赤字会社でも税務調査の対象に!狙われる会社や回避するコツを解説

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監修者 宇都宮健太

会社経営者や経理担当者の中には、「赤字会社なら法人税が発生しないのだから、税務調査に当たることはないのでは?」と考えている方もいるのではないでしょうか。

赤字の会社でも、税務調査に入られる可能性はあります。

万が一、赤字会社が税務調査の対象になれば、法人税だけでなく、その他の税目の処理でミスが見つかることも少なくありません。

本記事では、税務調査で狙われやすい赤字会社の特徴や、赤字会社がチェックされやすいポイントなどを解説します。

赤字会社に対する税務調査の実情を知り、自社における税務リスクの理解や対処に活かしましょう。


1.赤字会社も税務調査の対象になる

赤字会社の場合も、次のような理由で税務調査の対象になることがあります。

  • 赤字会社でも法人税申告のミスや不正がありうる
  • 黒字・赤字に関わらず調査の対象となるポイントがある

過去に行われた税務調査の実地調査では、対象の約3割が赤字会社であり、そのうち約7割で申告ミスや不正が見つかっています。
さらに、調査対象となった赤字会社のうち、およそ7社に1社は黒字に転換しています。

平成30事務年度 法人税の実地調査の状況
項目件数
実地調査件数約99,000件
うち、無所得申告法人(赤字会社)への実地調査件数約29,000件
非違(誤り)があった件数約21,000件
うち、不正計算があった件数約8,000件
有所得(黒字)転換件数約4,000件

出典:平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要(国税庁)※別表1「法人税の実地調査の状況」及び、別表6「(1)無所得申告法人に対する法人税の実地調査の状況」を一部編集・加工

 

税務調査で申告のミスや不正行為が判明した場合、税金やペナルティを追加で納めなければなりません。
黒字会社に比べれば税務調査に当たる確率は低いものの、赤字会社の場合もリスクに備える必要があります。


2.税務調査で狙われがちな赤字会社の特徴

税務調査のターゲットとして狙われやすい赤字会社には、次のような特徴があります。

  • 多額の経費を計上している
  • 一時的な費用や損失を計上している
  • 売上の計上時期にズレがある
  • 売上が急増している
  • 同業他社の利益水準に比べて赤字が不自然である
  • 会社設立から長期間赤字を続けている
  • 過去の繰越欠損金で利益額を相殺している
  • 欠損金の繰戻しによる法人税の還付を請求している
  • 消費税の還付を受けている

税務署では、わざと赤字を装って税負担を減らそうとする会社や、不正に消費税の還付を受けている会社に対して、重点的に調査を行っています。

それぞれの特徴について、次から順番に見ていきましょう。

2-1.多額の経費を計上している

多額の経費を計上している赤字会社は、税務調査の対象になりやすい傾向があります。

同業他社や事業規模に合わない高額な経費を計上している場合、不正を疑われやすくなるためです。

特に次のようなケースでは、経費計上の適切性をチェックされるリスクが高まります。

  • 役員報酬や賞与が、事業規模や業績、貢献度などに対して高すぎる
  • 役員の個人的支出(旅費など)と経費との区分が曖昧な可能性がある
  • 使途秘匿金が多い

2-2.一時的な費用や損失を計上している

赤字会社が突発的な費用や損失を計上している場合も、税務調査に当たるリスクが高くなります。

多額の費用や損失を一時的に計上することは、しばしば赤字を偽装する手段として利用されることから、内容や金額の妥当性が問われやすい傾向があるのです。

具体的には、次のようなケースで注意が必要です。

  • 多額の貸倒損失を一括で計上している
  • 高額な役員退職金を支給している

2-3.売上の計上時期にズレがある

売上の計上時期にズレがある赤字会社は、税務署に不正を疑われて税務調査に入られるリスクが上がります。

税金を免れる目的で、意図的に売上を先延ばしすることで赤字にしたのではないかと疑われるためです。

特に、次のようなケースでは不正の有無を調査されやすくなります。

  • 決算期前の売上を翌期に先送りしている

  • 契約書上の日付と実際の売上計上時期が食い違っている

2-4.売上が急増している

赤字会社で売上が急増している場合も、税務調査の対象に選ばれる原因になります。

売上が増えているにも関わらず赤字である場合、経費の水増しなどによる赤字偽装が疑われるためです。

特に次のような場合は、売上と経費のバランスなどを細かくチェックされます。

  • 前年よりも売上が大幅に増加しているにも関わらず、赤字である
  • 売上の増加率に対して、売上原価の増加率が大きすぎる

2-5.同業他社の利益水準に比べて赤字が不自然である

同業他社に対して収益性が大幅に低い赤字会社も、税務調査のターゲットになりがちです。

通常、同じ業界で類似の事業を行っている会社では、ある程度収益構造が共通しています。そのため、同業他社の業績に比べて不自然な赤字を出している会社は、意図的に税負担を回避していないかチェックされやすくなるのです。

