
「税務調査」と聞くと、多くの事業者、経営者の方が不安を感じるものです。その中でも特に注意が必要なのが「キックバック」に関する問題です。
キックバックとは、取引先間で行われる金銭のやり取りの一種ですが、税務の観点から見ると、違法行為や不正取引が疑われやすいものでもあります。適切な会計処理を行わない場合、後々になって調査で発覚し、追徴課税のうち、場合によっては重加算税といった罰則が科される可能性も否定できません。
この記事では、税務調査におけるキックバックの問題点を徹底解説するとともに、発覚する理由や具体的な事例、リスクを回避するための合法的な対策について詳しくご紹介します。
税務調査の準備を進めている方や、キックバックに関するリスクが心配な方は、ぜひ最後までご覧ください。税務リスクを軽減し、安心して事業を続けるための第一歩を踏み出しましょう。
目次
1.キックバックは申告をしないと税務調査で指摘される
会社間の取引でキックバックを受け取った場合、適切に申告をしないと税務署から「申告漏れ」や「経理処理の誤り」を指摘される可能性があります。また、脱税を疑われて重加算税が科されるおそれもあります。
特に、以下のようなケースでは税務調査で問題視されることが多いため、注意が必要です。
1-1.キックバックは正しい勘定科目で適切に申告しない場合も指摘される
キックバックを受け取った場合、その処理を適切な勘定科目で記録する必要があります。
NG例(税務調査で指摘されやすいケース)
・給与として処理→ キックバックを役員や従業員が受け取った場合にも、給与所得として処理してはならない。
・個人の雑所得として処理→ 事業に関連するキックバックを個人の雑所得として申告すると、税務署から不適切な申告と判断される。
キックバックを受け取る場合、一定期間に一定以上の額、または量の仕入を行った際に、仕入先から仕入額の一部が返還されたものとして帳簿に記載します。
具体的には、勘定科目は基本「仕入割戻」として処理することで、正しい会計処理となります。
したがって、例えば、キックバックとして5万円を受け取ったという場合には、「仕入割戻」という科目を使い、以下のような仕訳を作成します。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 50,000円 | 仕入割戻 | 50,000円 |
一方、キックバックを支払う側は、勘定科目は「売上割戻」として仕訳をする必要があります。
借方 | 貸方 | ||
売上割戻 | 50,000円 | 売掛金 | 50,000円 |
本来「売上割戻」として計上すべきものを経費に含めてしまった場合は、法人税の過少申告につながってしまうおそれもありますので注意が必要です。
1-2. 従業員が個人的に金銭を受け取っている場合も指摘される
会社の取引に関連して、従業員が取引先から個人的にキックバックを受け取るケースもあります。これにより、企業は以下のようなリスクを伴います。
伴うリスク
・法的リスク→詐欺罪や背任罪が成立する可能性があり、刑事告訴の対象となることがある。また、違法行為が発覚した場合、企業も調査対象となり、社会的信用を失う可能性がある。
・財務リスク→税務調査で問題視され、企業が追加の税負担を科される場合がある。
・内部統制の問題指摘のリスク→コンプライアンス違反や内部管理体制の不備が指摘される可能性がある。
こうしたリスクを防ぐためにも、従業員が個人的にキックバックを受け取らないように社内コンプライアンスを徹底的に遵守する環境を整えましょう。
1-3.キックバックに関する資料の管理に透明性がない場合も指摘される
税務調査では、取引の透明性が重視されます。
キックバックを受け取った際の、キックバックに関する内部資料が適切に管理されていないと、税務署から「架空取引」あるいは「収益の隠蔽」と判断される可能性があります。
問題となるケース
・契約書や請求書がない → キックバックの根拠となる契約書や請求書がなければ、取引の正当性を証明できない。
・取引内容が不明確である→ キックバックの発生理由が曖昧である場合、不透明な取引とみなされる。
・銀行口座内の不審なやり取りがある → 税務調査では銀行口座の動きも調べられることがある。
対策として、まず、契約書や請求書などの内部資料は、取引の正当性を証明するために適切に保管するようにしましょう。そして経理処理を明確にすることも重要です。受け取ったキックバックはあくまで仕入割戻として記録し、税務上の整合性を保つようにすべきです。
