平成27年(2015年)に相続税の基礎控除が改正されて以来、相続税の申告件数は増加の傾向にあります。
毎年国税庁が発表している相続税課税件数によると、改正以前の平成26年(2014年)相続税課税割合が4.4%だったのに対して、令和2年(2020年)は8.8%と過去最高を更新しています。
今回は相続税申告のなかで、税務署から指摘されるケースがもっとも多い「現金・預貯金」、そのなかでも申告漏れ財産として特に指摘が多いとされる「名義預金」について、気をつけるべきポイントを解説します。
目次
名義預金とは
名義預金とは、ひとことで言うと「名義人と預金者が別」という状況です。
口座の名義人と実質的に預金口座を所有している人物とが異なる預金をさします。
もし自分が亡くなった時に遺された子らが困らないよう、生前のうちに子どもや孫の名義で口座を作り財産を預け入れている、将来に備えて貯蓄をしているといった理由が多いようです。
現在、金融機関では口座開設にあたって本人確認の強化や、口座の開設・利用目的を尋ねるなど、新規口座が「名義預金化」しないように取り組みを進めています。
そういった意味で「名義預金」を目的とした新規の口座開設は、以前より難しくなっています。
しかし、一方で口座開設後の取引、または以前からあった口座の取引すべてを、金融機関がチェックすることは事実上できません。
口座の名義にかかわらず、事実上は預金者の財産と判断され、税務署から相続財産であるとみなされてしまう可能性が高いです。
名義預金としてみなされてしまう3つのケース
次のような方法で管理していると、調査官から指摘を受ける可能性が高まります。
名義人本人が通帳の存在を知らない
そもそも名義預金をする理由の一つに、子どもや孫の金銭管理能力が不十分であるため、親や祖父母の判断で本人に口座を管理させていないケースがあります。
相続税の調査時に、調査官から「名義預金の存在を知っていましたか?」と聞かれることがありますが、これは預貯金の本当の持ち主が誰だったかを確かめるための質問です。
通帳や印鑑を被相続人(故人)が管理していた
名義人本人なのに登録印鑑や通帳の保管場所を知らないために、上記と同様に本当の口座の持ち主が誰なのかを立証できないケースです。これも名義預金とみなされる可能性が高いでしょう。
贈与の記録を残していない
名義人本人の収入による預金でない場合「名義預金の原資は何か」と聞かれる場合があります。「贈与として受け取った」と口頭で説明をしても、税務署が認めてくれる可能性は低いようです。
贈与の場合には、贈与した人と受け取った人双方の意思を確認する必要がありますが、通帳の記帳だけではその意志の確認ができません。
確認できない以上は、贈与ではなく名義預金としてみなされる可能性が高くなります。
名義預金とみなされないために気をつけるべき3つのポイント
名義預金とみなされて思わぬ相続税がかからないよう、生前のうちに対策する事は可能です。
以下に名義預金として認定されないためのポイントをご紹介します。
名義人に預貯金の存在を知ってもらう
真の預金者である親や祖父母にもしもの事があった時点で、名義人が通帳の存在を知らない場合、名義預金として判断される可能性が高くなります。
名義人は預貯金の存在を知っておく必要があります。
名義人に通帳・印鑑等の管理をしてもらう
口座の名義人が子どもや孫である以上、本来は本人が管理する必要があります。
まだ若く金銭管理能力が不十分な場合等は、一時的に預金者が管理することも考えられますが、印鑑・通帳等については生前のうちに子どもや孫に移譲する必要があります。
最近はインターネットバンキングが主流となっていることもあり、紙の通帳を持たずにWeb通帳に切り替えている方もいらっしゃいます。また、印鑑登録なしで口座を開設できる銀行もあります。
こうした場合、インターネットバンキングにログインするためのID・パスワードを管理してもらうことになりますので注意が必要です。
贈与の事実を書面に残しておく
税務調査では、しっかり物的証拠を提出できるかどうかがポイントになります。贈与をしていたということであれば、家族であっても「贈与契約書」を残しておく事が重要です。
また、非課税の贈与ではなく、いくらかの贈与税を支払って申告することも検討されるとよいでしょう。
おわりに
冒頭でもご紹介したとおり、相続税の調査でもっとも税務署から指摘されるポイントの一つが名義預金です。生前のうちに上記の対策をしているかどうかで、相続税の負担が大きく変わってしまう場合があります。
家族・親族間で堅苦しい書類を作成するのは面倒だ、と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、遺された方がトラブルにならないよう、正しく適切な方法で対策することをおすすめいたします。
今回ご説明した名義預金のほかにも、有価証券や生命保険など、名義は親族でありながら、実質的な所有者・払込者が親や祖父母など名義者本人でないと判断された場合は「名義財産」として扱われます。
名義財産は実質的な所有者の財産となり、相続税課税財産となります。
今回のコラムで取り上げた内容等を知ったうえで、意図的に「名義預金」「名義財産」を作成・形成すると、故意に相続財産の仮装・隠ぺいを行ったと判断され、最悪の場合は重加算税を課せられる可能性もあります。
ご本人では名義財産にあたるか否かの判断が難しいケースもありますので、お悩みのことがありましたら、私たち辻????・本郷 相続センターへお気軽にご相談ください。