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振込手数料は取引でよく発生するため、正しい勘定科目について迷うことも多いかもしれません。結論からいうと「支払手数料」を使用しますが、買掛金と売掛金で仕訳が異なるので注意が必要です。正確に計上しないと、売り上げや支払いにおいてお金の流れを把握しにくくなってしまいます。
「支払手数料」がどのような勘定科目なのか見ていくとともに、振込手数料の仕訳例を売掛金と買掛金に分けてご紹介します。
目次
1.振込手数料の勘定科目は支払手数料
振込手数料の勘定科目は「支払手数料」です。支払手数料と振込手数料の概要は次の通りです。
1-1.支払手数料とは
支払手数料は、商品やサービス・事業上の取引に付随して発生する振込数料や、外部の専門家に支払う報酬を計上するときに使用する勘定科目です。
損益計算書上では、「一般管理費」に該当します。商品やサービスとは直接には関係のないとはいえ、企業運営上は必要な幅広い費用が一般管理費となります。
1-2.振込手数料とは
振込手数料とは金融機関の口座に払い込みを依頼する際に発生する手数料です。大きく口座から別の口座に金銭を払い込む「口座振込」や現金を払い込む「現金振込」があり、どちらも原則として振込手数料がかかります。実際の振込手数料は金融機関ごとに異なりますが、数百円程度のことが多いです。
また、取引においては原則として「買手(支払う側)」が負担するものとされています。
2.「支払手数料」の対象になる支出
振込手数料以外にも次のような支出が支払手数料で計上可能です。
- 代引き手数料
- 為替手数料
- 各種証明書の発行手数料
- 不動産賃貸の仲介料
- 事務手数料
- 登録手数料
- 解約手数料
ごく少額で、かつ単発で発生する手数料は「雑費」で計上することも可能です。ただし、雑費の総額や頻度が多いと、いくら何に使ったが見えにくくなり、帳簿の透明性が低下します。そのため、出来る限り支払手数料の勘定科目を使うといいでしょう。
また、一度支払手数料として計上したなら、それ以後も支払手数料を使用します。同じ取引を異なる科目で処理すると複数の科目に似た取引が分散されます。やはり帳簿の透明性が低下するため、避けなければなりません。
3.振込手数料の仕訳例【売掛金編】
売掛金が普通口座に振り込まれる場合の仕訳例を紹介します。なおこれ以後の仕訳例において、振込手数料は全て500円と考えます。
3-1.振込手数料が自社負担の場合
売掛金に対する振込手数料が自社負担の場合、振込金額から手数料が差し引かれた金額が振り込まれるのが一般的です。売掛金の金額が減る分は、支払手数料の勘定科目を用いて自社の費用とします。
- 売掛金10,000円に対し、振込手数料500円を差し引いた9500円が普通預金に入金された
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 9,500 | 売掛金 | 10,000 |
支払手数料 | 500 |
3-2.振込手数料が取引先負担の場合
売掛金に対する振込手数料を取引先が負担にする場合は、売掛金の代金が満額振り込まれます。そのため自社において、勘定科目「振込手数料」の仕訳はありません。
・売掛金10,000円の代金が普通預金に入金まれた
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 10,000 | 売掛金 | 10,000 |
4.振込手数料の仕訳例【買掛金編】
買掛金における振込手数料の仕訳例を紹介します。
4-1.振込手数料が自社負担の場合
買掛金に対する振込手数料が自社負担となる場合、自社側では買掛金の支払いと振込手数料の支払いを行います。
- 買掛金10,000円を支払い、振込手数料550円を負担
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 10,000 | 普通預金 | 10,500 |
支払手数料 | 500 |
4-2.振込手数料が取引先負担の場合
取引先には振込手数料を差し引いた金額を振り込みます。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 10,000 | 普通預金 | 9,500 |
雑収入 | 500 |
5.「支払手数料」と混同しがちな支出
支払手数料と混同しがちな支出について、原則的な勘定科目を紹介します。
5-1.専門家への報酬は「支払報酬」
弁護士や税理士、司法書士、社会保険労務士、もしくはデザイナーなどの専門家への報酬は「支払報酬」とします。「支払手数料」の勘定科目で処理することもできますが、次の理由により支払報酬を利用するのが一般的です。
- 振込手数料とは異なり源泉徴収の対象となるため
- 報酬を支払手数料とすると、支払手数料の総額が大きくなってしまうため
5-2.利子や利息は「支払利息」
金融機関からの借入金の返済に含まれる利息は「支払利息」で処理します。勘定科目としての支払利息は、本業以外で生じた費用である営業外費用に該当します。
5-3.販売に直接関連する販売手数料は「販売手数料」
商品やサービスの販売を促進するために、委託業者または委託会社や仲介人等の外部に支払うのが「販売手数料」です。「支払手数料」の勘定科目で処理することもできますが、販売に直接関連する手数料である点が支払手数料と異なります。
5-4.行政への手数料は「租税公課」
納税証明書や印鑑証明書、住民票などの公的書類を取得するときの手数料は「租税公課(そぜいこうか)」の勘定科目で処理するのが一般的です。事業に関連して支払った税金に広く使われ、印紙代や登録免許税も対象です。
なお、自動車での異動を要する業務において交通違反を犯して罰金等が発生した場合、罰金等を租税公課で処理することが可能です。
6.振込手数料はインボイスの対象になる
2023年10月からインボイス制度が施行されましたが、これまで同様、振込手数料は仕入れ税額控除の対象です。また、原則として買手側が振込手数料を負担する点も変わりません。
一方で、インボイス制度においては、適格請求書への適応が必要です。売り手側が振込手数料を仕入税額控除の対象としたい場合どのような取り扱いになるのでしょう。
6-1.適格請求書の発行を受ける方法
買い手側が振込手数料にかかった消費税の仕入税額控除を受けるためには、金融機関に適格請求書を発行してもらう必要があります。というのも、買手が支払った振込手数料は、売り手ではなく金融機関が振込手数料を受け取っているためです。ただし、払い込み方法により、適格請求書の取り扱いが変わります。
- 窓口で支払った場合
窓口で適格請求書を発行してもらいます。
- ATMで支払った場合
ATMの場合は、適格請求書がなくとも問題ありません。というのも、3万円未満の自動販売機や自動サービス機による商品の販売等は、適格請求書の交付義務が免除されるためです。適格請求書が発行されない分、仕訳の摘要欄等に詳細を記載しておくといいでしょう。
- インターネットバンキングを利用した場合
インターネットバンキングを利用した場合、適格請求書もオンラインデータで発行されるケースが多いです。電子データのまま保存しておけますが、電子帳簿保存法の保存要件を順守しなければなりません。
電子帳簿保存法の保存要件は、国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」をご覧ください。
6-2.少額特例該当事業者の少額特例
少額特例とは、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについては、適格請求書がなくとも仕入れ税額控除の適用が可能となる特例です。対象の事業者は次の通りです。
- 基準期間における課税売上高が1億円以下
- 特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者
ただし、本特例は2029年(令和11年)9月30日までの時限措置です。特例対象の事業者も特例終了後に備えて、金融機関に適格請求書の発行を依頼する手順は把握しておきましょう。
参考 国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要」
7.まとめ 勘定科目を理解して正しい会計処理をしよう
振込手数料は振り込みの度にかかる手数料です。勘定科目と仕訳を正しく理解することで、日々の経理処理のミスをなくしましょう。2023年10月からはインボイス制度も開始されたため、振込手数料の処理に不安が生じているかもしれません。もしも不安があるときは、専門家に確認し、正確な処理を確認することをおすすめします。