、それ以外の遺産分割協議だと特別代理人選任の審判が下りないと聞いていましたが、今回は法定相続分以外の遺産分割でも特別代理人選任の審判が下りたケースとなりました。
司法書士事務所の方からは、上申書次第で受理する裁判官もいれば、原則以外認めない裁判官もいること、上申書の内容に不審な点があった場合は家庭裁判所から相続人に対して事情を聞く場合もあることなど、さまざまなパターンを伺いました。
そのため、審判が下りる確率は半々であろうと言われていました。そうしたなかで決定の通知を受けることができ、ホッと胸をなでおろしました。
おわりに
上申書の作成に係る時間や労力を考えると、生命保険金は除いた財産を法定相続分で分割した方がスムーズに手続きが進みます。
今回のケースでは、初回の申立から審判が下りるまで2カ月半近く要しました。
相続を滞りなく行うための準備についてなど、気になることがございましたら、辻????・本郷 相続センターへお気軽にご相談ください。