仮払金とは?勘定科目の仮払金の仕訳例を解説

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監修者 宇都宮健太

経理業務に携わっていると、「仮払金」の取り扱いに悩んだことはありませんか?
業務をスムーズに進めたいと思いつつ、勘定科目の選択に迷って手間がかかり、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

正確な記録を残しつつ、後の精算や調整がしやすいこの「仮払金」ですが、この運用を曖昧にしてしまうと今後トラブルや不明瞭な記録につながるリスクもあります。

この記事では正しくスムーズに仮払金を処理できるよう、具体的な例を交えながら注意点と共に解説します。

1.仮払金とは、未確定の用途に前払いする一時的なお金

1-1.仮払金の基本的な意味

仮払金は具体的な用途が未確定な中、一時的に支払われる金銭を指します。企業活動では事前に金額や内訳が決まらないことがあり、そのような場合仮払金が使用されます。これは後に正確な費用項目へ割り当てることを前提としています。また、仮払金は、業務を円滑に進めるための即時の金銭的サポートとして非常に重要です。

例えば、新しいプロジェクトを始める際に、社員に必要と予想される備品や資材の予算を仮払金として渡します。これにより、社員の立替えなどの手間を省き、安心して必要なものを買ってもらうことができます。そして社員が実際に購入した後、仮払金は正しい費用の項目に分けられます

このように仮払金は、社員の立替負担を減らしながら業務の迅速な進行をサポートする会計上の仕組みです。加えて、仮払金は未確定の支出を一時的に記録して最終的な精算をしやすくするための役割を果たします。

1-2.仮払金はいつ使用するの?

仮払金は出張や急に必要になった経費など、具体的な費用が確定していない場面で使われます。
例えば出張前に交通費や宿泊費を前渡しする場合などが典型的です。業務遂行上、即座の支払いが必要な状況や正確な金額が後日確定する場合があるため、一時的な会計処理として仮払金を活用します。

以下の表のような例があります。

出張費
交通費、宿泊費、飲食費など金額が事前に確定しない費用
備品購入
新規プロジェクト開始時などに必要な備品購入費用
会議費
参加者の人数や会場によって費用が変動する会議費

 

このように事前に詳細が分からない支出への対応が必要な時に役立つのが仮払金です。予期せぬ支出にも迅速に対応することができるため、業務をスムーズに進めるため重要な役割を果たします。
また用途が明確になった段階で、適切な精算を行うことが、正確な会計管理につながります。

2.間違えやすい仮払金・前払金・立替金・未払金の違い

経理業務では、「仮払金」「前払金」「立替金」「未払金」といった勘定科目がよく使われます。 これらは似たように見えますが、用途が異なります。以下の表でそれぞれの意味合いを簡単にまとめました。

勘定科目
意味主な具体的使用場面借方・貸方
区分
仮払金
用途が未確定な支出に対して、一時的に前払いするお金出張の時の交通費・宿泊費・接待費など
不確定な支出が発生する場合に使用
資産(借方)
前払金
確定した取引に対して、事前に支払ったお金商品の購入に際し、契約に基づいて前払いする場合に使用資産(借方)
立替金
他人が負担すべき費用を一時的に代わりに支払ったお金社員や取引先が払うべき費用を先に会社側が払った場合に使用資産(借方)

 

3.仮払金の実際の仕訳例を解説

仮払金は一時的に支出された金額を記録するための勘定科目であり、具体的な支出内容が確定した後に、適切な勘定科目への振り替えをおこないます。勘定科目の意味を理解したうえで、正しい振り替えをすることが大切です。以下に具体的な仕訳例をいくつか挙げました。

3-1.仮払金を支出したときの例

社員が出張に行くために、会社から10万円を「仮払金」として渡しました。

借方貸方
仮払金100,000円現金100,000円

3-2.仮払金が足りなかった時の例

出張後、社員が領収書を持参して精算したところ、実際の費用は12万円で仮払金の10万円では足りなかったことがわかりました。この不足分2万円は、従業員が自己負担していたため、会社がその分を追加で支払います。
借方
貸方
旅費交通費
120,000円
仮払金
現金
100,000円
20,000円

3-3.仮払金が余った時の例

出張後、社員が領収書を持参して精算したところ、実際の費用は8万円で仮払金の10万円では余りが出たため、差額の2万円分は現金として会社へ返金しました。

借方
貸方
旅費交通費
現金
80,000円
20,000円
仮払金
100,000円

 

以上のように、適切な振り替えを行うことにより正確な経費計上と会計処理が可能になります。差額が発生した場合も速やかに精算することが正しい帳簿管理の鍵となります。

4.仮払金を仕訳した際の注意点

仮払金は目的が確定しない一時的な支出を処理するための勘定科目です。その性質は「一時的」なものであるため管理がおろそかになると、会計上の不整合や税務上のリスクにつながる恐れがあります

