
キャッシュフローについては知っていても、それを経営に生かすキャッシュフロー経営については疑問がある方が多いかもしれません。キャッシュフロー経営は経営健全化に貢献し、金融機関や投資家からの評価向上にもつながります。また、財務の安定性を高めるキャッシュフロー経営の手法、具体例まで丁寧にご紹介します。
目次
1.キャッシュフロー経営とはお金の流れに注目する経営手法
キャッシュフロー経営を一言で言えば、「キャッシュフロー」を重視した経営手法です。もともとキャッシュ・フローとは、手元の現預金(キャッシュ)の動き(フロー)を意味します。ここで言う動きとは、現預金の収入(キャッシュイン)と現預金の支出(キャッシュアウト)のことです。
【キャッシュフローとは】
現預金の収入(キャッシュイン)と現預金の支出(キャッシュアウト)の動き
企業間の取引では、売上が立ってから入金されるまで時間がかかるのが一般的です。一方で、売上はすぐに計上します。支払いも同様で、商品等を購入してから実際に支払いするまでには時間が空くことが多いです。
つまり帳簿上と実際の現預金には差分があり、その差分を意識するのがキャッシュフロー経営であるといえるでしょう。
2.キャッシュフロー経営の効果
キャッシュフロー経営は経営の健全性や安全性を高められ、次のような効果を得られます。
2.弾力的な経営が可能に
3.黒字倒産のリスクが低減する
2-1.資金調達が有利になる
余裕資金は経営の健全性を計る要素でもあります。そのため、資金調達において余裕資金の潤沢さは、信頼を得るための重要な材料です。経営が安定している状態で資金を得ることで、投資と成長の好循環を実現しやすくなります。
2-2.弾力的な経営が可能に
キャッシュフローを重視することで資金(現預金)に余裕を持たせることができます。資金に余裕があることで、設備投資、株主や社員への還元など、施策の選択肢が豊富になります。資金をうまく活用することで、成長力を高められるでしょう。
2-3.黒字倒産のリスクが低減する
キャッシュフローへの意識が不足すると、経営状況は悪くないのに資金が不足して倒産してしまう黒字倒産のリスクが高まります。
キャッシュフローへの意識が不足することで生じる黒字倒産は、次のような状況で起こります。
- 金融機関からの借り入れを行う
- 仕入れを行う
- 掛け取引で売る(債権回収が先)
- 金融機関への返済や仕入取引の代金支払い時に資金がない
売上が立っていても、それが回収されなくては支払いに窮してしまいます。そのような事態を避けるためにも、キャッシュフロー経営を取り入れましょう。
3.キャッシュフロー経営の手法
キャッシュフロー経営では、運転資金としての現預金を把握しなければなりません。そのためにはキャッシュフロー計算書の作成が重要です。それによって、自社の状態を判断するキャッシュフロー分析も行えます。
3-1.キャッシュフロー計算書でキャッシュの動きを管理
キャッシュフロー計算書には3つのキャッシュフローがあります。3つの視点でキャッシュの流入と流出を把握し、状況に応じた管理を実施します。
キャッシュフロー区分 | 特徴 |
1.営業活動のキャッシュフロー | 本業による資金の動き |
2.投資活動のキャッシュフロー | 投資による資金の動き |
3.財務活動のキャッシュフロー | 資金調達による資金の動き |
3-1-1.営業活動のキャッシュフロー
営業キャッシュフローは本業での現預金の増減を示すものです。
営業キャッシュフローがプラスならば、本業で稼いでいることを意味します。逆に、営業キャッシュフローがマイナスとなると、本業で利益を上げられなくなっている、もしくは売上はあるのに資金が回収できておいないことを意味します。そのため、企業運営に難がある状態といえます。特に、持続的なマイナスは今後の経営継続が危ぶまれるでしょう。
3-1-2.投資活動のキャッシュフロー
投資キャッシュフローは設備投資や固定資産の取引といった、投資活動による現預金の増減を示すものです。新たな設備や機材の購入を行えばマイナスに、逆にそれらを売却するとプラスになります。
事業の成長やテコ入れのための投資は必要な施策です。そのため、通常の経営では投資活動のキャッシュフローはマイナスになることが多いです。
3-1-3.財務活動のキャッシュフロー
財務キャッシュフローは、資金調達の状況を示すものです。融資を受けて現預金が増えればプラスに、返済すればその分がマイナスになります。
