夫が亡くなってしまい相続が発生したとき、妻が長年住んできた家に住めなくなってしまうということがありました。
40年ぶりの民法の相続法改正により、「配偶者居住権」が令和2年4月から施行され、配偶者が住んでいた家に住む権利が認められるようになります。
目次
配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)とは
被相続人が死亡した時に、配偶者が住んでいた被相続人(故人)所有の建物(以下「居住建物」といいます)に、終身または一定期間の居住が認められる権利のことです。
配偶者居住権は「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の2つがあり、令和2年4月1日以降に開始する相続等から適用されます。
配偶者短期居住権(民法第1037条)
被相続人の所有の建物に相続開始時に無償で居住しているとき、引き続き最低6カ月間は居住建物に居住することができる権利です。
遺産分割をする場合:遺産分割終了時か死後6カ月経過日のいずれか遅い日
遺贈による居住建物取得者がいる場合:その者による権利消滅の申込の日から6カ月経過日
配偶者居住権(民法第1028条)
配偶者居住権は、たとえ配偶者が自宅の権利を相続しなかったとしても、配偶者が原則として死亡するまで住み慣れた居住建物に居住することができる権利で、下記の4つの方法のいずれかにより取得することができます。
(1)遺産分割により配偶者居住権を取得するものとされたとき
(2)配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
(3)被相続人と配偶者との間に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき
(4)家庭裁判所による審判で配偶者居住権が認められたとき
配偶者居住権の効力
(1)配偶者居住権は原則として配偶者の生存中は存続します。
(2)配偶者は単に建物に住んでいるだけでは、自分の居住権を他人に主張することはできないため、権利の登記をする必要があります。すなわち、居住建物の所有者は、配偶者に対し配偶者居住権登記をさせる義務を負うことになります。
(3)配偶者居住権は居住建物全部に及びます。店舗併用や一部賃貸物件でもそれを含めて建物全体に及びます。ただし被相続人が配偶者以外の者と居住建物を共有していた場合には配偶者居住権は認められません。
(4)家庭裁判所による審判で配偶者居住権が認められたとき
遺産総額6,000万円:相続人2人(配偶者と子)のケース
被相続人の財産が自宅3,000万円、預金3,000万円、合計6,000万円の遺産で相続人が配偶者と子一人の時を想定してみましょう。
たとえば、配偶者が自宅3,000万円を相続して、子は預金3,000万円を相続するとします(法定相続分1/2ずつで分割協議を行った場合)。
配偶者は住まいを確保できますが、配偶者自身の預金がなければ生活資金が確保できず、最悪の場合、自宅を売却せざるを得なくなります。
そこで、配偶者居住権(1,500万円と評価)を配偶者が相続し、所有権を子が相続したとすると配偶者も当座の生活資金として預金1,500万円が確保されます。
【配偶者】配偶者居住権 1,500万円 + 預金 1,500万円 = 3,000万円
【子】所有権 1,500万円 + 預金 1,500万円 = 3,000万円
配偶者が亡くなった場合は、配偶者居住権は消滅します。
配偶者の相続財産は配偶者固有の財産と相続した預金1,500万円の残高との合計額となります。
配偶者居住権の相続税評価(相続税法第23条の2)
配偶者居住権の評価が、相続税法に法律として規定されました。評価額は、建物の耐用年数、経過年数、居住権の存続年数で決まり、借家権や借地権のように自用価額から配偶者居住権の設定された所有権の評価額を控除して算出されます。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合における居住建物の敷地の利用権は土地の上に存する権利に該当することから、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例を受けることや配偶者居住権が設定された建物及びその敷地の所有権は他に充てるべき適当な財産がない場合に限り物納も可能と考えられます。
なお、配偶者短期居住権は、遺産分割終了等とともに消滅するものですから、課税財産にはなりません。
①配偶者居住権が設定された建物所有権の評価方法
※1 耐用年数及び経過年数は、6カ月以上の端数は1年、6カ月未満は切捨て(※2に同じ)
※2 配偶者居住権の存続年数は、遺産分割協議等に定められた存続年数で厚生労働省が発表する配偶者の完全生命表による平均余命年数を上限とする。
②建物の配偶者居住権の評価方法
建物の時価 − 上記①の評価額
③配偶者居住権が設定された建物の敷地所有権の評価方法
土地の時価 × 配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
④建物の敷地に対する配偶者居住権の評価方法
土地の時価 − 上記③の評価額
注意すべきは、遺贈、死因贈与以外の取得原因で配偶者居住権を取得した場合には、相続開始時の評価額と遺産分割時点等での評価額が異なる可能性があるということです。
この場合、相続時の評価額を遺産分割時点での評価額の割合で修正することになります。遺産分割日時で配偶者の年が1歳増えたり経過年数に異動が生じたりするからです。
令和2年4月1日以降に発生した相続の場合は、相続人に配偶者居住権を理解していただく必要があります。