特に、次のようなケースでは、赤字が経営実態に合っているかどうかを重点的にチェックされます。

  • 利益率が業界平均に対して異常に低い
  • 近隣の同業他社はみな黒字である

2-6.会社設立から長期間赤字を続けている

長期間にわたって赤字経営を続けている会社は、経営実態を怪しまれて税務調査に当たりやすくなります。

一般的に、長年の赤字を続けている会社に対しては、「長期間赤字なのに、なぜ事業を継続できているのか」「本当は赤字が実態に合っていないのではないか」などと疑念を持たれるためです。

  • 会社設立後、5年以上連続で赤字決算を行っている
  • 長年赤字であるにも関わらず、高額な役員報酬や充実した福利厚生制度がある
  • 赤字でも資金繰りに問題がみられない

2-7.過去の繰越欠損金で利益額を相殺している

過去の繰越欠損金(赤字)を利用して利益額を相殺している会社は、税務調査で狙われるリスクが高まります。
繰越欠損金の利用そのものには問題ありませんが、長期間赤字で繰越欠損を抱えていた会社が黒字に転換したタイミングで、税務調査に入られやすくなるのです。

特に、次のような会社は過去の申告内容にさかのぼって税務調査が行われ、繰越欠損金の利用の適切性をチェックされる傾向があります。

  • 繰越欠損金による赤字が続いている
  • 赤字の年と黒字の年を交互または数年おきに繰り返している

繰越欠損金の額などに誤りがあった場合は、利益額を相殺しきれずに法人税を納めなければならないこともあります。

2-8.欠損金の繰戻しによる法人税の還付を請求している

欠損金の繰戻しによって、黒字決算の時に納めた法人税の還付を請求している赤字会社は、税務調査に入られる確率が上がります。

欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求があった場合、欠損金額などの必要事項について税務署長が調査した上で税金を還付することが法人税法で定められているためです。

特に、次のような会社では、欠損金の繰戻し制度の利用が適切かどうかを厳しく調査される可能性があります。

  • 法人税の還付請求前に多額の欠損金を計上している
  • 請求している還付額が高額である

なお、欠損金の繰戻し制度を利用する場合、法人税の還付後に税務調査が行われることもあります。

2-9.消費税の還付を受けている

売上に対して仕入や経費が多いために、消費税の還付を受けている赤字会社も目をつけられがちです。

ほとんどの場合、税務調査では法人税とセットで消費税についても調査が行われます。
赤字会社であっても消費税の納税義務はあることから、税務調査で消費税の申告についてチェックされるのです。
そして、消費税の不正還付を図る会社が後を絶たないことから、近年では消費税の還付を受けている会社が税務調査の対象に選ばれやすくなっています。

具体的には、次のような会社が挙げられます。

  • 多額の消費税還付を受けている
  • 免税となる海外への売上や、非課税売上の割合が多い
  • 数年間、連続して消費税の還付を受けている

最近では、海外でビジネスを展開している会社による不正還付が多いため、そのような会社は特に注意が必要です。


3.赤字会社への税務調査でチェックされるポイント

赤字会社に対する税務調査では、次のようなチェックポイントがあります。

  •  赤字が会社の実態に合っているか
  •  会社から外部への不自然な資金の流れがないか
  •  帳簿上の処理は適切か
  •  赤字でも納税義務のある税目が正しく申告・納付されているか

