近年は、国際結婚をして海外にお住まいの方や、海外でお仕事をされている方も多くなってきたのではないでしょうか。
相続人の中に海外在住者がいると、相続人の方が行う手続きが複雑になりますので、この場合の手続きについて触れていきたいと思います。
誰が相続税の申告書の提出・納付手続きをするのか
国内在住の相続人については、相続税の申告書の提出・納付手続きは、相続人がご自身で行うのが通常です。
しかし、海外在住の相続人については、税務署へ届け出た人が海外在住者の代わりに相続税の申告書の提出・納付手続きを行います。
この税務署へ提出する届出書のことを「納税管理人の届出書」といい、海外在住者の代わりに手続きをする人のことを「納税管理人」といいます。
遺産分割協議書の押印は?
遺言書がない場合には、亡くなられた人(被相続人)の遺産について、相続人全員で話し合い、誰がどの財産を取得するのかを決める必要があります。
その取り決めのことを「遺産分割」といい、誰がどの財産を取得したのか、決めたことを記載した書類を「遺産分割協議書」といいます。
この遺産分割協議書には、相続人全員の署名、実印での押印、印鑑証明書が必要となります。
海外在住者について日本に住所がない場合には、印鑑証明書を取得できないため、在外公館(日本大使館・総領事館)に出向き、領事の面前にて遺産分割協議書にサインをする必要があります。
多額の有価証券等を所有している場合の注意点
被相続人の財産の中に、有価証券等※の金額が一定額以上ある場合には、注意が必要となります。
以下の要件を満たす場合には、被相続人が所有している有価証券等を、相続発生日の時価で譲渡したものとみなされ、所得税が課税されてしまいます。
この制度のことを「国外転出(相続)時課税」といいます。
<要件>
- 被相続人が所有している有価証券等※の相続発生時点の価額の合計が1億円以上であること
- 相続開始の日前10年以内において、被相続人が国内に5年を超えて居住していること
- 海外在住者が相続または遺贈により有価証券等を取得すること
※有価証券等:有価証券(株式、投資信託など)、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引・発行日取引および未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)が該当します。
要件に該当すると、相続が発生してから4カ月以内に所得税の申告・納付手続きが必要となります。
ただし、一定の要件に該当する場合には、納税が一定期間猶予されるといった措置もあります。
特に注意が必要なのは、相続発生日から4カ月以内に有価証券等についての取得者が決まっていない場合です。
民法に規定されている割合(法定相続分)に応じて海外在住者が有価証券等を取得したことになり、上記の要件に該当しますので、所得税の申告・納付手続が必要になります。
その後、遺産分割協議が確定し、海外在住者が有価証券等を取得しないことになれば、すでに支払った所得税を取り戻す手続(更正の請求)をすることができます。
生前の対策について
相続人に海外在住者がいる場合には、生前対策が重要になってきます。
あらかじめ、遺言書の作成をしておけば、遺産分割協議が不要となり、サイン証明も不要となります。
また、遺言書で有価証券等の取得者を国内在住者に指定しておけば、国外転出時課税の対象とはなりません。
このように、生前に対策をすることによって、遺された方のご負担も大きく変わってきますので、遺言書の作成などをご検討されてはいかがでしょうか。