融資によって一時的にキャッシュフローがプラスになっても、借入額の負担が重ければキャッシュフローを圧迫します。中長期的な視野で借り入れと返済の状況を管理していくことが重要です。
3-2.キャッシュフローの分析手法
3つのキャッシュフローの数字がプラスかマイナスかを見ることで、自社の経営状況を客観的に分析できます。代表的な分析例を見ていきます。
経営が安定しているパターン
- 営業キャッシュフロー:プラス
- 投資キャッシュフロー:マイナス
- 財務キャッシュフロー:マイナス
営業キャッシュフローがプラスなので、本業は利益を上げています。投資キャッシュフローはマイナスなので、設備投資等への投資も行っています。
また、財務キャッシュフローがマイナスですので、借入金を返済しているようです。本業の利益を投資と返済へ回しており、安定した資金繰りが行われていることが見て取れます。
成長に向けた試みを行っているパターン
- 営業キャッシュフロー:プラス
- 投資キャッシュフロー:マイナス
- 財務キャッシュフロー:プラス
営業キャッシュフローがプラスなので、本業は利益を上げています。
投資キャッシュフローがマイナスなので、すでに設備投資等は行っているようですが、財務キャッシュフローがプラスなので、追加の資金調達を行ったところだと推測できます。
今後の成長に向けて積極的に動いている段階です。今後、財務キャッシュフローがマイナスになることが予測されるので、返済と成長のバランスに留意します。
本業の利益が不足しているパターン
- 営業キャッシュフロー:プラス
- 投資キャッシュフロー:プラス
- 財務キャッシュフロー:マイナス
営業キャッシュフローがプラスなので、本業は利益を上げています。
投資キャッシュフローがプラスなのは設備投資等の売却を、財務キャッシュフローがマイナスなのは融資の返済を行っているからでしょう。本業の利益が足りず、資産売却で得た資金を融資の返済に充てているならば、本業の利益底上げや経営改善が必要です。
本業に不安があるパターン
- 営業キャッシュフロー:マイナス
- 投資キャッシュフロー:プラス
- 財務キャッシュフロー:プラス
営業キャッシュフローがマイナスなので、本業がうまくいっていない状況です。投資キャッシュフローはプラスなので、設備投資等の売却を行っているようです。また、財務キャッシュフローがプラスなので、追加の資金調達も行ったようです。
融資の後は返済が発生するため、本業の回復を実現しなければ経営が一気に悪化するリスクがあります。
4.キャッシュフロー改善の具体例10個
キャッシュフローを改善させる基本は、次の2つを実現させることです。
- キャッシュイン(現預金の収入)を早く/多くすることと
- キャッシュアウト(現預金の支出)を遅く/少なくすること
そのための具体例を10個ご紹介します。
【キャッシュフロー改善の具体例10個】
4-1.資金繰り表の作成
4-2.買掛金の支払期限を交渉
4-3.売掛金の入金期限を交渉
4-4.債権管理の厳格化
4-5.在庫の管理・圧縮
4-6.ファクタリングの検討
4-7.クレジットカードの利用
4-8.融資を受ける
4-9.補助金・助成金を受給する
4-10.M&Aを行う
4-1.資金繰り表の作成
資金繰り表とは、あらかじめ定めた区分や科目に基づき、現預金の収入と支出を一覧にした表です。過去の実績をまとめるだけでなく、今後の収支も記載するのが特徴です。今後の資金繰りの課題を可視化できるため、早めに対策をとることができます。
4-2.買掛金の支払期限を交渉
買掛金の支払期限を先延ばしできれば、資金繰り資金繰りは状況は改善します。ただし、取引先にとっては入金が遅くなることを意味し、難しい交渉になるでしょう。やみくもに交渉しても勝機は少ないため、それまでの支払いが安定しており、信頼関係を築けている場合に検討してみましょう。
4-3.売掛金の入金期限を交渉
債権回収までの期間が長いと、資金繰りが不安定になりがちです。回収前に想定外の支出がでたときに対応できないかもしれません。取引先と交渉し、回収時期の早期化に努めましょう。
ただし、回収時期が早期化すると請求作業も前倒しされることになります。経理部と連携し、納期を短くしたのに請求が間に合わない、といったことが無いようにします。
4-4.債権管理の厳格化
帳簿上で売上が立ったあとは、入金をチェックし未納があれば早期に支払いの催促を行います。一度催促しても入金がないときは、原則として繰り返し連絡することになります。時間が経つと事実関係が曖昧になりがちですので、早期、かつ毅然とした対応が必要です。
4-5.在庫の管理・圧縮