赤字会社に対する税務調査の主な目的は、「法人税の申告ミスや不正な赤字を防ぐこと」と、「法人税以外についても正確に申告・納税させること」の2点です。

以下で、それぞれのチェックポイントを具体的に確認していきましょう。

なお、税務調査はどこまで調べる?指摘事項と対策を個人・法人別に解説!では、税務調査における一般的な指摘事項や対策などを詳しく紹介しています。

3-1.赤字が会社の実態に合っているか

税務調査では、帳簿上の赤字が会社の実態に対して妥当なものかどうかがチェックされます。

実際には利益が出ているのに、意図的に赤字を作って税負担を逃れようとする行為を防ぐためです。

具体的にチェックされるポイントの例は、次のとおりです。

  • 経費の水増しや架空計上を行っていないか
  • 一時的に多額の費用や損失を計上している場合、発生原因や金額などは妥当か
  • 売上の計上時期を意図的にずらしていないか
  • 役員報酬や賞与の水準は業績や事業規模に対して妥当か
  • 長期間の赤字が続いている会社の場合、事業資金をどのように調達しているか
  • 売上の一部を隠していないか

3-2.会社から外部への不自然な資金の流れがないか

赤字会社の場合、外部に対する不自然な資金の流れがないかどうかも税務調査におけるチェックポイントの一つです。

役員や関係者、関連会社などに会社の資金を移転することで、赤字偽装につながるような利益隠しを行っていないかどうかを調べるためです。

例えば、次のようなポイントがチェックの対象になります。

  • 役員や親族従業員に対する給与・賞与が高すぎないか
  • 役員や親族従業員の個人口座への頻繁な送金がないか
  • 関連会社との間で、不自然に高額な取引を行っていないか
  • 役員個人や関連会社との間で、会社に不利な条件の取引を行っていないか

3-3.帳簿上の処理は適切か

税務調査では、帳簿の記録が正しく行われ、税法上のルールに沿っているか必ずチェックされます。

会社が故意に赤字を偽装していなくても、会計処理にミスがある場合は、申告内容の修正・更正や追徴課税が必要になるためです。

例として、次のような点が確認の対象となります。

  • 領収書や請求書などが適切に管理され、帳簿と突合できる状態になっているか
  • 旅費や交際費など、私的な支出と混同されがちな経費を適切に処理しているか
  • 繰越欠損金による利益相殺額や、欠損の繰戻し還付額の計算は正しいか
  • 現金取引が多い業種の場合、手元の現金と帳簿との間にズレがないか

3-4.赤字でも納税義務のある税目が正しく申告・納付されているか

法人税の税務調査では、赤字会社にも納税義務がある他の税目の申告・納付状況についてもチェックされます。

法人税以外の申告ミスや未納などが発覚した場合、その都度に税金の追徴やペナルティが発生する可能性があります。

次から、具体的に見ていきましょう。

3-4-1.消費税

消費税については、特に次のようなポイントがチェックされます。

消費税の還付を受けている場合消費税を納付している場合
  • 仕入税額控除の額が不自然に大きくないか
  • 消費税の還付が毎期継続して発生していないか
  • 架空の仕入れを装っていないか
  • 海外への売上を架空計上していないか
  • 課税売上高の計算が正しいか
  • 仕入税額控除を正しく適用しているか
  • 消費税の税率区分(10%・8%軽減税率など)の適用は正しいか

特に、消費税の還付については不正が多発していることから、近年では全国的に重点的なチェック対象になっています。

また、仕入税額控除の適用については、消費税の還付・納付いずれの場合も税務調査で丁寧にチェックされます。その結果、控除の対象となる費用計上の誤りや、控除に必要な証拠資料の紛失などを指摘されるケースが多くなっています。

3-4-2.源泉所得税

従業員に給与や報酬を支払っている会社には、原則として源泉所得税の納付義務があります。

源泉所得税に関する主なチェックポイントは、年末調整における計算ミスや、外注先などに支払う報酬からの源泉徴収漏れの有無です。
税務調査で源泉所得税の計算ミスや徴収漏れが分かった場合、納付が遅れた期間や未納額に応じたペナルティが発生します。

なお、2024年最新版:源泉所得税の納付期限はいつまで?では、納付期限や納期の特例などを改めて確認できます。源泉所得税の納付ミスについて、税務署に指摘されることがないようにしましょう。