メールなどの取引の記録を残すことで送金履歴や領収書を残し、透明性を確保することも、キックバックによる税務調査を防ぐために有効な方法となります。
2.税務調査でキックバックが注目される理由
キックバックは、正しく申告・処理されていれば、法的、税務的にも問題はありません。税務署がキックバックに着目するのは、不正や申告漏れが発生しやすいからです。
この章では、キックバックが税務調査で問題視される主な理由を解説します。
2-1.キックバックは脱税のために利用されやすい仕組みだから
キックバックは「実際の仕入れ額(キックバックの受取側)、あるいは売上や経費(キックバックの支払い側)を意図的に操作する手段」として悪用されることがあります。
これにより、法人税・所得税・消費税の課税逃れが発生しやすいため、税務署は特に注意を払っています。
例えば、具体的な脱税手口としては、取引先と示し合わせ、仕入れ額の一部をキックバックとして受け取っているにも関わらずそれを隠蔽し、本来の収益を申告せずに所得税を減少させる行為、また、実際には存在しない業務委託費や広告費としてキックバックを処理して経費を水増しする行為などが挙げられます。
これらの手口は、いずれも税務署によって厳しく取り締まられており、発覚すると重加算税のペナルティが科されることもあります。決して悪用しないでください。
このように、キックバックは脱税に利用されやすい仕組みとなっていることから、税務調査の対象となりやすいです。
2-2.キックバックは外部からバレにくく、不正が見逃されやすい仕組みだから
キックバックは、外部の監査機関や税務署からでは発見されにくいという特徴があります。そのため、不正が行われても長期間にわたり発覚しにくいのが問題です。
なぜなら、キックバックでは正式な契約書が作成されていないケースが多々あるため、調査がしづらくなっているからです。
また、取引先との直接のやり取りであるので、第三者である監査法人や銀行があまり関与しない取引であるためといった理由が挙げられます。
その他にも、銀行振込ではなく現金払いにすることで銀行の記録に残らず、税務署が追跡しづらいといった理由や、取引の名目が「業務委託費」「コンサルティング料」などの曖昧な名目で処理され、実態が不明確になりがちであるという理由が挙げられます。
このように、キックバックは仕組みとして、不正を仮に意図的に隠蔽していたとしても、それを外部から暴くことが難しいため、税務調査で重点的にチェックされています。
2-3.割戻金が発生するため、仕入れ額や経費の計上時期にミスが生じやすいから
キックバックでは割戻金が発生します。このとき、キックバックを受け取った際の仕訳、つまり「仕入割戻」の計上時期にはミスが生じやすいため、税務調査の対象となりやすくなっています。
「仕入割戻」とは、1-1でお伝えしたとおり、一定期間で特定の取引先から多額、もしくは大量の商品を仕入れた際に、代金の一部が後に取引先から返還されることです。キックバックを受け取る際には、仕入割戻という勘定科目で仕訳をすることになっています。
ただし、キックバックの仕訳は、その企業が総額表示と純額表示のどちらを選択するかによって方法が変わります。
企業会計には本来、総額表示を適用することが原則ですが、仕入割戻は例外的に純額表示が認められる取引のひとつです。
そのため、キックバックでは割戻の通知があったタイミングで計上するのが原則(総額表示)ですが、純額表示を適応する場合には、商品を購入したタイミングで計上することができます(※ただし、その場合の勘定科目は「仕入」となり、割戻分を差し引いた額を仕訳することになる)。
原則的な総額表示では、割戻金が確定し、その通知を受けた事業年度内に計上します。もし、事業年度をまたいで通知を受けた場合、例えば、2024年度の取引に対する割戻金が2025年度に通知された場合、2025年度の収益として計上しましょう。
一方で、純額表示では、商品を購入した日が属する事業年度内に計上することとなるため、事業年度をまたいで通知を受けた場合でも、例えば、2024年度の取引に対する割戻金が2025年度に通知された場合でも、2024年度の仕入額から割戻分を引いて仕訳をしましょう。
このように、割戻金の計上時期は少し複雑で、間違えやすいものとなっています。意図的でないとしてもミスが生じやすいため、キックバックは税務調査で重視されています。
