とある地方の一等地にアパートとその敷地を所有しているAさん。その評価額が大きいことに、長年頭を悩ませてきました。
ある日、良い相続対策があると聞き、アパートの建物だけを孫に贈与をしました。
数年後、Aさんが亡くなり相続が発生したとき、アパートの敷地はどのように評価されるのでしょうか。この相続対策は果たしてうまくいくのでしょうか。
目次
貸家(貸アパート)の敷地として利用されている土地の相続税評価は?
Aさんが所有している土地に、Aさん自身がアパートを建てて貸し付けている場合、そのアパートには実際に住んでいる人(借家人)がいます。このため、Aさんは土地の所有者であっても、その土地を自由に利用したり、売買や処分したりすることはできません。
その利用の制限は、相続税評価額に下記の算式により反映されます。この場合の土地の評価方法を貸家建付地(かしやたてつけち)評価といいます。
貸家建付地の評価 = 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地(しゃくち)権割合 × 借家(しゃくや)権割合 × 賃貸割合
- 自用地としての価額とは、土地を他に貸していない場合の更地の価額をいいます。
- 借地権割合は地域によって異なり、国税庁のホームページに載っている路線価図や評価倍率表で確認することができます。
- 借家権割合は令和4年(2022年)9月現在、全国一律30%です。
- 賃貸割合は次の算式により計算した割合になります。
賃貸割合 = 賃貸されている各独立部分の床面積の合計 / 建物すべての各独立部分の床面積の合計
孫に貸アパートを贈与して、相続対策をすることに
ある日、Aさんは知人から「アパートの建物だけを、生前のうちにお孫さんに贈与すると相続対策になりますよ」と勧められました。
くわしく聞いたところ、土地を贈与すると不動産取得税や登録免許税の負担が重くなりますが、アパートの建物のみであれば税金も土地ほど大きな額にはならず、孫の財産になるため、Aさん自身の相続財産は減少し、さらに将来の家賃収入をお孫さんに移すことができるということでした。
Aさんはさっそく贈与契約書を作成し、建物の名義もお孫さんに変えました。贈与税や不動産取得税などの税金はかかりましたが、それでも相続対策になったと満足しました。
それから数年後、Aさんは亡くなり、遺されたご家族は相続を迎えることになりました。
相続発生の時点では、Aさんの土地の上にお孫さんのアパートが建っており、2人の間には地代の授受がない状況でした。この場合の相続税評価はどうなるでしょうか?
無償で貸借している土地の相続税評価は自用地評価になる
Aさんが生前所有していた土地の上に、お孫さんが所有するアパートが建っている場合、アパートに住んでいる人は大家であるお孫さんとの契約により、そこに住んでいます。
借家人の敷地利用権は大家であるお孫さんを通して持つものとなり、Aさんに対して直接保護されるべき土地の利用権を持つわけではありません。
有償で貸借を行う賃貸借に対し、無償で貸借を行うことを使用貸借といいます。
今回の場合、Aさんが、大家であるお孫さんに無償で敷地を貸していたので使用貸借にあたります。
そのため、アパートの敷地には保護されるべき利用権はないものとして考えられます。このことから、原則として自用地評価額で評価されることになります。
先にご紹介した貸家建付地の評価額に比べて、自用地の評価額は高くなります。
一等地の評価額も、贈与から数年を経てさらに高くなっていました。
はたして、Aさんの相続対策のゆくえはどうなるのでしょうか……。
あきらめないで!
贈与の前から住んでいる賃借人がいる場合は、貸家建付地評価が可能
このように相続対策は、対策を実行した後のことをていねいに検討・検証したうえで行う必要があります。今回は対策実行後の地代の授受について検討・検証が不十分だったケースです。
ただ、あきらめてはいけません。このような場合でも、Aさんがお孫さんに贈与をする前からの借家人がいた場合には、その借家人についてはAさんとの間での契約に基づいて敷地の利用権を持っています。
この権利は、建物が贈与されて大家が変わったとしても保護されます。
つまり、Aさんが大家だった頃から住んでいる借家人が利用している部分については、貸家建付地評価ができるということになります。
相続対策は専門家に相談を
現在はインターネットなどで簡単に相続対策の情報を入手できる時代ではありますが、ご自身のケースに適用できるかは個々の状況によります。場合によっては法人税、所得税、消費税のほか、法的な観点など、さまざまな視点から検討、検証、実施する必要があります。
お悩みの際には、相続専門の税理士が所属している辻・本郷 相続センターまで、ぜひご相談ください。