3-4-3.印紙税

赤字の場合でも、契約書や領収書などには収入印紙を貼り、適切に印紙税の納付を行う必要があります。

税務調査で契約書などをチェックされた際、印紙の貼り忘れや金額不足などが発覚した場合は、本来の印紙税と併せてペナルティ(過怠税)を支払わなければなりません。

印紙税に関する税務調査の概要や納付漏れがあった場合のリスクについては、印紙税の税務調査とは?内容と流れ、実際の問題点と過怠税について解説で詳しく解説しています。


4.赤字会社が税務調査を避けるための対応策

赤字会社が税務調査の対象にならないようにするためには、次のような対応を行う必要があります。

  •  赤字が目立ちにくい企業経営を行う
  •  会計処理を適正に行う
  •  法人税以外の税目も適正に処理する
  •  定期的に専門家のチェックを受ける

不自然な赤字を解消するだけでなく、定期的に税理士のサポートを受けながら会計処理や税申告・納税を正しく行うことが、税務調査を回避するポイントです。

次から、詳しく見ていきましょう。

4-1.赤字が目立ちにくい企業経営を行う

経営努力によって赤字を回避することで、税務調査で狙われるリスクを減らすことができます。
特に、長期間の赤字や、同業他社の業績に対して不自然な赤字がみられる会社は、税務署にとって目立つ存在です。

業績の落ち込みによって赤字に転落してしまった場合は、コストカットや業務効率化などによる経費削減や、計画的に赤字を解消していくことが大切です。

なお、節税目的であえて赤字決算を図る場合は、脱税とみなされないよう、無理な経費計上を行うことは避けましょう。

4-2.会計処理を適正に行う

不正を行わないことはもちろん、ルールに沿った正確な会計処理を行うことも、税務調査のリスク対策として重要です。

売上や経費計上のルールを明確化してミスを防ぐことや、領収書・請求書などの証拠資料の管理方法を定めておくことが大切です。

4-3.法人税以外の税目も適正に処理する

消費税や源泉所得税など、法人税以外の税目についても、申告・納付を適切に行うことで税務調査に当たる確率を下げることができます。
消費税の還付手続きや源泉所得税の徴収など、法人税以外の税目が税務調査のきっかけになることもあります。

税務調査のリスクをできる限り下げられるよう、日頃から次のような対策を講じておきましょう。

  • 給与や報酬の支払い時に、源泉所得税の納付漏れや計算ミスがないか確認する
  • 消費税の課税売上や仕入税額控除の計算ルールなどを確認し、正しい処理を行う
  • 印紙税の対象取引や金額を確認し、既存の契約書などに印紙の不備がないかチェックする

なお、法人税を含めた税金の納税タイミングや計算方法を改めて確認したい方は、【税理士監修】法人の税金12種類!支払い時期から計算例まで全攻略を参考にしてみてください。

4-4.定期的に専門家のチェックを受ける

税理士のような専門家に帳簿の内容を定期的に確認してもらうことも、税務調査の回避に効果的です。
信頼できる顧問税理士がいれば、赤字会社の会計処理や税申告を確実に行うことができるだけでなく、万が一の税務調査でも安心です。

なお、辻・本郷 税理士法人には、税務調査の現場を知り尽くした国税庁OB・OGが90人以上在籍しており、日頃から税務調査を見据えた対策を行うことができます。

赤字会社で税務調査が不安な場合は、ぜひ辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスをご利用ください。


5.まとめ

次のような赤字会社は、税務調査で狙われる可能性が高くなります。

  • 多額の経費を計上している
  • 一時的な費用や損失を計上している
  • 売上の計上時期にズレがある
  • 売上が急増している
  • 同業他社の利益水準に比べて赤字が不自然である
  • 会社設立から長期間赤字を続けている
  • 過去の繰越欠損金で利益額を相殺している
  • 赤字の欠損繰戻しがある
  • 消費税の還付を受けている

また、赤字会社の場合、税務調査で次のようなポイントをチェックされる傾向があります。

税務調査のチェックポイント具体的なチェック内容の例
赤字が会社の実態に合っているか
  • 経費の水増しや架空計上はないか
  • 売上隠しや計上時期のズレはないか
会社から外部への不自然な資金の流れがないか
  • 役員や親族に高額な給与や支給していないか
  • 関連会社と高額な取引をしていないか
帳簿上の処理は適切か領収書などが適切に管理されているか
赤字でも納税義務のある税目が正しく申告・納付されているか
  • 消費税の還付でミスや不正がないか
  • 源泉所得税の計算ミスはないか
  • 印紙の貼り忘れはないか

税務調査の対象になった赤字会社の多くでは、申告ミスや不正が発覚して追徴課税やペナルティが発生しています。

辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスのように、税務調査に強いプロフェッショナルを活用して、日頃から税務リスクに強い会計処理や税申告を心がけましょう。