3.税務署がキックバックを発見する仕組み
税務調査では、取引の透明性や正確性を確認するため、キックバックの有無が重点的にチェックされます。しかし、企業や個人が意図的に隠そうとするケースも多いため、税務署はさまざまな手法を駆使して不正を発見します。
この章では、税務署がキックバックをどのように突き止めるのか、その具体的な仕組みを解説します。
3-1.内部資料や電子メールなどを調査し、重要な欠落や記録の曖昧さを確認する
税務調査では、まず会社の内部資料を精査し、不自然な点がないかをチェックします。特に、キックバックに関連する可能性のある以下のような書類が詳しく調査されます。
主な調査対象の書類・記録
・契約書 → 取引の正式な合意内容が記載されているか
・請求書 → 実態のない請求が発行されていないか
・電子メール・業務メモ → 取引先とのやり取りの中に、キックバックを示唆する文言がないか。取引の目的や金額について、表向きの説明と異なる内容が記録されていないか
・会計帳簿 → 仕入れ額などが適切に計上されているか
・銀行口座→本来会社に入るべきお金が特定の個人口座に送金されていたり、記録のない入金がないか
・支払い明細書(キックバックの支払い側の場合)→ 取引内容と金額が一致しているか
特に電子メールや業務メモは、従業員が意図せず残してしまうことが多いため、税務署はこれらの記録を詳細に調べ、取引の実態を明らかにしようとします。
3-2.反面調査で調査対象者以外の第三者の取引記録や証言を突き合わせ、矛盾を確認する
反面調査とは、調査対象者(企業や個人)だけでなく、その取引先や金融機関など第三者からも情報を収集し、申告内容と突き合わせる調査手法です。
調査対象となる第三者としては、取引先企業や下請会社、金融機関、銀行などが挙げられます。
反面調査で発覚しやすい不正は、例えば、該当企業が「受け取っていない」と主張するキックバックが、取引先の帳簿には「支払った」と記録されていたり、下請会社の証言と調査対象者の説明が食い違っている、また、会社の口座ではなく、個人口座にキックバックが振り込まれているなどといったものになります。
特に、金融機関の記録は信頼性が高く、税務署が強い権限を持って調査を行えるため、隠されたキックバックが発覚しやすいポイントです。
3-3.取引相手や下請会社との連動調査で、共謀した脱税行為がないか確認する
税務調査では、単独の企業や個人だけでなく、取引先や関連会社と連携した脱税が行われていないかについても調査します。これを連動調査と言います。連動調査は多角的に進められます。
例えば、取引先との帳簿を照合して、企業側の支払い記録や業務契約書との間で合致しない点がある場合には、さらに詳しく調査されることとなります。
また、下請会社に対しても、下請会社の取引の実態を調べられたり、業務の内容や、取引により受け取った売上金額に不自然な点がないか確認されることがあります。
このように、税務署は、取引先や下請会社に関しても連動しながら調査し、キックバックがどのように処理されたかを徹底的に追及します。
4.キックバックの申告漏れからもたらされる税務リスク
キックバックを適切に申告せず、意図的に隠したり誤った処理を行ったりすると、税務リスクが大きくなります。
税務調査で隠蔽された、あるいは申告漏れとなってしまったキックバックの存在が発覚した場合、重加算税やペナルティだけでなく、企業としての信用の低下や取引先への影響など、さまざまな問題が生じる可能性があります。
この章では、キックバックの申告漏れがもたらす主なリスクについて詳しく解説します。
4-1.意図的な隠蔽行為や虚偽の申告が伴う場合には重加算税の対象になる
税務調査でキックバックの存在が発覚した際、 「意図的な隠蔽や虚偽の申告」 が確認されると、重加算税が課される可能性があります。
重加算税は、故意に所得を隠したり、虚偽の申告を行ったりした場合に適用される税金の上乗せ措置です。過去7年間に遡って課税されることもあります。
さらに、悪質な場合は刑事罰による懲役や罰金が発生する可能性もあります。
税務署が「意図的」と判断する例については、例えば、帳簿や契約書の改ざん・隠蔽がある、取引を二重帳簿で管理している、取引の実態を偽る説明をする、キックバックのやり取りを現金で行い、銀行記録に残さない、などが挙げられます。
単なる計上ミスであれば、科される税率の比較的軽い過少申告加算税などの処置で済みますが、意図的な隠蔽行為がある場合には、税務署の判断は厳しくなります。
