これまで他のコラムでも触れてきたとおり、遺言がない場合、相続が発生すると亡くなられた方の法定相続人(配偶者やお子さんなど)が、亡くなられた方のご財産をどのように、どの相続人が相続するかを協議して決めます。これを遺産分割協議といいます。
一般的にはこの遺産分割協議がスムーズに行われないと、円滑な相続税申告が難しくなると言われています。
遺産分割協議を始めようとした矢先に、見たことも聞いたこともない法定相続人の存在が判明し、「じつは腹違いの兄弟がいた」など、ドラマのようなことが現実に起こる可能性もあります。
今回は新たに分かった法定相続人がいる場合の相続と、その対処例についてご紹介いたします。
目次
法定相続人とは?何に注意すれば良い?
遺産分割協議を行うことになる法定相続人とは、お亡くなりになった方の配偶者の方、お子さん、亡くなった方が単身者である場合は両親、兄弟姉妹(またはその子ども)を指します。
この範囲であれば日ごろのお付き合いに濃淡はあるにしろ、当然面識のある方がほとんどです。
そういう事情も手伝ってか、相続人について改めて確認しないという方も多いようです。
ただ、お亡くなりになった方やそのご両親に複数回の婚姻歴などがある場合、次の点に注意が必要です。
- (お亡くなりになった方や、その父母の)離婚した配偶者との間にお子さんはいたか?
- 離婚した配偶者との間にお子さんがいる場合、その連絡先や消息を知っている方はいるか?
万一、離婚した配偶者との間にお子さんがいる場合、その方も法定相続人に含まれます。相続が発生した時点での付き合いの有無に関わらず、その方の協力なしには遺産分割協議が成立できないということになります。
なお、離婚した配偶者自身は、婚姻関係を解消しているので法定相続人にはなりません。
相続事例 ~相続が始まるまで存在も知らなかった法定相続人がいた
少し分かりにくくなってきたので、事例に当てはめながら説明します。ご紹介するのは、ご両親がすでに他界されており、配偶者やお子さんもいらっしゃらない単身者Aさんの相続です。
当初想定の法定相続人:亡くなられたAさんの兄、妹、弟の子(代襲相続人) … 計3名
Aさんご兄弟はもともと仲が良く、先に亡くなられた弟さんの子ども(おい)との関係も良好でした。
単身者のAさんを気遣い、近所に住むお兄さん一家が何かとお世話していることを皆さんご存知だったようです。
Aさんが亡くなられたときも、お兄さん一家が中心となり葬儀等を切り盛りし、妹さんやおいも感謝していました。
こうしたことから、Aさんの財産はお兄さんにすべて相続してもらう、ということで相続人間での話し合いはまとまりました。
司法書士の先生からの思いがけない知らせ
Aさんは自宅に加え賃貸用不動産も所有していたことから、葬儀や法要が一段落したタイミングでお兄さんは近くの司法書士事務所を訪ね、不動産の相続登記について相談しました。
司法書士の先生から遺産分割協議書に必要な戸籍書類等の説明を受け、手元にない戸籍書類については先生に取得していただくことにしました。
また、先生から相続税申告の必要性が高いことについても指摘を受け、相談に乗ってくれる税理士事務所も紹介していただきました。
すべて順調に進んでいると安心していたある日、お兄さんは司法書士の先生から思いがけない連絡を受けます。
ご兄弟やご両親の戸籍を確認していたところ、Aさんご兄弟にはお姉さんがいるというのです。
意味が分からず再度司法書士事務所を訪ね、詳細を説明してもらいました。
お父さんは再婚してAさんご兄弟を授かりましたが、それよりも以前に、先妻との間に女の子が生まれていたとのことでした。
誕生後数年で離婚したため、女の子は母方へ引き取られたという事情のようです。
つまり、Aさんご兄弟にとっては母親違いのお姉さんがいたのです。このお姉さんの戸籍をたどっていくと、現在も生存・健在であることが分かりました。
実際の法定相続人:亡くなられたAさんの兄、妹、弟の子(代襲相続人)、母親が違う姉 … 計4名
母親が違う姉がいることが少なからずショックだったお兄さんでしたが、さらに驚かされる事実が判明します。
この新たに存在が判明したお姉さんも法定相続人に加えた形で遺産分割協議を行わないと、法的には分割協議が成立せず相続の手続が進められないというのです。
同じ父親から生を受けた姉とはいえ、その存在も知らず、当然付き合いもありません。
お兄さんは妹さんなど他の相続人や、親戚にもお姉さんのことを尋ねましたが、知っている・面識があるという方はなく、知っていた可能性のある親類はすでに他界されているとのことでした。
こんな場合、どのように手続きを進めるか
途方に暮れたお兄さんでしたが、司法書士の先生に紹介していただいた弁護士の先生を、妹さんとおいを連れて訪ねました。
相談の結果、お姉さんへの連絡については弁護士の先生が行ってくれることになりました。
また、その姉から返信がない場合は「調停に代わる審判」という裁判所の手続きで、遺産分割調停に代わる審判をしてもらえると説明を受けました。同審判が出れば、Aさんの財産の相続手続も可能になるようです。
まだまだ解決はしていないものの、解決方法が分かったことでお兄さんも安心し、妹さんやおいも引き続き協力してくれると言ってくれました。
専門家への早めの相談が功を奏したようです。
……いかがでしたでしょうか?法定相続人は兄弟姉妹やその子どもだけと安心していたら、思わぬ形で母親が違う姉が登場してきたという事例でした。
まずは戸籍書類を専門家に確認してもらいましょう
相続が発生した際は、手続のためさまざまな戸籍書類を取得します。
その中には簡単に内容が理解できる書類もあれば、専門知識のある方でないと理解しにくい内容・書式の書類もあります。特に戸籍書類は読みにくく複雑だというお声もよくいただきます。
そのような場合は、司法書士や行政書士の先生など専門家へのご相談をお勧めします。早い段階で法定相続人を確認・確定させることが、スムーズな相続手続のポイントになります。特に相続税申告の必要がある方の場合は、相続開始日から10カ月以内という申告期限が定められています。
限られた時間の中での申告準備となりますので、事例のような事実が最初の段階で分かるのと、数カ月経ってから判明するのでは対応も準備も異なります。
判明時期によっては申告期限に間に合わない可能性もありますので、早めに相談されることをおすすめします。
おわりに
相続の手続でご不明な点がありましたら、お気軽に辻・本郷 相続センターへお問い合わせください。
ご相談内容によっては、当センターから司法書士や行政書士の先生をご紹介することも可能です。