本章では、仮払金を仕訳した際の注意点について以下の観点から解説します。

4-1.決算までに仮払金の内容を確定させる

仮払金を仕訳した際は決算までにその内容を確定させる必要があります
これにより、
税務調査や金融機関からのリスクを回避することができます

もし社員の出張費用として仮払金を支出した後、清算を適切に行わなければ決算時も「仮払金」として残り続けます。この状況を税務署は「従業員に対する給与や貸付金になっているのではないか」と疑い、源泉徴収税などの不足を指摘されるリスクがあります。

また、金融機関からは「仮払金が多く、資金が社外に流出しているのではないか」と不審に思われ、資金の返済能力に対し疑念を持たれることがあります。
さらに、
仮払金は時間が経つほどその内容や金額の確認が困難になり、正確な処理ができなくなるリスクがあります。
そのため、
仮払金は内容が確定したらすぐに適切な科目に振り替えることが推奨されます。遅くとも決算日までには必ず確定し、適切な処理を行いましょう。

4-2.領収書やレシートの保管と管理を徹底する

仮払金の税務処理では「何にいくら使ったのか」を証明できるということが非常に重要です
そのために領収書やレシー
トなどの管理をすることが大切になります。

この管理により税務リスクを最小限に抑えることができます。もし領収書の管理を怠ったり、仮払金のまま処理を放置したりすれば税務署に経費として認められず、追加の税負担が発生する可能性があります
したがって仮払金の税務処理では証憑の管理や使用目的の明確化を徹底し、早めに清算することが必要です。

4-3.消費税は内容確定後に計算する

仮払金を支出する際の消費税計算は、支払い内容が確定してから行います
仮払金とは支出の目的や金額が決まっていない中、支出されるものです。そのため、仮払金を支払った時点で消費税を計算してしまうと誤りが生じるリスクがあります

したがって消費税の計算は、必ず支出内容確定後にしましょう。支出内容が確定したら、領収書や請求書をもとに「仮払消費税」という勘定科目を用いて消費税を計上します。
このプロセスを意識することで、記帳ミスや税務リスクを防ぐことができます。

4-4.管理台帳で仮払金記録漏れを防ぐ

仮払金の管理では、記録漏れを防ぐために管理台帳を活用することが重要です
仮払金は複数の取引が同時進行したり、精算忘れをしたりすることで記録漏れが発生するリスクがあります。

また、不正利用を防ぐためにも全ての取引を管理できる仕組みが必要です。管理台帳を使用することで発生日、金額、用途、清算状況を記録し追跡することができます
これにより、経理の透明性が高まり、記録漏れや不正を防ぎ、効率的な管理体制を作ることができます。

4-5.チェック体制を複数人で作る

仮払金はチェック体制を複数人で作りミスのリスクを減らすことが大切です

仮払金は金額が小さい場合でも、ミスや不正が起こりやすい領域です。一人に管理を任せると記録漏れや誤入力のリスクが高まります
そこで入力者と確認者を分けたり、別の担当者が承認する仕組みを取り入れることで、ミスを早期に発見、修正しやすくなります。複数人での相互チェックを行うことで、仮払金の正確な管理につながります。

4-6.運用のルールの設定や定期的な確認をする

仮払金の記帳ミス防止のためには、効果的な運用ルールの設定や定期的な確認が重要です。
なぜなら仮払金は使用目的や金額が多岐に渡る場合があり、記帳の際にミスが生じやすい科目であるためです。

以下に記帳ミス防止のための具体策をまとめました。

防止策

具体例
①申請書の提出仮払金の申請時に「使用目的」「金額」「期限」を記載した申請書を提出させる
②システムの活用会計ソフトを導入し自動的に記帳される仕組みを作る
③残高の定期チェック毎月、仮払金の残高一覧を作成し未清算の物を担当者にリマインドする
④研修の実施​​​​​​会計担当者に研修を実施し、仮払金処理の重要性と方法を共有する

 

これらの具体策を組み合わせることで、仮払金の記帳ミスを効果的に防ぎやすくなります
また結果として、会社全体の経理業務の信頼性や効率性が大幅にアップします。

5.税務処理で不安なことや疑問点がある場合は辻・本郷 税理士法人へご相談を

税務処理に関する不安や疑問は、早めに税理士に相談することでリスクを軽減し、安心して業務を進めることができます。

辻・本郷 税理士法人は、皆様のニーズに応じたわかりやすい説明で、税務顧問サービスをご提供しています。お客様の状況に合わせた、最適なサポートをさせていただきます。仮払金のことはもちろん、会計処理で不安なことがあればぜひ辻・本郷 税理士事務所のサービスをご検討ください。
お客様が安心して事業を行えるよう、サポートいたします。

6.まとめ

仮払金は、未確定な用途に対して一時的に前払いする資金であり、業務を円滑に進めるために欠かせません。そして正確な会計処理のためには、仮払金の支出や余剰、不足に応じた仕訳を的確に行う必要があります。

特に、決算までに仮払金の内容を確定させることで税務リスクを軽減し、正確な会計報告を可能にします。また記帳ミスを防ぐために、日々の記録を正確に行い、精算の際には使用理由を明示するなどの具体策が有効です。

これらによる仮払金の適切な運用が、日々の経理業務の円滑化につながります。ぜひ、この記事でポイントを押さえ、スムーズな資金管理をしていきましょう。