4-2.一度隠蔽や虚偽答弁などが発覚すると税務署からの信頼を失い、税務調査がさらに厳しくなる
税務署は、一度でも 「隠蔽」や「虚偽の説明」 を行った企業や個人に対して、今後の調査を厳しくする傾向があります。
なぜなら、隠蔽や虚偽の説明をするということは、意図的な脱税を目論んでいた可能性が高いと判断されるためです。
税務調査で信頼を失った場合、今後も定期的に税務調査が入るようになったり、追加の調査項目が増え、取引先や関係者への聞き取り調査が強化されたり、取引記録や帳簿の細部に至るまで徹底的にチェックされたりといった追及が行われるようになります。
このように、初回の税務調査で誤りを認め、修正申告を行えば調査を穏便に済ませることができるという場合もありますが、一度誤りに対して隠蔽や虚偽答弁をしてしまうと、次回以降の税務調査は厳格化して、企業運営の大きな負担となってしまいます。
4-3.自社だけでなく取引先にも税務調査によるペナルティが発生し得る
税務調査の結果、キックバックによるペナルティが発生した場合、影響はその企業だけにとどまらず、取引先にも波及する可能性があります。
なぜなら、キックバックは 「支払う側」と「受け取る側」の双方の帳簿に影響を与えるものであるためです。
例えば、A社がB社に対してキックバックを支払い、B社がキックバックを誤った勘定科目で計上していたことが税務調査で発覚した場合、A社側の売上にも調査が及ぶ可能性があります。
キックバックの申告漏れなどが税務調査で発覚した場合、キックバックを支払った側である取引先が受けるリスクとしては、過去の申告漏れがないか入念に調査されたり、売上や経費の処理ミスがあれば意図的なものではないかと疑われたり、税務署の監視対象となり、今後の税務調査が増えたりといった例が挙げられます。
また、もちろん、キックバックを支払う側の申告漏れなどが発覚した場合にも、受け取り側の取引先に同様の迷惑がかかります。
取引先に迷惑をかけると、今後のビジネスにも悪影響を及ぼし、取引停止や信用の低下につながる可能性がありますので、キックバックを扱うときには、特に慎重に処理するようにしましょう。
4-4.消費税の課税事業者であれば、消費税の申告漏れにつながることも
キックバックは、法人の消費税課税判定にも影響を与えることがあります。
消費税の課税事業者になるかどうかは「前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えているかどうか」 によって決まります。
例えば、キックバックを受け取る以前に課税事業者であった場合、キックバックを受け取った際にも、仕入割戻は課税仕入に対する返還金として、消費税も踏まえた正しい金額で仕訳をする必要があります。
消費税の申告漏れは、たとえ意図しなかったとしても、後から税務署に指摘されると、本来支払うべき消費税に加え、 延滞税や加算税が科されることになります。注意しましょう。
5.税務調査で指摘を受けないためのキックバックの正しい対処法
キックバックの処理が不適切だと、税務調査で指摘を受け、追徴課税や信頼の低下につながる可能性があります。
この章では、税務調査で問題にならないように、キックバックを適切に処理するための対策について解説します。
5-1.取引に関する記録や内部書類を整理しておく
税務調査では、取引の正当性を証明するための内部書類が必要になります。キックバックが生じた場合には、特に以下のような資料を事前に整理し、適切に保管しましょう。
・契約書 → 取引内容を明記し、金額の決定根拠を示す
・請求書・領収書 → キックバックの金額が適切に計上されていることを確認
・電子メール・業務メモ → 取引先とのやり取りを保存し、証拠として保管
・支払い明細(キックバックの支払い側の場合) → 誰に、いつ、どのような目的で支払ったのか記録
内部書類を整理しておくことで、税務調査の際にスムーズに対応でき、税務調査官に不審に思われにくくなります。
5-2.会計帳簿の記録の透明性が保てるように正確に行っておく
会計処理の透明性を確保するために、記録は正確に行いましょう。
具体的には、「誰から」「どのような理由で」受け取ったのか、受け取り側でも取引内容を明確に記録すること、また、取引相手に支払った場合にも詳細をメモなどに記録し、裏付けとなる書類を保管すること、そして、定期的に会計帳簿を確認し、記録ミスを防ぐことなどに気をつけてください。
