売買や相続などによって不動産の所有者が変わった時には、不動産の名義変更が必要になります。
ただ、親族内で所有者の変更があった場合に、名義の変更をせずに前所有者のままになっているケースがあるようです。
今回は不動産の名義を変えていなかったことにより、相続税課税の可能性が生じてしまった事例をご紹介します。
目次
不動産の所有権があると何ができる?
事例ご紹介の前に、所有権とは何かについて確認しましょう。
物の所有権とは、その物を法令の範囲内で自由に使用、収益、処分できる権利をいいます。この所有権を第三者に対して主張するための手段が、登記手続きです。
また、相続税申告の対象となるのは、原則として亡くなった方が所有権を有していた財産です。
不動産の所有権を移す手続きを忘れるとどうなる? ~Aさんの事例
不動産の所有者変更の際には、法務局で所有権移転登記手続きを行うことになります。
手間と手数料がかかるので面倒に思う方もいらっしゃると思いますが、もし手続きを忘れると、相続の際に面倒なことになってしまいます。今回はAさんの事例をご紹介します。
移転手続きせずにいたら、亡くなった後で相続人が大混乱
Aさんは個人で建築した建物を、自分が代表を務める会社に売却しました。しかし、登記の手数料がもったいないと感じて登記手続きをせずにいました。
登記上の所有者を個人にしたままで数十年が経過し、ついに手続きをしないまま、Aさんは亡くなられました。
その後、相続人の方が相続税の申告の準備をしようとしていたところ、会社に売却したはずの建物がAさん名義のままとなっていることに気づきました。
事情を知らない税務署などの第三者が客観的に見た場合、建物は登記上の所有権者がAさんとなっていますから、この建物はAさんの財産だと認識してしまう可能性が高い、ということになります。
書類のなかから当時の「売買契約書」「議事録」を探すことに
あわてた相続人は、司法書士の先生のもとへ相談に行きました。
先生いわく、
「所有権が会社にあるという実態に合わせるための登記手続をするには、この建物を会社へ売却した当時の売買契約書や、売買することを決議した株主総会もしくは取締役会の議事録が必要になります」
ということでした。
ところが、昔の書類を引っ張り出して懸命に探しましたが、該当するものは見当たりません。
このままではAさんの財産ではないのに、Aさんの相続財産だと指摘されてしまい、自分たちに相続税がかかってきてしまうのか……? と途方に暮れていたところ、最初に探したときは気づかなかった書類の束を見つけました。このなかから、ついに売買契約書が入った封筒が見つかりました。
当時の株主総会の議事録も同封されていたので、急いで司法書士の先生のところへ書類を持っていき、会社名義へ登記を変更することができました。
相続税もAさん本来の財産のみで申告をすることができました。
名義変更は実態に合わせて行いましょう
今回のケースは売買当時の書類が保管されていたため事なきを得ましたが、書類などがない状態で過去のことを証明するのは困難を極めます。
後々のトラブルを防ぐためにも、名義変更は実態に合わせてきちんと行っていくことが求められます。
相続登記の申請が令和6年(2024年4月)から義務化されます
所有者不明の不動産を減少させることを目的に、令和6年(2024年)4月以降相続登記の申請が義務化されることになりました。
正当な理由なく3年以上登記手続きを放置すると、過料(かりょう)の対象となります。
相続が原因にしろ、売買が原因にしろ、今まで以上に所有権の変更登記の必要性は高まっていくと思われます。
おわりに
辻・本郷 相続センターでは、司法書士の先生と提携しております。不動産登記についてご心配がある方はお気軽にご相談ください。