経費を削減することも重要です。過剰在庫は経費が増えるだけなく、維持管理の手間や保管にかかる費用も増えてしまいます。また、過剰在庫は陳腐化や品質劣化のリスクも生じます。
そのため、適切な仕入れ量に調整しましょう。また、すでに過剰在庫に陥っているときは在庫処分も検討します。
4-6.ファクタリングの検討
ファクタリングとは、売掛金を金融機関に売却し、本来の回収日よりも早く現金を調達することで、資金調達のひとつの手段です。
入金と金融機関による売掛金の信用度調査がありますし、手数料も発生しますが、売掛金と買掛金のタイミングが悪く、資金回収よりも先に支払いが発生するときに活用可能です。
4-7.クレジットカードの利用
クレジットカード支払いにすると、取引先との交渉不要で後払いが可能になります。また、多くのクレジットカードではポイントが貯まります。
ただし、利用するクレジットカードごとに締め日と引き落とし日が異なるため、事前によく確認しましょう。
4-8.融資を受ける
金融機関からの資金調達によって、資金繰りの改善を計ることができます。ただし、利子を含めた返済義務が生じます。また、融資には審査があるため、融資を受けられないかもしれません。審査に通った場合でも、希望額の一部しか融資されないことがあります。
4-9.補助金・助成金を受給する
国や地方自治体が主体となって運営する補助金や助成金によって資金調達する方法です。返済不要であることが大きなメリットですが、審査を経て受給することで企業としての信用度が上がる可能性もあります。
一方で、申請に手間がかかるケースも少なくありません。また、受給が決まっても入金まで時間がかかることもあります。手間をかけて申請する以上、事前に要件や受給時期を確認しておきましょう。
4-10.M&Aを行う
上述の方法は資金繰りの改善に効果がありますが、本業の業績が悪化している場合は根本的な解決になりません。そういった場合はM&A(合併買収)によって経営そのものを変化させる方法もあります。
倒産のリスクが高い場合でも、従業員の雇用を守ることができますし、知的資源も残せます。
5.キャッシュフロー経営を特に意識すべき企業
キャッシュフロー経営を特に意識すべきなのは、次のような企業です。
- 仕入れが多い
キャッシュアウト(現預金の支出)が大きい企業は資金繰りが悪化しやすいです。特に、掛け取引が多い企業は注意が必要です。日頃から、キャッシュフロー経営を取り入れることで、安定性を高められます。
- 設備投資が多く、かかる金額も大きい
適切な時に設備投資をするためには、資金に余裕が必要です。また高額な機器や設備は、故障によって想定外に大きな出費が生じることもあります。キャッシュフロー経営によって、大きな出費に備えられます。
- 創業期やスタートアップ企業
事業拡大のために金融機関からの資金調達を必要とすることが多いです。しかし経営実績が乏しいため信用を得るのは容易ではありません。キャッシュフロー経営を取り入れることで、安定性や健全性を示すことができます。
6.キャッシュフロー経営の注意点
キャッシュフロー経営の注意点は次の通りです。これらのマイナス面も考慮しながらキャッシュフロー経営を取り入れていくことが必要です。
- 短期的な機会損失の可能性
キャッシュフロー経営では資金の確保を重視します。そのため新たな投資や大規模な資金調達が抑制されるかもしれません。
- 経理業務負担の懸念
売掛金の回収期限を短縮したり、債権管理の厳格化をしたりすることはキャッシュフロー経営にとって有効ですが、経理部門の負担も増加します。
- 取引先との関係性
売掛金の回収期限の短縮や仕入れの適正化(縮小)は、取引先との信頼関係を損ねる懸念もあります。
7.キャッシュフロー経営も相談できる税理士事務所がおすすめです
キャッシュフロー経営は、3つのキャッシュフロー表を理解・分析する能力が求められます。また資金繰り表では今後を予測することも求められます。多方面のノウハウを持った辻・本郷 税理士法人なら税務・会計・経営と、包括的なサポートをご提供します。
キャッシュフロー経営についてお悩みの経営者様は、是非とも辻・本郷 税理士法人の顧問契約をご検討ください。
8.まとめ
キャッシュフロー経営を取り入れることで、自社の状況を客観的に分析できます。それによって事業の安定性向上や資金調達の可能性を高めることができます。もしも、資金繰り表の作成やキャッシュフロー分析に不安があるなら、税理士等の専門家の助けを借りながら、キャッシュフロー経営を実現していきましょう。