正しい会計処理を行うことで、税務調査時に不審な点を指摘されるリスクを減らせます。
5-3.誤った会計処理をしないよう留意する
キックバックを不適切な勘定科目で処理すると、税務署に指摘される可能性があります。
取引の一環として適切に帳簿に記載し、その際、給与などとして処理しないようにしましょう。
また、支払う側としても、キックバックを利用した架空の経費などを作って計上することは絶対にやめてください。
仕入割戻として戻ってきた際には、計上するタイミングにも気をつけて、適切に帳簿に反映しましょう。
税務リスクを回避するため、適切な勘定科目を用いることを忘れないようにしてください。
5-4.税務調査で事実と異なる回答をしない
税務調査では事実と異なる回答をしないようにしてください。
なぜなら、虚偽の説明をすると「意図的な隠蔽」とみなされ、重加算税の対象となる可能性があるためです。
必ず、税務調査で説明、回答をするときには、事実に基づいた説明を行い、仮にわからないことがあれば、その場で適当な回答をせず、確認後に回答するようにしましょう。また、証拠となる書類を提示できるよう準備しておくことも、必要なタイミングで正確な回答をするために役立ちます。
適切な対応をすることで、税務調査の影響は最小限に抑えられます。事実と異なる回答はしないようにしましょう。
5-5.万が一申告漏れに気がついたら税務署へ自主的に申告する
キックバックの申告漏れが発覚した場合、税務署から指摘を受ける前に自主的に申告をすることで、ペナルティが軽減されることがあります。
自主的に申告することで、意図的な隠蔽ではないという証明となり、税務署からの信頼を維持することにつながるためです。
例えば、自主的な修正申告を行うことで、加算税の減免措置が受けられる可能性があります。
税務リスクを最小限に抑えるため、申告漏れやミスに気がついたら、極力早めの対応を心がけましょう。
5-6.社内コンプライアンス教育を徹底しておく
社内でキックバックに関するコンプライアンスを遵守するようにルールを整備し、不正を防ぐ体制を作ることも重要です。
これは、従業員が個人的にキックバックを受け取り、不正な処理をしてしまうことを防ぐためです。
例えば、キックバックの適切な処理方法を社員に周知したり、社内ルールとして、不適切な取引を禁止する規定を設けたり、内部監査を定期的に実施し、不正を防ぐ仕組みを作るといった方法があります。
このように、社内コンプライアンスを徹底することで、税務調査でのリスクを軽減できます。
5-7.対処に不安がある場合には税理士に依頼する
キックバックの処理が適切かどうか判断に迷う場合は、 税理士に相談するのが最善策です。
なぜなら、専門家のアドバイスを受けることで、正しい会計処理が可能になり、税務調査でペナルティを受けるリスクを激減させることができるためです。
また、いざ税務調査を受けることになったとしても、税務調査官への対応についてもサポートを受けられたり、立ち会ってもらうことができるようになります。
このように、税理士を活用することで、不要な税務リスクを事前に回避するための適切な経理管理、また、税務調査対策が可能になります。
6.よくある質問
この章では、キックバックや税務調査に関するよくある質問にお答えします。ぜひご一読ください。
6-1.キックバック自体は違法なのか?
キックバック自体は違法ではありませんが、取引の状況によっては法律違反となる可能性があります。
キックバックが問題になるのは、不正な取引であったり、相手方に損害を与える形で行われた場合です。特に、取引先の合意がないキックバックの要求や、不適切な価格操作、架空取引の伴うキックバックは違法とみなされる可能性があります。
例えば、取引先の合意がないのにも関わらずキックバックを要求する場合には、強要や不正取引の疑いが生じます。また、相手に損害を与える形でキックバックを受け取る場合には、独占禁止法違反や業務上横領の可能性も生じます。架空の発注や虚偽の請求を伴う場合には、詐欺罪や脱税とみなされることがあります。
このようなケースでは、法的責任を問われる可能性が高くなります。
したがって、キックバックを活用することは、正当な取引の一環であれば違法ではありませんが、キックバックを活用する際には取引の透明性を確保し、法律に違反しないよう注意する必要はあります。
不安がある場合は、事前に税理士などの専門家へ相談し、適切な手続きを踏むことをおすすめします。
6-2.重加算税が課税される基準はあるのか?
キックバックに関して重加算税が適用される基準の一つは、「意図的な行為」が確認されることです。
税務署は、帳簿の改ざん・隠蔽、架空取引の計上、虚偽の説明などの行為を「意図的な隠蔽」とみなし、重加算税の対象とします。意図的な不正が発覚すると、通常の過少申告加算税よりも 重い税率が科される可能性があります。
例えば、取引先から受け取ったキックバックを帳簿に記載せずに、取引先とも口裏を合わせて、取引先の売上にも計上させなかった場合、それが税務調査で発覚したときに税務署は意図的な隠蔽と判断する可能性が高いです。一方で、計上ミスや単純な申告漏れであれば、比較的軽い過少申告加算税で済むこともあります。
このように、「意図的な」不正は重加算税の対象となるため、適切な帳簿管理と正確な申告が不可欠です。
6-3.従業員がキックバックを密かに受け取っていた場合どうしたら良いか?
従業員が密かにキックバックを受け取っていた場合、まずは冷静に事実関係を調査し、適切な処分を検討しましょう。
キックバックを密かに受け取ることは、不正行為として社内外の信用を失う原因となります。さらに、申告漏れがあった場合、税務調査で発覚すると重いペナルティが課される可能性があります。そのため、問題が明るみに出る前に自主的に税務署へ申告し、リスクを最小限に抑えることが必要となります。
例えば、ある従業員が取引先からキックバックを受け取っていたことが判明した場合、まず社内で調査を行い、どのような経緯で発生したのかを明確にすることが求められます。その上で、社内規則に違反している場合は適切な処分を検討し、今後の再発防止策としてコンプライアンス教育を徹底することが重要です。また、税務上の申告漏れなどの問題が発生している場合には、速やかに税務署へ自主申告して、ペナルティを軽減する対応を取ることが望ましいです。
企業の信頼を守るためには、まず事実関係を正確に把握し、従業員に対して適切な処分と対応を行い、申告漏れがある場合には自主的に税務署へ申告する必要があります。その上で、社内コンプライアンス教育を徹底し、キックバックによる不正行為の防止策を講じることで、同様の問題が再発しないように努めるようにしましょう。
6-4.税務調査での質問にその場で明確に答えられない場合にはどうしたら良いか?
税務調査で質問に答えられない場合は、 無理に回答せず「後日確認してお答えします」と伝えた上で、正確な情報を提供することが重要です。
税務調査では、 不正確な回答や曖昧な説明をすると、不審に思われて調査が厳しくなる可能性があります。また、虚偽の回答をすると重加算税の対象になるリスクもあります。そのため、事実確認を行った上で正確な情報を伝えることが求められます。
例えば、税務署の調査官から「この取引の詳細を説明してください」と聞かれた際、 記録をすぐに確認できない場合は、適当な回答をせずに「社内の記録を確認した後、改めてお答えします」と伝えることが適切です。
その後、関連書類を確認し、事実に基づいた正しい説明を行うことで、税務署の信頼を維持できます。
このように、税務調査では、 その場で答えられない質問に対しては、無理に回答せず、確認後に正確な情報を提供することが重要です。適切な対応を心がけることで、調査を円滑に進めることができます。
7.キックバックの処理や税務リスクに不安がある場合には辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスのご活用を
キックバックによる税務リスクを避けるため、適切なアドバイスが必要な場合には、税務の専門家である税理士に相談するのが最善策です。
辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスでは、税務調査対策や適切な経理処理など、事業運営の上で生じる不安に対して全面的にサポートいたします。
顧問先17,813件、所得税申告14,361件の「国内最大規模の顧問先の多さ」と「対応業種・規模の広さ」を併せ持つ辻・本郷 税理士法人では、顧問先の多さ、業種の幅広さを活かして、さまざまな取引の形態に対応することができます。
将来起こり得る問題やリスクも見据えたアドバイスを、税務の専門家という視点からお届けいたします。
お困りの際にはぜひご相談ください。
8.まとめ
キックバックの処理の際には、仕訳を正確に行い、記録を明確に残すことが重要です。
キックバックを利用した不正が行われやすいことから、キックバックの処理に関しては税務調査において特に注目されています。
税務調査の際には内部書類を正しく揃えて、虚偽の回答を避け、事実に基づいた説明を行う必要があります。万が一、キックバックに関する申告漏れが発覚した場合は、速やかに自主的な修正申告を行い、ペナルティを最小限に抑えることが望ましいでしょう。
また、税務対応に不安がある場合は、税理士に相談し、適切な処理を行うことでリスクを事前に回避することができます。
キックバックを扱う際には、特に適切な対応を徹底し、税務リスクを未然に防ぎましょう。